第9話 争いは静かに始まり

「とにかく皆さんいったん外に出てもらってもいいですかね?」

 

「何だおまえは。貴様、出て行けといったな。我らをヤグアーロ騎士団と知っての物言いか? いまなら、聴かなかったことにしておいてやるが」


 おい、どうすんだよ。 

 とりあえず司書さん無事でよかったけど、さっそく斬り殺されそうなんですけど。

 見ればやばい集団だってわかるだろ。

 あの紋章はどう見たって王国騎士団でしょう?

 逆らったら命がないって分からないかな?


「いやね、用があるなら開いてる日に来てくださいよって話をしてるんです。たしかに結構急に休館日にしましたけど、決まったことは守ってくださいよ。あなたたちが騎士団だろうがなんだろうが関係ないんです。分かったら早くでていってください」


 俺の願いも虚しく、司書さんは呆れた顔をして、団長の方をみてまるで学生をたしなめるように説教をたれ始める。

 いや、あんた最高の図書館司書だよ。

 でもさ、相手を考えろよ。

 

「貴様が職務に熱心なのは分かったが相手を考えて発言することだな。しばらくおとなしくしていろ。やつを抑えておけ」

 

 団長は司書さんの態度に驚いていたようだったが、すぐに騎士たちに司書さんを捉えるように命令を出す。

 司書さん万事休す。

 しかし、騎士たちが司書さんに近づいた時、その場の全員が予想しない事態が起きた。

 

 突然、司書さんの周りに黒い球体が発生したのだ。

 そして、その球体はかなりの速度で膨らみ、取り囲んでいた騎士団をすっぽりと包んでしまった。

 

 次の瞬間。 

 黒い球体が急速にしぼみ、しぼんでいく端から騎士たちがバタバタと力が抜けたように崩れ落ちていく。

 

 わずか数秒だった。

 それだけで王国最高の騎士団はかろうじて立っている団長を残して、全員が無力化されてしまっていた。

 

 俺は目の前で起こった現象を信じられないでいた。

 王国騎士団は大戦が集結した後も王国を守るために存在してきたこの国で最強の集団のはずだ。

 それが一瞬で倒されることなどあるはずがなかった。


「いやぁ、流石に大将は倒れてくれないか。でも、結構立ってるのもしんどそうだな。まぁ効いてくれないと困るんだが」


 司書さんはなんてことないようだ。

 一体どうして司書さんが騎士団を圧倒できているのか。

 それは団長も同じらしく疑問を口にする。


「おまえは何者だ……。どうやってこんな力……ぐっ」


 それだけ口にすると団長も他の騎士と同じように倒れ込んでしまった。

 俺はただ呆然とするばかりだった。

 そんな俺を気にもとめず、司書さんはイマルの方へ歩いて行く。

 

「あ、イマルさん? 待たせてしまって申し訳ない。お詫びといっちゃなんだが、お探しの本はまとめておいたから勘弁してくれ」


「あ、いえ、ありがとうござ……って、まとめておいたって、どういう……」


 イマルも司書さんの言葉に呆然とするしか無いようだった。

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