第8話

「翠々千!おい翠々千!!」

「大丈夫ですか!?翠々千さん!?」

突然苦しみ出し、気を失った翠々千の顔を覗き込む。

顔色は真っ青で、とてもさっきまで憎まれ口を叩いていた人物と同一人物とは思えない。

「例の発作?」

椅子に座ったまま、眉間にシワを寄せて様子を見ていた朔がお茶を飲みながら話す。

こういう時に下手に取り乱さないのは、こいつの良い所だと思う。

「そう……みたいだね。だけど……」

原因が分からない。

「とりあえずそきつ医務室に連れてくぞ」

よっこらせ、とかおじさんみたいな事を言いながら朔が翠々千を持ち上げた。

というか、抱き上げた。

のはいいんだけど……

「朔さん……お姫様抱っこは……やめた方がいいんじゃないっすかね」

凛太郎が遠慮気味に言う。

「何で?」

きょとんとする朔に、苦笑いが浮かぶ。

「いや……男が男にお姫様抱っこは厳しいものがあるっていうか、なんていうかさ」

あれだよね、1部の女の子たちが喜びそうな絵面になってるっているかさ。

てか、こいつ筋肉隆々って訳じゃないのに、涼しいかおで持ち上げて、実は力強いのか?

とかどうでもいい思考に至る。

朔は、どっこらせとまた親父臭い掛け声を上げながら、肩で翠々千を担いだ。所謂俵担ぎというやつだ。

まあ、これはこれで何だかあれだが、男が男を抱き上げてる段階で、怪しく見えてしまうのだろう。

医務室へと歩き出した朔の後に続こうと荷物を持ち立ち上がった。



医務室に着くと、翠々千が寝かされているベッドの横で、朔がぼーっと座っていた。

視線は明後日の方向へ飛んでいて、意識がお留守だ。

そんな風にする朔が珍しい。

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甘味中毒 実柳 尚花 @naaoka

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