魔法なんて1つでいい

熊野奈月

プロローグ

相手は剣を地面に向ける《下段構え》の姿勢を

とっている。彼からは獲物を見据えるように

その目からは殺気が伝わってくる。


俺は腰を深く落とし、攻撃の姿勢をとる。

足にグッと力を入れ、地面を蹴った。

相手との距離が一気につまる。

相手は剣を切り上げようと構えを固める。


俺は右手を引き、構えを取る。


そして、俺はその技を叫んだ。


速破拳そくはけん!!」


引いていた右腕を振り抜く。

相手は、こちらの攻撃が思ったより速かった

ため驚愕した様子で表情が硬くなっていた。

-いける。

そう確信し、弾丸のようなその拳は

相手の胸に届く……

はずだった。


瞬間、発砲音と同時に後ろに衝撃が走る。

《速破拳》が中断され、相手は距離をとるために後方に撤退した。


俺は、後ろを振り向いた。そこには、

狙撃銃スナイパーライフルを構えた女が

いた。そして、数発の発砲。

俺は咄嗟に左側へ旋回。地面に数個の穴が

できる。


「せいやぁぁぁ!!!」


急に叫ぶような雄叫びに驚き、即座に後ろを

振り向く。

そこには剣を振り下ろしてくる相手の仲間が

いた。咄嗟に防御の構えをとり、魔力マナを腕に集中させる。

とんでもない速度で迫る剣をなんとかガード

することに成功しが、1発がとても重い。

もちろん、これで安心はできない。

相手の猛攻は終わる事を知らなかった。

突き、切り上げ、水平斬り。

これらをギリギリで回避し、相手の縦斬を

薙ぎ払うように弾いた。相手はのけぞる。

もちろん、この隙を逃すわけにはいかない。

足払いで相手を転倒させ、空いている場所に

跳躍した。先程までいた場所に発砲音と同時に

数発撃ち込まれ、地面に銃跡ができた。


だが、俺の脳裏には疑問が浮かんでいた。

なぜ、相手が俺に集中攻撃ができるのか、だ。

その疑問はすぐにわかった。それは、


「あんた邪魔なのよ!どっかいっててくれる!?」

「主こそ邪魔じゃ。己の前から消えるがよい」


ここから少し離れた場所を俺は見据えた。

二挺拳銃を構えている赤髪のツインと

とても長い日本刀を構えている少女達が

目に映った。俺の仲間である。


喧嘩する彼女達を見て、はぁ、と

俺は手を額に置いてため息をした。


その時、ビィー!、と音が鳴った。タイムアップだ。

タイムアップの場合、攻撃回数、よりダメージを与えた方が勝ちとなる。

俺達のチームの攻撃回数は1回。

与えたダメージ0。

もちろん、負けだ。理由は明白である。


その場に謎の沈黙が生まれる。

そりゃそうだ、当たり前だろ、と

口ずさむ観客達。

勝った負けたに関わらず盛り上がりが

全くない。


そう、これが俺達の小隊の状態である。

俺は呆れた様子で彼女達に歩み寄った。

未だに喧嘩をしている2人に向かって。

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魔法なんて1つでいい 熊野奈月 @Kumanonatuki

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