第10話 王都
グギュアルを何故だか倒して半日が経ち、俺は王都に来ていた。
正しく言えば連れてこられたのだが。
俺はグギャアルが破裂した後、その生死を確認し、死んでいることがわかると緊張が解けその場に倒れこんだ。
それから後、王国の援軍部隊と思しき人達がやってきて俺を保護した、というのが俺が現在王都に来ている経緯である。
馬車ならぬ馬っぽいトカゲが引っ張る車に乗せられて俺は王都の門をくぐった。
王都の街は赤い屋根の建物で彩られている。
昔テレビで見たトルコの首都アンカラが一番近いイメージだろうか。
「すげー‥‥‥‥」
俺は馬車、もとい竜者の中から街を眺めていた。
今は住宅街と思わしき場所を抜け、大きな建物が並ぶ王都の中心地らしき道を進んでいる。
「あんまり顔を外に出さないでください、ヨシノ様は重要人物なのです」
竜車は全部で三十台ほどあり、列をなして王都を進んでいた。
道行く人々は竜車の通る道を邪魔しない様に道の端を歩いていたが、それ以上に沢山の人々が竜車行列を見物するために道に集まっていた。
俺はその列のちょうど真ん中あたりにいるらしく、前にも後ろにも同じくらいの長さの列が見える。
「まあまあユルト、いずれはヨシノ様がいらっしゃっていることは公表するのだ。それに三十台もの大行列とくれば前々から騒いでおった勇者召喚の話とはすぐ結びつけられてしまうであろうよ」
カスパールはユルトに言った。
グギュアルとの戦いで倒れ死んだ様に見えたカスパールだったが、援軍が到着すると目を覚ました。
しかし、意識はあれど非常に疲れている様で、俺が保護された時には全く立てない状態で、今も竜車の中で横たわり、頭を枕に置いている。
魔術院の他の人たちは瓦礫に巻き込まれて数人の死傷者は出たものの、多くは無事だったそうだ。
「しかしヨシノ様、よくやってくださいました。魔王軍第十三席撃破、と言えば王都での勲章ものですぞ」
「いえ、無我夢中で自分でも何をやっていたかよくわかってないんです。ただ魔術を使えば助かる、と信じて必死になっていただけなんで」
「しかも『極光』で相手を攻撃したなど聞いたことがございませぬ。あれは大魔術ではありますがあくまで催事の時にその場を盛り上げる為に使う魔術で、攻撃能力などありませぬ。おそらくはヨシノ様の魔力量によって攻撃として成り立つほどの熱を帯びたのだと思うのですが」
カスパールが何やら褒めてくれ、俺は少しいい気分になった。
カスパールは竜車に乗ってしばらくすると、俺に何が起こったのかを話してくれていた。
そもそも、あの魔術院は国境と王都の真ん中あたりに位置していた建物で、場所は秘匿されている王国最大の研究機関だったそうだ。
俺の召喚が行われたのもそれが理由で、俺がどんな力を持っていても敵勢力に探知されずに済む、と言うことだったらしい。
しかし、俺が魔力を自覚した際にその影響で幾重にも重ね合わされていたバリア、みたいなものが破壊された。
そのせいで一番近い国境周辺の小競り合いに出てきていた強力な敵が俺の方へ先行し、魔術院が襲撃された、というのがことの顛末らしかった。
カスパールにはその後こちらの想定不足が原因だと何回も謝られた。
「というか、今から俺はどこに行って何をするんですか?」
俺はカスパールに尋ねる。
「おお、言っておりませんでしたな。王宮です。そこなら魔術院に劣らぬ設備もありますし、これからやっていただく予定だったことも大体は可能ですので」
カスパールはそのまま続ける。
「ヨシノ様がいらっしゃっていることも起きたことも報告しております。安心して王宮には入って頂けます」
やっぱ王宮とかになるのか。
王への接見とかするのかな?
そんな想像をしていると、本当に美しいどこからどう見ても王宮な王宮が見え始めた。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
王宮の敷地に竜車が止まると、俺はユルトに連れられて竜車を降りた。
近くから見ると本当に大きな王宮で、一望しただけでは全体が見えないほど巨大だった。
すると王宮の入り口らしき門から、腰に剣を刺した男達が足を揃えて行進をしながらこちらに向かってくる。
やはり兵士だろうか。
兵士達は俺が降りた場所から王宮へ入る門に向かって、二列に並んで俺が通るための道を作る。
「「「ヨシノ殿のおなぁぁぁぁぁぁりぃぃぃぃぃぃ!!!」」」
そして全員で声を張り上げた。
急に前に並ばれて大声を出されたので俺は驚いた。
歓迎されているらしいが、俺は少し引いてしまった。
「お、おう‥‥‥‥」
王宮の門が開く。
どうやら俺にここまで入ってこい、ということらしい。
ユルトは俺の目を見て、ついてきてください、と小さく言った。
俺はカスパールの方も見たが、カスパールも同じように行きなされ、と口を動かした。
王宮の門をくぐり、数段の階段を上って扉の前まで行くと二人のメイドが門の前で待っていた。
魔術院で俺を客室に連れて行ってくれたメイドと似た様な格好だった。
「「ようこそいらっしゃいましたヨシノ様」」
その二人は扉の取っ手に手をかけて扉を開ける。
そして開いた扉の向こうに見えたのは大広間で、そこには何人かのカスパールと同じ様な格好をしている人たちと、煌びやかな服装をしている一人の人物が立っていた。
その人物は俺を確認すると、顔に笑顔を浮かべてこちらの方へ歩いてきた。
「ようこそヨシノ殿。私は賢王国家セミラミス二十六代王、シグムントです」
王は、貫禄のある低い声で俺を歓迎した。
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