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ザッザッザザッッザッザザッザザ…



暗く凍える夜の砂漠。

老齢の二人の男の姿があった。

その身はスラリと高く、暗闇に隠れるように暗く、焦げたパンのような色の迷彩服が完全に砂漠と同化していた。服を纏っていながらその姿は精密機械のように無駄がなくからだにはりついており、人間としての本来のカタチをそのままに表現していた。


白髭を蓄えた方の男が落ち着いた調子で口を開く。

「今回の標的は狙撃手だそうだ」

コォ__

呼吸するように、目が隠れるような髪をした男が答える。


「そこの三日月砂丘バルハンで一度確認するぞ」

コーォ__


 二人とも頸から腰まである、薄いボロきれのような外套を羽織っている。温もりを奪い去って行く無慈悲な風に靡き揺れていた。迷彩を無下にするようなその赤黒さは、砂漠を満たした蒼と対比し不思議と美しさを連想させる。


外套を染めたものは血。幾重にも塗り重ねられたヒトの鮮血により、染め上げられた迷彩。

人が纏う衣には意味がある。

寒さを凌ぐため生地が厚いもの。

身を隠すために背景と同化するもの。

激しい動きに耐えるための柔軟性に富むもの。


そして、他者に己の価値を有りの侭伝えるもの。


幾星霜もの間、彼らは暗殺を家業としていた。殺し、流れ、殺し、流れ。彼らは首という首を狩ってきた。誰しもが無色でこの世に生を受ける中、彼らはすぐに黒へとその色を変えることになる。


||____ 1 ____



祖国、王政への叛逆。

戦時の中、彼らの心は抑圧、弾圧され、不満や不安を募らせた。

戦争に明け暮れていた王の圧政は凄惨なものであった。戦時中とはいえ人員は足りず、占領国から得られるものものも少なくなり、現状の維持もままならくなった末に王は一つの法令を下す。



老若男女や貧富に問わず、天上の民にしか賄えぬような税を課し、払えぬものは徴兵された。下界の民は大いに叛乱した。

兵役から逃れるために犯罪に手を染めた者もいた。

帰る場所を捧げ、その身一つで生き残ろうとした者もいた。

子供も置き去りにして、亡命しようとし殺されたものもいた。

もはやそこには秩序はなく、混沌であった。


一方の王は内部に目を向けることはなく、遠い理想郷を夢見て手駒を遥か彼方の地へ進軍させていたのだ。万物の理を求めたか、果てなき財を求めたか、その真偽はわからない。ただ、王はにしか眼を向けていなかった。


では民衆が秩序なく暴徒となったが、ある日を境に怨嗟の渦は崩壊を始めた。


一人の少年がの民をまとめ始めたのだ。

「王を落とし、国を変えたい」と


最初は餓鬼の戯言だと笑うものもいたが、彼を王にしたいと、忠を尽くしたいと頭をさげるものもいた。少年の信念は国内に瞬く間に広がっていき、やがて、戯言だと思うものはいなくなった。

十にも満たぬ小童であるにもかかわらず、地に響き渡るような怒号は下界の民を震わせ、言霊は多くの民の心を撃ち、真摯に王政へと立ち向かう姿に魅せられ、王民は一つとなったのだ。


そして、城への進軍は始まる。


民達は果物もろくに切れぬナイフやレンガ、鉄クズなどを手に持ち王の館に進軍し、人海の波に任せ近衛兵の動きを封じた。

全ては、たった一人の少年を王の元へ導くために。

腐敗しきった国を壊すために。

新たな王へ未来を託すために。


____ 1 ____||


だが、少年は王にはならず、国は滅びることとなる。

少年は、今では白髭の老体となり、腐った者たちを闇に葬ってきたのだ。


しかし、彼らとて狂人ではない。

仕事で得た財は貧困の民のために捧げ、渡り歩いていたのだ。

彼らの持ちうるものはその身と血塗られた外套のみ。

「善」のために「悪」に染まる。

彼らが王政への反逆で得た一つの生きる道である。誰が異論を投げかけられようか。


「どうだか?」

コッ__コッ__

「そうか、もう少し進んでみよう」


彼らは歩みを止めない。彼らにとっては「生」を実感できるのだから。


コッ_!!

「ん?」


男の叫びが聞こえた。

白髭がその頸を向けた時、


瞬間にしてもう一人の男の身が爆ぜた___

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