食に関心が無い中年男性サラリーマンが、新人女性の弁当をきっかけに自分自身を見つめ直していく。
見つめ直すまでの過程と心理描写が丁寧に詳細に淡々と描かれ、最終話ではホロリとした気持ちになった。
自分を見直すきっかけを手に入れた男性は幸運だろう。
また、自分を評価してくれる相手と出会えた女性もまた幸運に違いない。
日々の生活の中で、私達はいろんな人と出会い、大小様々なイベントがある。
その中で自分を見つめ直すきっかけは数多く存在しているのかもしれない。
しかし、それに気づかずにすごしているのかもしれない。
そういったことを感じ、出会いにしろ出来事にしろ、自分の糧にできるといいなと。
また、誰にも話せなかったことを話せた男性はきっと食にも関心を持てるようになるのではないかとも。
日常には実は特別が転がってるのかもしれないと感じられる素敵な作品でした。
ちゃんとしたものが食べたいと、唐突で強烈な衝動が起こった。
しかし、ちゃんとしたものって何だ? 彼自身、わからない。
とりあえず買い物に出てみたところで、その場面に出くわした。
同じ部署の新人女子が男に振られ、弁当を捨てようとしていた。
38歳独身、仏頂面ながら皆に信頼される、総務部の「出来る男」。
それが新人女子の弁当ひとつで、自分を見つめ直してしまう。
人生に楽しみは必要なのか? 料理の味の美味さって何だ?
中年男の憂鬱の奥に、脆くて臆病な少年のような素顔が覗く。
静謐で端正な筆致は本作でも健在で、やはり巧い。
著者の作品はどれも、安心して読ませてもらえる。
何かが大きく変わったり動いたりはしない物語は、
じれったくて、かけがえがなくて、温かい。
「美味しい」の意味を探している人に、ぜひ。