ある日弱小格闘技団体のリングに一匹のゴリラが降り立ったことから始まる。ゴリラみたいな男といった比喩表現でもなければ、ゴリラの着ぐるみを着ているというわけでもない。純粋な動物のゴリラである。その名もシン・ゴリラ!……いや、ダメだろ、人間とゴリラを闘わせちゃ……。
しかし、強さが全てのリングの上では世間の常識など通用しない。かくして始まるゴリラ対人間。そして観客は意外な光景を目にする……。このゴリラのファイトスタイル……思ったよりも技巧派だ!
そんなテクニシャンなゴリラがリングの上で強敵としのぎを削る主人公となる超異色の格闘技小説。相手となるのはゴリラ同様に格闘技を学んだカンガルー、そしてシン・ゴリラと因縁を持つ、もう一頭の謎のゴリラ……! うーん、どうかしてる。
しかし本作が本当に恐ろしいのは、先にも描いた通りゴリラを主人公にしてるのに、単純にパワーで蹂躙したりはせず、なぜかちゃんと格闘技をやっているのである。相手の隙をついてタックルを決めたり、関節技を狙ったりする。シュールすぎる世界観だ。そもそもゴリラ同士が昔からの因縁をリングの上で決着つけようとしてるのもどうかしている。そして、最初から途中までどうかしているのに、ラストではそれまでの話の流れを大きく覆すとんでもない展開を仕掛けてくる! これぞまさに空前絶後の格闘ゴリラ小説だ!
(「溢れる野生! ゴリラ小説特集!!」4選/文=柿崎 憲)