満月の二人

竜聖流

第1話

なぜだろう。

昔からアイツの事が憎たらしいのは。

自分でもわかってるよ?

これが好きなんだって。

恋なんだって。


でも私にはアイツを好きになる資格なんてないし、アイツは私なんか好きじゃない。


いつも近くにいるけど、遠くにいるんだよ。


ねぇ?気づいてよ。

私の気持ち...。


「おーい。柚ー?」

「はーい。なんですかー?キャプテン」

私はどこにでもいる女子高生、越水柚。

バスケ部のマネージャー。

中学までは自分もしてたんだけど、足を痛めたのと、高校には女バスがないからやってない。

「柚、俺のにスポドリ入れといて」

「はーい」

女子の大半は帰宅部だから私みたいなのは珍しい。

「柚っ。俺のにも入れといてっ」

「はい、センパイ。入れておきましたよ」

「あー!無視すんなよー、柚ー」

「渚月はまだ動けるでしょ?それぐらい自分でしなさいっ!」

コイツは渚月。

私の幼馴染みで、バスケ仲間だ。

そして私の好きな人。

「ははっ。柚ちゃんは渚月に厳しーな」

「センパーイ、笑ってないでなんか言ってやって下さいよぉ」

「お前は俺と違ってまだ若いんだから、自分でしろよ。ははっ」

「はいっ。渚月の分、特別だからね?」

私が渚月にスポドリ入りの水筒を渡すと、もの凄く可愛らしい笑顔で、

「ありがとっ!柚!」

と言って水筒を受け取った。

そんな笑顔するなんてズルイよ。

ますます好きになるじゃん。


ピーッと顧問の笛が鳴り、今日の練習はここまでなと言い、終わった。


「よいしょっ」

十九人分の水筒を持つのはかなりキツイ。

「ったく、無理すんなって。いつでも俺を頼れよっ」

渚月が後ろから出てきて、水筒の入った箱を持ってくれた。

「え、いいよ。渚月疲れてるでしょ?」

「いいって、どうせ部室いくだろ?そのついでだよ」

そんな優しいところも好きなんだなぁと改めて実感した。

「ありがとね、渚月」

素直にお礼を言った。

「っ。別に」

渚月は少し照れてる感じがした。

普段からお礼を言われなれてないのかな?と思い、笑ってしまった。


コンコンと部室のドアをノックして、入った。

「失礼しまーす。むっ、センパイ達、この前も言いましたけど制汗剤やスプレー使う時は窓を開けてください!」

「ごめんごめん、めんどくさくってさ。柚ちゃん開けといてくれる?」

分かりました、と言って窓を開けた。

外の空気が美味しく感じられる。スプレーの匂いは嫌いなのだ。

「柚ー、テーピングしてくんない?」

「はーい、今言ったのキャプテンですか?」

「うん」

その声を元にキャプテンの定位置に向かう。

「シュートの時にさー、ぐねってなったんだよー」

「気をつけてくださいね。キャプテンがいなかったら、バスケ部のアホ渚月をまとめる人がいなくなりますから」

「なんだとー!」

「ホントのことでしょ?」

「俺はバカだけど、アホじゃねーよ」

そういう言い合いをしていた間にテーピングが終わった。

「ありがとっ」

「いえ、お安い御用です。早く帰って下さいよー。鍵閉めるの私ですから」

はーい、という全員の声が聞こえた。

するとブーッとポケットに入っているスマホが鳴った。

なんだろうと思い、開くと渚月からのLINEだった。

『プール前で待ってる』

その一言だけが書かれていた。



「何?プールで待たせて」

「早くこっち来いって!」

「はあ?」

思わず声が出てしまった。心の声が。

渚月が来いって言ってるのはプールサイド。

「ちょっと、なにやってるの!先生に怒られちゃうわよ!」

「バレなきゃいいんだって」

半ば強引に私の手を引っ張り連れていかれた。

そこにはプールに反射した綺麗な満月があった。

「綺麗...」

「だろ?柚に見せたかったんだ」

ニコッとまた可愛らしい笑顔で私に話しかけてくる。

今なら告白できるかな?自分のこの気持ち。

「あのね、渚月!」

「しっ!」

そう言って渚月は私をプールに押した。

「ぷはっ。何するの!んぐぅ!」

渚月もプールに入り、私と一緒に顔を沈めた。

息をせずに潜っちゃったから、長くは続かない。

渚月を見ると、見張りが来た、と目で訴えている。

いや、でももう限界。

怒られてもいいから息がしたい、と思って顔をあげようとすると。

口に空気が入ってきた。

暖かいものが唇に当たってる...?

気付いた。渚月の唇だ。

もしかして、助けてくれた?

いやそんな事よりキスだよ!これ!

「ぷはっ!はあはぁはぁ...」

見張りの先生はどこかへいったらしく、ようやく顔を挙げられた。

「......」

「......」

キスのことがあってか、無言のまま。

「あ、渚月!あの、えっと...」

「悪い。キスなんかして」

「ううん!大丈夫だよ...。あと、助けてくれてありがとう...」

「......。お前さ、好きなヤツいるだろ?」

いきなり渚月の口からそんな言葉がでてきた。ビックリしすぎて、なんで知ってるの!?って答えてしまった。

「やっぱりか...。キャプテンだろ?」

「へ?なんで?」

「お前いつもキャプテンだけ特別扱いだし、分かりやすいんだよ」

「ち、違う!私が好きなのは...渚月」

「は?聞こえねーよ」

「渚月が好きだから!!」

こ、告白してしまった。

絶対フラれるよ。失恋かぁ。

長い恋だったなぁ。

「俺もだよ。」

へ?今、なんて...?

「俺もずーっと柚のことが好きなんだ」

う、そ...でしょ?

「ふぇっ」

嬉しいのとビックリで涙が出てきた。

「な、泣くなよぉ!と、とりあえず付き合ってもいいか?」

「う、うんぅぅ。あっあたし、小学生の時からずーっと好きだったから、やっと好きって言えて、あと、好きって言ってもらって、もう頭がパニックで...」

「なら良かった」

そう言って渚月は今までに見たことないような優しい笑顔で私の手を握ってくれた。

「あとさ」

「?」

「も、もう一回キスしてもいいか?」

「え、まだそれは、こ、心の準備が、だから、だめっ!」

「ごめん。聞こえなかった」

「〜っ!!」

晴れて幸せになった私たちを満月が光で包み込んでくれた。

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満月の二人 竜聖流 @Takuan87

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