エピソード3 タオ編 「わかんねぇよ。何で玉手箱を俺らにくれたんだ?」

そんなこんなで、圧倒的に不利な状況でヴィランの大群と戦うハメになっちまった。


「タオ兄、ファイトです。おー。」背後からシェインの応援が飛ぶ。

おう、任せとけってんだ。タオファミリーの大将としてここは引くわけにはいかねぇ!


先頭のヴィランをドンキホーテの槍で串刺しにする。

素早く引き抜いてお嬢(今は眠りネズミの姿だが)の方に行こうとするヴィランを盾を寝かせて薙ぎ払う。振り向きざまにもう一体を石突きで突き伏せ、素早く状況を確認する。

エクスがコネクトしたジャックは小回りの効く分、何とか凌げそうだ。しかし、眠りネズミの杖は打撃系。水中では身を守るのが精一杯だろう。まして後ろの2人は敵に詰め寄られたら最後だ。


「せめて水中戦に有利な編成に変える時間があれば良かったのに。」

今さら言っても始まらないさエクス。確かにカメから水に潜ることを聞いてりゃ状況は違ったかも知れないが。。。


「いや、まてよ、まさか!」


「何よタオ、急に大声を上げないで!ビックリするじゃない」辛うじてヴィランの爪を杖で受け流しながらレイナ。


「浦島太郎の職業は何だ!」

くそ、だんだんみんなを守るのも厳しくなってきやがった。


「漁師ね」とファム。

「それと腕利きの料理人さんらしいです。」シェインが補足する。


だろ、どちらも魚の天敵じゃないか!


「考えてみりゃカメを助けたくらいで魚の棟梁の乙姫が漁師をもてなす筈がない!」日頃の怨みを晴らす為に誘い込まれたに違いねぇ!


「そうすると私達の内で一番怨みをかっているのは…」

みんなの視線が1人に集まる。

「え、僕っ?」

「確かにエクスが一番たくさん魚を食べてたわね。ご愁傷様〜。」


いや、笑いごとじゃないぜ。騙されたんだよ、あの可愛い顔したお姫さんに。彼女がこの騒ぎの黒幕、カオステラーに違いない。

現にこんな修羅場になっても顔色一つ変えずに、、、ん?蒼い顔をして震えてる?


次の瞬間、乙姫が良く通る声で叫んだ。

「浦島さま、助けてください!」

は?今、誰に助けてって言った?


「おうよっ!いま行くぜ!お姫様!」

野太い声と共に赤銅色の巨体が荒々しく広間に乱入した来た。

「まったく化け物ども、ワシに二日酔いになる時間もくれんつもりか?」

言いざまに俺の背丈ほどもある特大の銛を打ち込む。つぇぇ。一突きで2体のヴィランを串刺しにしやがった。

男の肩は筋肉で異様に盛り上がっていて、水の抵抗など苦ともせずに銛を振るっている。

背丈は俺より頭一つも低いが、胸板の厚みがまったく違う。後ろで乱暴に纏めた長髪が銀鱗のように翻るたび、一体、また一体とヴィランがその数を減らしていく。


なあ、あれって、

「話の流れから察するに、あれが浦島太郎でしょうね。何というか、シェインが想像してたのとずいぶん違いますが。」

「あの人が料理を?なんかちまちまと野菜を刻む姿が想像出来ないわね。」

「何にせよ助かるよね。この戦力は大きいよ!」


「おいこら、小僧どもっ!さっきからくっちゃべってばかりおらんで、少しは働かんか!最近の若い者は口ばかり達者で敵わんわっ!かっ!」おっさんに蹴られたヴィランが煙となり、水に溶けて消えていく。


怒鳴りつけられて俺の血も沸き立った。

上等じゃねぇか!タオファミリーを見くびるんじゃねぇよ!

喧嘩祭りの始まりだぁ!


再び勢いを盛り返した俺たちが残りのヴィランを一掃するまで、もうそれ程の時間はかからなかった。



「すまない。俺の勘違いで、本当に失礼な事を言った、許してくれ。」

静かになった大広間で俺は乙姫に謝罪する。


「お詫びを申し上げるのはこちらの方です。お客様を危険に晒してしまったのですから。」

それにしても、俺に人を見る目がなかった。恥ずかしいぜ。

「あの状況では誤解されてもやむを得ません。」と乙姫。

「ただ、一つご理解下さい。浦島様が私どもの眷属である魚を殺めたとてそれでこの方を怨みはいたしません。それは生業としてなされた事。例えるならマグロが生きる為にイワシを食べる様なものですから。」

そんな例えがあるんだな。

「それに浦島様は雨の日も嵐の日も1日も欠かさず浜辺で海とその生き物に祈りを捧げて下さっていました。こうしてお会いする前から誠実な方とお慕い申し上げておりました。」


