第12話 訓練開始

俺がセミラミスと戦うと宣言すると、すぐに戦闘訓練を含めたスケジュールが組まれた。

 さすがに初っ端から一日中訓練、というのも厳しいし、今の知識のままこの世界で戦うのは色々と問題があるので、しばらくは午前中はこの世界について学び、午後に戦闘訓練をする、という流れになった。

 ある程度戦闘訓練が終わると、実際に王都に比較的近い部分での小競り合いをしている地域で戦闘をしたりもするらしい。

 そして、十分な力を蓄えたと判断した段階で、俺を軍に組み込んで本格的に『魔王』軍を倒す戦いに入るんだとか。


 そういうわけで、俺の『魔王』を倒す為の訓練が始まった。



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 午前中の勉強を担当したのは、ビッケというやや年老いた女性だった。

 これから主な勉強は王宮付きの図書館で行い、必要なら市井に出かけていく、という形をとるらしい。

 ビッケの説明はとてもわかりやすく、半日の短い時間であったが俺はこの国の置かれた状況をある程度細かく理解することができた。

 セミラミスはこの世界では大陸の南の方に位置するらしい。

 南に行くと海があり、その先にあるものは未だ発見されておらず、「この世の終わり」が待っているだとか、虚無の世界が闇として立ちはだかっている、だとか様々な学説が流れているのだそうだ。


 そして、この国が置かれている状況はカスパールから聞いた通り悪くはあったが、政府の対応がかなり早く、それでいて的確だったらしくそこまで絶望的ではなかった。 

 確かに人口は大きく減り、国境で小競り合いは行われているものの、未だに全面戦争として大々的に大きな戦闘は一回しか行われていない。

 国土も減ってはいるが、重要拠点は落とされていないので逆に守りを固めることができたらしい。

 もう一人の勇者ゼノビアのおかげで戦線は保たれており、国民の意識も悪い方向へは向いていないそうだ。

 経済状況や戦況は決して右上りではないし、滅ぶのも時間の問題ではあるが、暴動が起きない程度には国の状態は保たれている、というのが総評だろう。

 

 この国の政府優秀すぎないか?というのが俺の感想だった。

 俺に対する対応の良さと余裕も納得できる。



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 午後は魔術訓練と基礎体力作りだ。

 魔術訓練の講師は、やはりカスパールだった。

 カスパールと俺は王宮の中にある兵士用の訓練場の中にいた。


「前回の続き、と行きましょうかヨシノ様」

 

 この世界に来てから一番話している相手だったので、やはり俺にとってもカスパールはやりやすい。


「さて、ヨシノ様はかなり強力な魔力をお持ちだということがわかりました。あくまで鑑賞魔術である『極光』が攻撃手段になったことがそうですが、グギャアルが倒れたこともそれを物語っております」


 俺はカズパールにグギャアルの右肩の眼が俺を捉えた瞬間倒れたことを話していた。


「グギャアルの右肩の眼が発動させる魔法は恐らく『吸収』と呼ばれる魔法だと思われます。私は一瞬で倒されてしまいましたが、あれは生命の一部たる魔力が著しく枯渇したからでございます」


「『吸収』ってことは魔力を吸うんですよね、それって何より最強じゃないですか?」


「極めて強力な能力であることは確かですが、そうは行きません。『吸収』と言っても相手の魔力をそのまま自分のものにできるわけではなく、相手の魔力を自分の魔力と混ぜ、浄化した上で自分のものにします。ですので吸収する量をコントロールすることができないほど対象の魔力量が多いと、相手の魔力に飲み込まれて体が弾けてしまうのです」


「へー‥‥‥‥なるほど」


「『吸収』の使い手は魔力がそこまで大きくないことが多いですが、そこはさすがに『魔王』軍の席持ち。私の二倍はあろうかという魔力を持っていたので、私の魔力は吸収されてしまいました。逆に言えば、ヨシノ様はそんな相手が一瞬で弾けるくらいの魔力量をお持ちだということです」


