第34話 ~エピローグ~

最終エピソード 『病の雪花』


 

 ……涼やかな風に夏草の揺れる、草原。

 小高い丘の上に、愛する土地を見守るような墓石が一つ、その土地の人々からは忘れられてしまったかのように、静かにそこに在った。

 丘のふもとに一頭の黒い豹が寝そべっている。

 墓石の前に、一人の青年が佇んでいる。


 ――あの時、オレは何としてもキミを止めるべきだったのかな……?


 流れる緑の波が足元を抜けるたびに、その漆黒の髪もふわりと靡いて揺れる。

 少年の容姿を持つ美しい青年はおもむろに右手を伸ばした。

 ゆっくり開かれる、五本の細い指。

 “エメラルディア王家”と銘を打たれた墓碑の上に、一輪の白い花のような髪飾りがそっと置かれた。

 彼は少しの間そのまま眼をとじていた。やがて静かに瞼を持ち上げると、ゆっくり辺りを見渡す。


 どこまでも広がる青々とした草の海。


 遥か彼方に薄っすらと波打つ山々。


 澄み切った水色の中を泳ぐ真っ白な雲。


 心地好く肌を撫でるそよ風……


「世界はこんなに優しいのに…………キミがいないよ」

 哀しみに満ちたその声が溶けて流れる。


 少し強く吹いた風に乗って、千切れた夏草が舞い上がっていく。

 黒曜石の美しさを湛える二つの瞳は見送り続けた。それが自由に空を翔け、雪のような雲に吸い込まれていくまで。





                               <完>


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Florally -最強の将- 仙花 @senka

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