第1話っていうか導入

「はっはっはっ」


確実に追いつかれる。そもそもの体のスペックが違うのだ。まともに走っては勝負にならない。


「くそっ!レベルがあるってだけでこんな違うか!?」


何回も思い知らされている理不尽さを呪うが状況が変わるわけない。だんだんと呼吸がおかしくなっていく。それでも足を、手を動かす。


「ひゅっ、っ、はぁっ」


木によじ登って風船をとろうとする男の子を横目に見て。


「かはっ、はひっ」


鳥に襲われている老人を無視し。


「はっ!?あがはっがふっ!」


血まみれの子供のドラゴンに驚くがそれでも足を止めずに走り続けて。路地に入っていく。何故か発生した高密度住宅街の裏側へ、中へ。


「はっ……………はっ……………」


大きな壁にたどり着いた。路地の奥の奥の奥の裏の裏の裏。複雑で怪奇なこの街の路地を曲がりに曲がってたどり着けるこの場所は誰が作ったものなのか。スラム街の人間はよく利用している。


「はっ…………………………はあ。よし」


追手の喧騒が2本ほど路地を挟んだ所から聴こえてくるのに少し達成感を覚えて壁の一部を凹ませる。


がこんと扉が反転し、その路地から人の気配が消えた。





壁の向こうに続いていた下り坂のトンネルを抜けると、そこには街が広がっていた。地下なのに明るく、レンガ造りの家がいくつも立ち並んでいる。


いつ見ても見事だとため息をつくと、2人ほど話しかけてくる人物がいた。ガタイが良く、サッパリとした青年と、ジト目でこちらを見てくる女の子。


スザクとカエデである。


「よお。またおまえ外行ってたのか」

「ガキどもと遊びたかっただけなんだ。前に新しい遊びを二、三個教えてやったら懐いてきてな。なのに街のヤツら、近づくだけで追っかけ回しやがって……………」

「んー。カインは目つき悪いからなー。しょうがないなー」


レヴァクレス王国、その中心部。より正確に言うと、王城の下。そこにスラム街は存在していた。


「今度は目を隠しながら行くか……………?」

「見えないだろ。と言うか怪しさは増したぞ」

「変人だー。こりゃ追っかけるのもわかるぞー」

「うるっせえ!」


神から贈りレベルを貰えなかった忌み子達は、このスラム街に流れ着く。例えば、村から捨てられたり、例えば、貴族の家に生まれたのに忌み子だったからと言って地下牢に繋がれていたり。そんな子供たちはいつの間にかいなくなり、スラム街に流れ着く。


「ああ、そうだ。新入りが来たぞ」

「へえ。どっから?」

「うーん。どっからって言うと……………」


二人は指差し言う。


「「上から」」

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