ルームメイト


これ、昔アルバイトやってたコンビニで一緒に働いてた女の子の話なんですがね。


当時その女の子は19歳。

高校を卒業してすぐに東京の服飾の専門学校に通っていて一人暮らしをしていたんですが、親から仕送りはなく学費や生活費を自分ですべて賄ってたってゆうんですからたいしたもんですよねぇ。

だもんで彼女、たくさんのバイトを掛け持ちしていた。

彼女…『Kちゃん』としときましょうか。

Kちゃんは将来は自分のショップを持ちたいって言っていて、その中から貯金までしていたんです。

ホント、見習いたいですよ。

「よく働くねぇ、勤労レディだねぇ」って声かけてやると

「勤労怪奇ファイルです、蘇る勤労ですから」って、世代遅れなボケをかましておどけてましたね。

で、貯金をするとやはり生活の方に負担がのしかかってくるってわけでKちゃん、今の住まいのアパートを出てもっと安い所に引っ越しますって言ったんです。

で、ホントそのころちょうどよく、ルームシェアしてくれる人を見つけたとも言ってました。

私もね、ルームシェアしたことありますから分りますけど、あれは楽しいのは楽しいけど、案外、相手に気を遣ってしまって大変だよ、って忠告してあげたんです。

けどKちゃん、

「大丈夫ですよ、一先ず期間を決めておいて、それまでに生活に余裕を持たせておいてまたそれから一人暮らしを始めますから。」

「ああ、そうかぁ。ちゃあんと考えてるんだなぁ」と私はいったんです。

「ええ、喫茶店のバイトの方で最近入ってきた新入りの女子大生のコなんですけど。そのコもその条件でいいって」

「へぇ、上京してきたコなのかな。でもまあよかったね」

そんなこんなありまして、Kちゃんとその女子大生の共同生活が始まったんです。


その子はそんなに明るくて今をときめく女子大生って感じではなく、むしろどこか影がさしていてどちらかと言うと無口なコだったそうでどこかとっつきにくい。

まあKちゃんは、変に親しくなりすぎて、離れるのが嫌になってダラダラと生活をずっと一緒にしてしまうと思えば、と割り切れたんでしょうな。

池袋の端の方、木造アパートの陽があまり差し込まない一階の角部屋に居を置くことになったんです。



19帖の2LDK。

玄関を開けるとすぐにダイニングキッチンがあって右手に洋室と和室のドアがある。

Kちゃんは女子大生のコに洋室を譲ってあげて自分は和室に、と言ったら、女子大生のコは二段ベットを持っているから、これに一緒に寝ようと言った。

確かに和室は狭く押入れもなかったので布団を敷くスペースがちとキツい。

彼女は有り難くそのベッドを使わせてもらうことになったんです。


そうして一、二週間過ぎたころ。

二人ともその共同生活に慣れてきました。

二人の生活はほとんどすれ違いだったそうです。


Kちゃんは日中は専門学校に行って勉強しますわな。

で夕方から夜にかけてアルバイトに精を出し、だいたい夜の22時くらいに帰宅する。

それからまた少し将来の自分の店を持つための知識をたくわえるべく二時間くらい勉強して、それから就寝。

勉強、仕事、勉強、仕事、これ、19歳の女性のやることですか?

巷では遊ぶ以外に他なにをやってるのかっていう同年代の女の子多いでしょ?

ホント、見習うべきですよねえ。

で、かの女子大生のコの生活スタイルはと言うと、Kちゃんが言うにはよく分らないって言うんです。

自分が朝起きた時にはいなくて、バイトから帰ってきた時もいない。

かといって家に帰ってきてないわけでもなさそう。

何故って洗いものや洗濯物がしてあったり、その二階建てのベッドの上を見やると、はだけた蒲団がいつも違う形をしてるので

「ああ、ちゃんと帰って家で寝てるんだな」

と思ったそうです。

Kちゃんの憶測らしいのですが、その女子大生の子は親から結構な仕送りをもらってるんじゃないのか。

なのにそんなにルームシェアしてまで生活費を切り詰めるのは、遊んだりだとか何か欲しいものがあったりするからなのかな、と。

思ったらしいんですね。

そう思ったとたん、あのコ、ちゃんと大学行ってるのかな、とか、夜中にどこに行って何をしてるんだろう…って心配になってきた。

まあ、あまり勝手な推測をして誤解に繋がってもいけないのでKちゃんはその女子大生の子にあんまり立ち入った事はしない方がいい、と判断したんですね。

そう思うんだけど気になってつい、ベッドの上を覗いてしまう。

「あ」

そう言えばその女子大生のコ、いつもベッドに携帯電話を放って出かけているんです。

いまどきの女子大生が携帯を手放して出かけたりすることってあるんでしょうか?

ともかくその女子大生のコは真っ赤なその携帯電話をベッドの上にいつも置いて出ていたんです。

その携帯電話が開いた状態で投げ出されていた。

その液晶画面の方がこっちを向いていて今、パッと光ったんです。

短い電子音が流れて光が消えた…

どうやらメールが届いたようなんですね。

その時見えちゃったんですよ。

あまり人の携帯電話を覗き見しちゃいけないとは分ってるんですが。

どうやらメールの受信の前にメールを作成してたんですかね?

