ニートの俺が異世界転生して勇者となってチートの力を使って世界を救っていたある夜のこと

狼狽 騒

チート勇者タケシ

 俺の名前は鈴木タケシ。


 容姿も普通、性格も普通の高校生だ。


 いや、嘘をついた。

 俺は高校など行っていなかった。


 勉強などせずにネットゲームをする毎日。

 所謂、引きこもりというやつだった。


 仕方がない。


 というかこの世界が悪い。


 現実はクソゲーだ。

 最初から結果は出ているのだ。


 イケメンはイケメン。

 秀才は秀才。

 天才は天才。

 

 努力なんてしたって最初から無駄なのである。


 だけど――ゲームは違う。


 努力すれば努力するだけ。

 時間を掛ければ掛ける程、強くなれる。

 強くなるのもレベルアップという形で見える。


 だからはまった。

 必然だった。


 でも――ある時。



 俺は突然、異世界へと飛ばされた。



 俺はいつものように部屋で朝までゲームして、昼に寝ていたはずだ。

 母さんくそばばあの小言を聞かないように、ヘッドホンを付けて。

 

 なのに起きたら、周囲は見たことない草原や平原だった。


 そして 直後に聞こえて来た声。

 女神だった。


 その女神から、要約すると、


「あなたは部屋の中で突発的な心臓発作で死にました。

 だけどあなたには秘めたる力があったから転生させました。

 勇者となってこの世界の魔王を倒してください」


 と言われ、チートの剣を手に入れた。



 そこから俺の冒険は幕を開けた。



―――――――――――――――――――――――



 チートの剣の力は凄まじく、周囲を襲っていた魔王の手下をバッタバッタと薙ぎ倒していった。

 その道中、仲間も増えた。


 最初の村で助けた、俺と同年代の魔導師見習いの女の子 マオ。

 道中でライバルとして出会った、胸が大きい金髪騎士の女性 ロコック。

 才能に惚れた、といきなりアタックしてきて付いてきた白魔導師の幼女 ヒナ。


 誰も彼もが美少女だ。


 途中でお風呂イベントやラッキースケベのイベントもあったりしたが、三人の俺に対する信頼は旅を続けて強固なモノとなっていた。

 それに、俺の勘違いでなければ、三人共、俺に惚れている。

 よく俺の隣に誰がいるかでケンカしている。

 いやー、参ったものだ。


 ああ、異世界最高だ。

 引きこもりで誰も振り向かなかったあの世界とは違う。



―――――――――――――――――――――――



 ――そんなある日の夜。


 流石に男女同衾は駄目だという理由で、いつものように別々のテントで寝ていた俺は、ふと目が覚めてしまった。


 トイレにでも行こうとそこら辺の茂みをうろついていた所で――



「――。皆様」


 えっ……?

 俺は目の前の光景に息を呑んだ。


 そこにいたのは、マオ、ロコック、ヒナの三人。


 そして、その三人に頭を下げる――母さんくそばばあだった。


 何でここに母さんくそばばあが!?

 俺の頭は混乱した。

 ここは異世界だ。

 俺は転生したんだ。

 ここに母さんくそばばあがいるはずなどない。


 物陰に隠れながらその様子を伺うことにした。


 すると、母さんくそばばあが口を開く。


「すみません。本当にすみません。皆様、


 ……茶番劇?

 何を言っているんだ?



「――っとにそうよ、全く。やってられないわ」


 と。

 マオが、ふぅと深く息を吐いて悪態をついた。

 あれがマオか!?

 いつもおっとりほわほわしている天然のあのマオなのか!?


「仕事じゃなきゃあんな奴、近づきすらしないわよ」

「ねー。あんな不細工の傍にいると不細工がうつるわー」


 ろ、ロコック? ひ、ヒナ?

 いつものみんなと全然様子が違う。


 っていうか仕事って何だよ!?


「っていうかさ、あいつの視線毎回胸に向いていて気持ち悪いったらありゃしないの」

「あいつ気が付いていないつもりかしらねえ」

「きゃはは! 受けるんですけど! っていうかキモいんですけど!」


 そんな……嘘だ……

 こんなの夢に違いない。


「というか、あなたも大変ねえ。あんなクズを息子に持ったから、こんなクソみたいな茶番劇、大金払ってさせて」

「異世界転生とか、ウ、ソ。本当はなのにね」

「ぎゃはは! 本当に愚かだよねえ! とかとか、てめえの顔を見ろっての」


 三人の爆笑が続く。

 そしてそんな三人に母さんは頭を下げ続け――


「本当にごめんなさい。あの子は悪い子じゃないんです。悪い子じゃ……」


 ――ついに土下座まで行った。


「……つーかさ、そんなのいらないんだけど」

「私らが欲しいのって、分かっているよねえ」

「そうそう。あいつと私達の関係って、コレだけだから」


 ヒナが指で円マークを作りながら、母さんの頭を踏みつける。

 母さんは抵抗せず、


「……はい。今月分です」


 厚い封筒を三つ差し出した。


「えー、何、それ?」

「今月分だけじゃ分からないなあ」

「ちゃんと言いなさいよ、ねえ」


 にったりとした笑顔で三人は声を合わせる。



「「「『』ってね」」」




 ~~~~ッ!


 俺は駆け出した。

 あまりにもいたたまれなくなった


 その背中に響く、下卑た笑い声。


 そして――母さんの震える謝罪の声。




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 これは現実だったんだ!

 あのクソゲーから何も変わっていなかったんだ!


 異世界転生?

 チート?

 勇者?


 何を妄想していたんだ俺は!


 恥ずかしい!

 気持ち悪い!

 救いがない!


 あのマオの満面の笑顔も。

 あのロコックのはにかんだ笑みも。

 あのヒナの愛らしい微笑も。


 全部嘘だった。

 金で買われた、嘘だったんだ。 


 もう誰も信じない。

 信じられない。


「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」










―――――――――――――――――――――――








「――


「流石です魔王様! ですが表層を読み取った際に母親がいなかった場合はどうするのですか?」

「父親にせい」


「父親がいない場合は?」

「兄弟姉妹にせい」


「天涯孤独の場合は?」

「これが妄想の世界だと錯覚させればよい」


「流石です魔王様! 早速実行に移してきます!」




 ――こうして。

 この世界の魔王は勇者に攻め込まれることもなく、平和に世界征服しているのであった。

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