「そこであの黒スケどもがカメを襲っているのに鉢合わせたわけよ。だが、海の底から見られてたとは知らなかったけどよぅ。」

おい、おっさん、年甲斐もなく赤くなってんじゃねー。そのゴツい顔で照れても可愛くない、というかヤニ下がってしか見えないしよ。


「ごほん。まあ、もういいじゃねぇか、お姫様もああ言ってくれてるしよ。なかなか見事な戦いと謝りっぷりだったぜ。」照れ隠しの様に浦島が俺の肩をバンバンと叩く。


「正直、お姫様を侮辱しやがった時には三枚におろして舟盛りにしてやろうと思ったけどよ。ガハハハ。」

こいつ、本当にやりそうで怖いぜ。


「それよりヴィランと言ったか?あいつらを消し去る方法があるんだろ、詳しく聞かせてくれや。」

レイナが頷くと問われるままにヴィランの事、カオステラーの事、調律の事を語りはじめた。



話を聞いた浦島太郎は直ぐに帰る決断をした。

「だってよ、そのカオステラーとやらを倒さない限りヴィランはいつまでも湧いてくるんだろ。」

「いけません、帰ってもきっと辛い事になりますよ。」必死で引き止める乙姫様にガンとして首を横にふる浦島。

乙姫もついに折れ、「本当に辛い時はこれを開けて下さい。それまでは決して中を見てはなりませんよ。」と玉手箱を渡してくれた。


その玉手箱が今、カメに乗って地上に帰る俺たち一人一人の手元にもある。


「大盤振る舞いね。全員にお土産をもたせてくれるなんて。」

「玉手箱の中身、どんなお宝なんだろうな。」

「あの乙姫様が渡してくれたのよ。きっと物凄く価値のあるものよね。」

「辛い時に開けてって、どういう事だろう?何か癒し系のアイテムなのかな?」

「振っても音はしませんね。うぅ。開けるなと言われるとよけいに開けたくなります。」


「おいお前ら、その玉手箱は本当に開けない方がいいぜ。」

先頭を進む浦島太郎が振り返えらずに言う。


「浦島さん、玉手箱の中身を知ってるの?」


「ああ。」エクスの問いかけに浦島が元気の無い声で答えた。

「運命の書の通りならよ、竜宮城って時間の流れ方が違うんだわ。」

へ?


運命の書とは想区の一人ひとりが生まれた時に与えられる一冊の書物で、生まれてから死ぬまでの全ての出来事があらかじめ記されている。想区の住人はみなその運命に従って命を全うするため、将来起こるべき出来事もみな把握していても不思議ではない。カオステラーに運命を狂わされない限りは。


「実は竜宮城で過ごす数ヶ月は地上では何百年でよ、地上に戻ったら誰も知ってる奴は居ないんだわ。」

まじか!それじゃこの玉手箱は?

「開けると真っ白な煙に包まれてな、瞬く間に腰の曲がったお爺さんさ。」


ええ〜!


「ちょ、ちょっと、何でそんな大事な事を今頃いうわけ!やだぁ、まだお婆さんにはなりたくないよ〜。」

「落ち着いて下さい、姐御。カオステラーが発生した以上、運命の書と同じことが起こるとは限りませんから。」とシェイン。

「そうね、逆にすっごく若くなるかもよ。。。2、3歳くらいに。」

「それも、いやっ!」

おい、ファム、そりゃ慰めになってないぜ。


じゃあ、おっさん、今から帰っても地上は!


「一晩だよ…」

ようやくこちらを振り向いた浦島太郎の眼が赤い。まさか、おっさん、泣いてたのか!

先ほどヴィランに襲われた時以上の衝撃がみんなに走る。


「たった一晩しか過ごしてねぇんだよっ、俺は!」


「本当は竜宮城で一年以上過ごす予定だったんだぜ!タイやヒラメの舞い踊りも見られたんだぜ!それがヴィランとやらを退治してばかりで、しかもお前らが来たから一晩しか居られなかったじゃないかっ!」


それは、何つーか…悪かったよ。それにしてもこいつ、乙姫の前でだけ、カッコつけてやがったな。


「乙姫〜、あんなに可愛い人は初めて見たのによぉう。カオステラーとやら、ぜってー許さんからなぁ。」


威厳も何もなく、カメの甲羅に突っ伏して野太い声で泣きじゃくる。

「あちゃー。浦島さんのイメージ、ガタ落ちです。」

「本当ね。一瞬でもナイスミドル、と思った自分が恥ずかしいわ。」

「しかもこの姿、海の底から乙姫様が見てるんだよね。」

「エクスくん、そこは言わないでおいてあげよ。きっとトイレにでも入ってて見ていないわよ…」


完全に気が抜けて、俺は何となく膝の上の玉手箱に視線を落とした。

それにしても、わかんねぇ。

なんで「爺さんになる」なんて物騒なお土産をわざわざ渡すんだ?

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