第11話 王宮

シグムント王の挨拶に始まり何人かの王族の挨拶が終わった後、沢山の人々が俺に挨拶してきた。


「私は王専属書記官クトーショと申します。この度は我々の世界に来てくださりありがとうございます。その上『席持ち』を撃破してくださるなんて‥‥‥‥‥」


「セミラミス軍副将軍リヨと申す。この度のご活躍、副将軍として申し上げるべき感謝はいくらしても足りませぬ」


「財政官のキダワと申します。もう、本当になんと言えばいいのやら、ヨシノ様が来てくださって本当に良かった‥」


「ヨシノ様がいてくだされば我が国は救われます」

「これでこの国はもう安心だ」

「本当に感謝してもしきれない」


 俺がグギャアルを倒したことはもう知れ渡っているらしかった。

 しかもグギャアルというのは相当有名な敵だったらしい。

 皆一様に俺に感謝と期待を述べた。

 いや、期待じゃない、もはやこの国が救われたも同然と考えるほどに俺に大きな希望を見出しているみたいだった。

 この国はそんなにひどい状態なのだろうか。


 俺は小一時間の間、人々から感謝と期待に満ちた自己紹介を受けた。

 


「歓迎の宴のご用意をしております、こちらへ」



 その後、俺は宴へと招かれた。

 大きなテーブルが一つ大広間に設置してあり、その周りに五十席ほどの椅子が並べられている。

 テーブルの上には見たこともない食べ物や飲み物が大量に並んでいて、すぐに宴は始まった。

 集められた人は皆明るい顔で、雰囲気からしてお偉いさんばかりらしい。

 料理はどれも非常に美味しそうで、俺は躊躇しつつも、渡されたフォークのような食器で少しずつ口に運んでいった。

 エビともカニともつかないような大きな殻に覆われた甲殻類、牛肉のように見えるが魚のような味がする肉、海の香りがする甘いジュース。

 ジュースはアルコール臭がするものは断った。

 さすがに飲んだことのない酒を飲んでこの場で暴れたら、と考えるとさすがに飲む気にはならない。


 人々はさっきの挨拶ラッシュの延長のように俺に話しかけてきた。


「勇者様を召喚するとは聞いていましたが、いきなり『席持ち』を倒すとは驚きました。本当にお強いのですな!」


「いや、その時は本当に無我夢中で‥‥‥‥」


「ご謙遜なさるな!なんであろうと『席持ち』を倒したことは素晴らしいことですぞ」


 俺はずっと感謝と賛辞を受け続けた。

 


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥




 皆が一通り食べ終わり宴が一段落すると、テーブルの真ん中の席に座ったジグムント王が立った。


「皆の衆、今日は皆が本当に多忙な中、この様な時間を持てて嬉しく思う。そして、この機会をお与え下さった英雄、ヨシノ殿にも感謝を申し上げる」


 パチパチパチ、と拍手が起こる。

 俺は座ったまま軽くジグムント王にお辞儀をした。

 また拍手が起こる。

 隣に座っているカスパールは小声で、


「この国の王であるジグムント様が『殿』と呼ばれ、その御口から感謝される事はこの国では最上級の名誉です、そのくらいジグムント様はヨシノ殿に感謝してると思ってください」


 と言った。

 俺は戦慄し、立ち上がってお礼をしようとしたが、さすがにタイミングが悪かったのでやめた。


「さて、これからヨシノ様は我々と共に戦ってくださるそうだが。皆の衆、知っての通りヨシノ様は自らの故郷から引き離されたにも関わらず、我々と共に戦ってくださるとおっしゃっているのだ。そのご恩に失礼のない様、自身の持てる最大の敬意をヨシノ様に示し、全霊を持ってヨシノ様をお助けせよ」


 ジグムント王は威厳たっぷりに言う。

 それにテーブルの周りを囲む人々はうむ、と大きく頷いて頭を垂れた。

 俺は途中で、「戦うとまではまだ言ってないんですが‥‥‥‥」と言おうとしたが、そんな雰囲気じゃなかったのでそのまま空気に流されてお辞儀をしてしまう。

 それに、グギャアルを倒してしまった時点で、俺はもはや協力すると態度で示した様なものらしかった。


 ジグムント王の話が終わり、頭を上げた面々は再び食事に戻る。

 宴はその後1時間ほど続き、外はすっかり暗くなるとジグムント王が解散の音頭をとり、そのまま解散となった。

 俺はメイドとカスパールに連れられ、今日泊まる部屋へと連れられていった。



‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥



「ヨシノ様、今日は本当に申し訳ありませんでした」


 部屋について俺がベッドに腰掛けるけるなりカスパールは言った。


「ヨシノ様を危険な目に合わせてしまったこともそうですし、さっきの話を聞いての通り、皆ジグムント様も含めてヨシノ様の承諾が得られたと思い込んでおりまする」


「まあ‥‥‥‥どれも仕方ないといえば仕方ないことなので‥‥‥‥」


 俺はカスパールと話す機会があるなら言ってやろう、と考えていた文句を先に言われてしまい、少し引いて無意識に下手に出た。

 カスパールは常に誠意を見せ道理を通してくれるので、中々強く言いづらい。


「しかし、もしもヨシノ様が今後この国ついて知って、戦いたくない、とおっしゃるのでしたら私は全力でヨシノ様の助けとなりましょう。どうかそれでご容赦してはいただけませぬか」


 正直、さっきの様子を見るにカスパールの力などあの期待に満ちた面々の前でどれだけ意味があるだろうか。

 しかし、カスパールの表情はとても真摯で、本気でそう思っていることが伝わってきた。

 それに俺もあそこまで期待してくれる人々を前に「戦いたくないです」と言う度胸はない。


「‥‥わかりました」

 

 俺がそういうと、カスパールはホッとした表情をした。

 そしてしばらく間を置くと、言った。


「朝の襲撃で大分予定が狂ってしまいましたが、これからヨシノ様にしていただくことは変わりませぬ。これから数日はこの世界とセミラミスについて学んでいただこうと思っております。そして、その後に承諾がいただけたなら具体的な戦闘に関する訓練に移っていく、ということを考えております」


 俺は考えた。

 カスパールの提示する条件は、かなり公平で誠意を感じる提案だ。

 この国の人々も俺に対して相当な敬意を払おうとしているらしいし、王自らが出てくるということはやっぱりどこの国でも相当なことだろう。

 セミラミス以外の国が滅んでいる以上俺に逃亡と言う選択肢がなくて、それを知っているから俺に甘く接することができる、というのも確かだが、せめて俺に「納得」を与えた上で戦ってもらおう、と思っているのもまた確かだ。

 総じて、この国の人々は信用してもいいだろう。

 だから俺は言った。


「あの‥‥‥‥」


「なんでしょう?」


「俺、戦います」


「‥‥‥‥‥‥すみませんが、もう一度言っていただけますか?」



「----俺、決めました。セミラミスの為に、戦います」

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