終章

終章 少年と手帳

 手が震える。

 僕は一体今まで何をやってたんだ。

 確認のために次のページをめくる。飾り立てた文字で宣伝文句が書き付けられていた。


 ――高名な冒険者もご愛用! 視力回復と解呪効果に賞賛の声が次々と!

 ――年齢や仕事の疲れが抜けない……。そんなお悩みには、これ!

 ――ストボコー村産ロッデンベリー果汁をたっぷり配合!

 ――ロッデンベリータブ、二十日分で金貨たったの1枚!

 ――ご購入の際にこの手帳をお見せ頂くと、さらに五日分をプレゼント!


 バン、と手帳をテーブルに叩き付け、叫ぶ。

 ――広告かよ!!!

 ――それも元気になっただけならともかく、恋愛まで上手く行くとか巫山戯んな!!!


 そのまま窓から外に投げ捨て、裏路地のゴミに埋めてやろう……と思ったが、その手を止めた。

 僕だけがこんな嫌な思いをするのは御免だ。

 明日の晩、もう一度酒場に忘れ物として放置しておこう。あの店では拾ったものは拾った人間のものだ。これを拾った他の誰かが同じような思いに苛ついてしまえば、僕の溜飲も少しは下がろうというものだ。

 窓の外からは、夜明けを告げる細い日光が挿してくる。今から寝たところでほんの仮眠程度にしかならないだろうが仕方ない、こんな怪しい手帳に引っ掛かった不運だ。

 ……でも、眠れるだろうか。こんなイライラを腹に抱え込んだままで。

 そんなことを考えながら、僕は毛羽立った目の粗い毛布を頭から引っ被った。

 ああ、厭な朝だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

或る冒険者の末路。そして…… 芒来 仁 @JIN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