新規作成の本文が見えちゃったんですよ。


『助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて』


とたんにKちゃん、その女子大生のコが心配になりました。

いくらまだ親しくないと言えど同じ屋根の下に住んでる関係。

未だにご飯も一緒に食べたことはない。

それでKちゃんは週末には昼間のバイトを休ませてもらって、女子大生のコとご飯でも食べながら悩みでも聞いてあげようという気持ちになった。

ところがその週末、Kちゃんは風邪をこじらせてしまい寝込んでしまった。

あー、今日はあのコにご飯でも食べにいかないかと誘うはずだったのに…


普段働きづめて疲れてたんでしょうねえ、Kちゃん、夕方くらいまで寝てたんです、グッスリ。

すると17時頃家の前で靴音がして扉が開いたんです、


イィ~~~…ばたん。


あ、あのコ帰ってきたんだなー。彼女はそう思った。

ダイニングキッチンで水を出す音がしてる。



そうして二、三分後、洋室のドアが開いた。

イイイィ~~~~

Kちゃんの顔の横を影が通り過ぎた。

「あ、お帰り」

あれ、返事がない。

割かし無口なのは知ってるけど、こんなに無愛想なコじゃない。

どうしたのかな。

女子大生のコはそのままトントントンと二段ベッドの上に登っていった。

「お帰り~、アタシ、風邪ひいちゃってさ~…」

返事がない。

どうしたんだろう。

「ねえ…」

そう言ったときにKちゃんの顔の横に影がスッとかかった。

あ、降りてきてくれた。

そう思った。

違ったんです。

ただ足をプラプラさせてるだけなんです。

おおよそ足を放り出して携帯を見てるんでしょう。

「ねえ、ちょっと降りてきて話しましょ…」

そう言ってベッドから上半身を起こし上を見上げた瞬間

「ぎゃーーーーーーーーー!」

と叫んだ。


その位置から見えないはずの頭が、体が、その宙に浮いてたんです。

いえ、正確には首をくくって垂れ下がってたんです。

その女子大生のコ。

目をひんむいて。

もう、Kちゃんはパニックでパニックで、なんとか警察を呼んだんです。

その警察を待つまでの間色んなことを考えました。

このコはどうして首をつってしまったんだろう。

『助けて』、というメールは誰にうっていたんだろう。

何から助けて欲しかったんだろう。

そうしてハッと気づきました。

彼女の携帯。

この際仕方がない。


遺体となってしまった女子大生のコを尻目にそのベッドに置いてある真っ赤な携帯を彼女は開けた。

そこには

『助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助け』

と、ビッシリ文字が敷き詰めてあった。

「うわあ」Kちゃんはその時思わず声を上げてしまったそうです。


警察の調べで判明したことは彼女、どうやら男に相当貢がされていたって話だったそうです。

その男から結構暴力も振るわれてたらしく、ホントーにあのコはかわいそうでした…

とKちゃんは語ってくれました。


ところが話はこれで終わらない。

Kちゃんはそんな目、というか事件に出くわしたせいか余計一人暮らしに戻るのが不安になっちゃいましてね。

もう一度ルームシェアしてくれる人を募ったんです。

すると同じ専門学校の女の子がこの話に乗ってくれた。

で、彼女らの共同生活が始まったんです。

二人は意外に気が合いましてね。

新しく、洋風で格安のアパートに引っ越した。

前の所はもう住みたくない。

ちょっと気持ち悪いですもんね。

ある日学校の友人がホームセンターから何かを買い付けて家に運び入れてたんです。

おや、なんだろと思ったらそれは二段ベッド。


うわ。

ヤなこと思い出しちゃったな。


すると友人が

「ねえアタシ上の方でもいい?」

というんで、どうぞどうぞと譲った。

なーんか、ヤだったんだな、上ってのは。

あの子を思い出して。


友人が上の段に腰をかけて足をぶらぶらさせながら

「いいよね、二段ベッドって。こうやって話しながら一緒に寝られて。」

と言ったので

「う?うん」とKちゃんは答えた。

ますます彼女を思い出してきて気分が悪くなってきたので

「ゴメンね、なんとなく気分悪くなってきて…ちょっと横にならせてもらう…」

友人は「だいじょうぶー?」と足をぶらぶらさせながらKちゃんが下に入っていくのを見てたんだそうだ。

その友人の足がKちゃんの顔の横であまりにもぶらぶらしてるもんだから、二段ベッドの下で、あの時の光景が頭によぎってしまう。

うわあ~、いやだな~と思っていると、そのぶらぶらが急に止んだ。

で、シーン…と急に友人が黙っちゃたんだ。

「ねえ、どうしたの?」

とKちゃんは友人に声をかけたんだが反応がない。

「お話、続けてよ」

反応がない。

ねえ、と声をかけようとした。

その時。


ボトッ、ガッ!


友人の足の横から下に向けて何か黒く小さい塊が落ちてきたんです。

いや、よく見ると黒くない。

真っ赤だ。

真っ赤な携帯電話。

その携帯の画面がこっちを向いていた。

「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

「ひい!」

Kちゃんは思わず声をあげた。

するとその携帯の画面が自動的に消えてメール送信中の画面に切り替わった。


ドサー!

足が真下に落ちてきて体を横たえたんです。

Kちゃんの眼の前で。

友人じゃなかった。

首をくくったあの女子大生のコがこっちを向いて目をひんむいてたそうです。

そしてKちゃんは気を失ってしまったそうです。


気が付いたらね、ベッドの横で友人が心配そうにこっちを覗きこんでいた。


あの日見たことを幻覚だと思いたかったけど、そうもいかないみたいなんです。

Kちゃんが私に言うにはね「やっぱりあの子は私に助けを求めていたんです。口では頼めなかったんです…」


そう言ってKちゃんは自分の携帯を取り出した。

「アタシほんっとに…忙しくて、ほとんど携帯見てなかったんです。」

泣きながら何度も「こんなの言い訳だよ」って自分を責めながら。

Kちゃん携帯の受信欄にはその女子大生のコからのメールでびっしり埋まっていた。

その一つのファイルが開かれた。




「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助


彼女、後悔してるみたいでしたよ。


(この物語はフィクション…だと思うか思わないかはあなた次第です…)

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