第33話 <跋文>

(帝国歴462年 春)


 ……帝国国立図書館の片隅にて史書『フローラル戦記』の裏表紙を閉じると、私は眼を瞑って百四十年近くも昔に生きた人々へと想いを馳せた。特にダナス地方の悲しく、勇ましく、そして豊潤なその歴史をもっと深く知りたいと強く思った……。

 こののち私は何日もかけてダナスに関する文献を残さず読み漁り、それから遥か東方にある彼の土地まで旅をした。

 今も続く古貴族のオルトラス家やスタンフォード家、また元王族のデイナス家なども訪ね、どんなに細かな史実も漏らさず集めていった。その過程での様々な出来事……スピナー・フォン・オルトラスの日記に出会えた時の感動や、ダナトリア山脈麓の聖騎士慰霊陵墓と渓谷入口の雪花平和祈碑の前に立った時の感慨は生涯忘れられないだろう。


 調査と研究に没頭した数年を経て、ようやく私はこの小さな屋根裏でダナス十年戦争終結時の出来事を物語に起こした。それがこの拙著『Florally』。副題に『最強の将』と打つことは初めから決めていた。彼らにたくさんの強さを教わったから。

 一つでも遠い国まで、一人でも多くの人までこの本が届き、忘れられてはならない生き様を受け取ってくれることを願って跋文とする。


 彼の十年戦争を闘った全ての兵士や将、王族、戦火の日々を生き抜いた民へ、許されるならば心からの敬意を以てこの本を捧げたい。

 加えて、嘗てこの西方へ移り住み、ささやかな家族と、私がダナス国を知る切っ掛けとなる一冊の日記を遺してくれた我が先祖……ランサー・セイルにも。貴方と同じこの赤い髪を今は誇りに想う。


 そして最後に……

 “願い”と題されるリリー・フローラ・フィル・エメラルディアの美しき肖像画を描き、その姿を後世に届けてくれた隻眼隻脚の画家エド・ナスラにこの上ない感謝を。




                        著者ミラー・セイル

                        帝国暦467年5月20日

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