 午前中の授業で少しビッケが話してくれたのだが、カスパールは国の中でも相当の魔術師だそうだ。

 そんなカスパールを圧倒する奴を圧倒するのだから、俺の魔力量は本当にとんでもないのだろう。

 間違いなくこれが俺が授かった転移チートってやつだろう。


「さらに、ヨシノ様の魔力量の証明の決め手が、魔力を自覚なされた瞬間です!」


 段々カスパールの口調に熱が篭ってきた。


「あの魔術院の数段にも及ぶ厳重な結界を、魔力を自覚した瞬間の暴走で壊してしまうなんて前代未聞です!あの時は結界が壊れてまずい状況に陥りましたが、本来は風が吹く程度の暴走がここまで大きいというのは、我々にとってはこの上なく嬉しい誤算なのです!!!」

  

 ここまで熱がこもるのだから、俺の魔力量は相当なものだそうだ。

 しかし、大分カスパールは鼻息が荒くなっている。

 少し気持ち悪かったので、俺が涼しい顔をしているとカスパールも我に返った。


「いや、失礼。少し興奮してしまいました。とにかく!ヨシノ様は才能なんて言葉では軽くなるくらい類稀なる魔術の適性をお持ちです、これからの訓練次第で、間違いなくセミラミスの希望となる力を身につけられるでしょう」


 それからカスパールは少し間を置いて言った。


「それでは、早速ですが魔術を使ってみましょう」


 俺がこく、と頷くとカスパールはそのまま続ける。


「魔術の発動に必要なのは、これから超常の現象を引き起こすという『認識』と、使う魔術のイメージ、そしてそれらを同調させる集中力です」


「‥‥‥‥なるほど」


「イメージと集中力はわかると思いますので一旦は割愛しますが、『認識』というのは、簡単に言えば体を魔術の発動に向けて切り替える、という行為です。それを行わずには魔術は発動しません。私の場合は合掌することが『認識』する証となっております」


「極光、とか仮面とか赤線とか言ってたアレはなんなんですか?」


「自分がどのような現象を起こすかを固定しやすくする、言うなればあれもまた『認識』の一種です。必須ではないですが、どんな魔術を使うかという『認識』は、魔術を発動させる大きな手助けになります」


 つまり俺が前回の戦闘で『極光』が使えたのは、合掌によって無意識下で魔術への『認識』ができていたことと、実際の魔法をカスパールに見せてもらったことでかなり鮮烈な具体的イメージが持てたからだろう。


「でも、俺、グギュアルの魔術とか試したけどできませんでしたよ」


「それはグギュアルは人間ではなく魔族で、我々とは異なる魔術体系で魔術を発動させているからです。我々の魔術と酷似した魔術を見かけることはありますが、その多くは魔族と同じ動作を人間が行っても発動することはありません」


 なるほど、と次は声には出さなかったが俺は納得した。


「しかし、イメージが重要とは言え、使える魔術は全くの自由でなんでもできる、というわけには参りません。ここからは集中力の話になるのですが、めちゃくちゃも効率の悪いイメージだと、魔術の発動に対してあまりに膨大な集中量が必要となって魔術が発動できないのです」


 魔術といえども何でもできるわけではない、ということか


「なので我々は先人達の残した実現可能なイメージやそれに伴う理論を術として継承し、それを改良しながら後世に伝えていくわけです」


 そこで一通りの説明が終わったらしく、カスパールはコホンと咳払いをしてこちらを見つめた。


「では、イメージと認識を大事にして『極光』をもう一度使ってみましょうか」


 俺は先日の戦いと、カスパールが見せてくれた『極光』を思い出して合掌した。




 これは後から聞いた話だが、この翌朝の王都の新聞では


「王宮に白い虹現る」という記事が一面を飾ったそうだ。

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最強勇者は幸せになってはいけないので中二病になった 茶湯 @satou912

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