グリムノーツ 「それぞれの玉手箱 ー 浦島太郎の想区にて」
Zhou
プロローグ エクス編「ひょっとして乙姫の罠だった?」
むかーしむかし、あるところに、浦島太郎という正直者の漁師がおりました。
ある日、子供たちにいじめられていたカメを助けた浦島は、お礼にそれはそれは美しい乙姫様がおさめる竜宮城に連れていって貰いました。美味しい料理に珍しい魚の舞い踊り。浦島はついつい時間を忘れてしまいます。
でも、しばらくすると、やっぱり残してきた家族のことが気になります。帰ろうとする浦島に乙姫は玉手箱をくれました。「つらい事があったら、この箱をお開けなさい」
カメの背にのって故郷に帰る浦島太郎。しかし、そこはもう、浦島の知る故郷ではありませんでした。竜宮城で楽しい時間を過ごしているうちに、地上では、何年、何十年、何百年が経っていたのです。
悲しくなった浦島は乙姫からもらった玉手箱を開けます。
すると不思議、不思議。白い煙が立ちのぼり、浦島太郎は白髪のお爺様になってしまいました。
でも、僕はいつも不思議に思うのです。カメを助けていいことをした浦島太郎が、どうしてこんなに悲しい目にあうのでしょう?
そして乙姫は、なんで玉手箱のお土産を浦島太郎に渡したのでしょうか?
これは、そんな浦島太郎の物語です。
さあ、はじまり、はじまり。
乙姫はため息が出るほど美しかった。
というか、思わず息を呑んで「新入りさん、分かりやすいです」「エクスくん、ダメよ。怖い顔で睨んでる人がいるわよ」とつっこまれる。
誤解だよ、シェイン、ファム。。。タオもニヤニヤしてないで助けてよ。
ふふっと乙姫が小さく笑う。波に揺らめく白銀の着物に負けない、透き通るような白い肌。珊瑚の髪飾りでまとめた黒髪はそれ自体が星を散らしたように輝いていた。
あとからシェインが「ああいうのを年齢不詳の美しさというんですね。」となにげに失礼な発言をした通り、ふっくらとしたその顔も幼さと気品とを共にまとって優しく微笑んでいる。
深い海のような濃紺の瞳の印象は、薄っすらと目尻に入った笑いじわのお陰で柔らかいものに変わっていた。
しかし乙姫が柔和な微笑みを浮かべながら「旅の方々、どうぞ宴をお楽しみ下さい」と告げた次の瞬間、僕たちの背筋は凍りつく。
「おい、ヤバくないか、これ」
仲間うちで一番の長身、タオが遠くを見透かして指摘するまでもなく、大広間の扉を弾き飛ばして現れた敵、ヴィランの群れはものすごい数だった。
いつもなら、それでも何とか切り抜ける事ができるかもしれない。でも、ここは竜宮城で海の底、水の中では体の自由が利かない。
亀の背中に乗せられて竜宮城に来る途中にも海中の戦闘を経験したけど、戦力として期待できるのは槍使いのタオくらい。僕の片手剣は水の抵抗で思うように扱えないし、レイナも回復魔法をメインのステータスを組んでいる。
本来は火力職のファムだって、
「あ、私いま、火属性だから」
早々と戦線離脱を宣言した魔女ファムは椅子に座ってココナッツのドリンクを飲んでいる。
「あら、お酒が入ってるのね、美味しい」
「だからって座りこまないでよ!」
目を怒らせて叫ぶレイナにシェインが言う。
「姉御、本職のお姫様を見習ってゆったりと構えて下さい。焦ったって私達は何もできないですし。」
確かにシェインの弓も使えないけど、そのよくわからないフルーツつまんで、大丈夫なの?
「そうねぇ。まさか水中での戦闘があるなんて想像もしてなかったからねぇ。」
「フツー水中で息が出来る事自体が想定外です。不可抗力という事で、姐御、後はヨロシクです。」
しかたなく戦力外の2人の前で陣を組もうとするけど、たった3人(2人半?)では分が悪い。
僕たち空白の書の持ち主はヒーローの記憶にコネクトしてその力を借りられる(むしろ変身する、と言った方がいいかな)。だから僕みたいに新入りで戦闘経験があまり無くてもカオステラーの生み出す魔物、ヴィラン達と互角に戦う事が出来る。でも、空白の書も万能じゃない。準備なしですぐにコネクト出来るヒーローは2人が限界だし、コネクトしている間はそのヒーローの特性に縛られる。
だから、この戦力差はちょっと。。。
「わかったから、せめていつでも逃げられるように準備しておいて!いくわよ、エクス、タオ!」
そうだよね。今できそうなのはせいぜいこの場を無事に切り抜けて逃げるくらい。
浦島太郎を助け出そうと意気込んで乗り込んだのに、どうしてこんなことになっっちゃったんだろう、、、
「ひょっとして乙姫の罠だった?」
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