第7話
まあ、未来予知なんて便利な能力は備わってないし、当たり前だけど。
ピコーン
ケータイがメールの着信を知らせるに驚く。
自分の世界に入り込みすぎていたのだろう。一瞬、ここどこだっけ?なんて阿呆な事を思った。
集中して考え事をすると、、無意識に口に出やすいから、一人で呟いてなかったろうな……とかなり不安になるが、幸い周りに人はいない。
メールな翠々千からで、一言。
《食堂に居る。》
視線を画面の僅かに上にずらすと、小さく13:03を示していた。
時間の進む速さに驚く。
さっきまで、暇を持て余す心配をしていたというのに、脳内でくだらない思考を展開させているだけで待ち時間が終わるとは。
腰を上げると、背骨がボキボキと音を立てる。
もう年なのかな。
まだ学生生活を送る身だと言うのに、年齢をかんじる多くなったような気がする。
食堂まで、だらだらと足を進めた。
「遅せえ」
俺が理弦にメールを送ってから15分は有に過ぎた。
返信で
《翠々千、麻婆豆腐よろしく!》
って送られてきたから、態々理弦の分まで買っておいてやったというのに。
ちなみに、朔は定食で、俺はビーフカレーだ。
下手にラーメンとか頼まなくて良かった。
とはいえ冷めるよな。
冷えた麻婆豆腐とか美味いのかよ。
「うちの大学、迷子になる程広かったっけ?」
待つ事が苦手な朔が、皮肉を込めたような口調で言う。
残念ながら此処は、迷子になれるほどの広さは無いし、何より3年も通っている大学の敷地内で迷子になるなんて、どんだけ阿呆なんだって話だろ。
「ごめんね。お待たせ」
待ち疲れて、ぴりぴりとした空気の中に、呑気な声が響く。
「遅せえ。中庭に居たんじゃねえのかよ」
「そーだよ?よく分かったね」
「どーやったら、中庭からここまで15分以上かけられんだよ。
一般人なら5分ちょいで到着するわ」
「酷いなあ、俺も一般人」
「そこじゃねえ」
「お前ら黙れよ。そんで早く食べて」
どれだけ腹が減っているのだろうか。
我慢の限界らしい朔が一人食べ始める。
続いて俺達も食べ始めるが、食べながら会話を嗜む事はしない。
別にそう決めている訳では無いが何となく。
空気を読むってやつだ。
でもきっと
朔なら「食べる事に集中するから」で
理弦なら「ええ?何となく」
とか言いそうだ。
確固たる理由が存在する訳でも無いらしいが、沈黙での食事は好きだ。
沈黙が走る。
周囲で湧く音に耳を傾けながら咀嚼する。
喧しいのは好きでは無いが、賑やかなのは割と好きだ。
ちなみに、食事中に周辺の音を拾う癖が有る俺にとって、音を立てて物を食べられるのは苦痛でしかない。
そいいう時は早急に席を立つ。
だから、朔と理弦が食事のマナーが成っているのは、非常に有難い。
そんな事を考えながら周囲の音に聞き耳を立てていると、バタバタと走る足音が響いて来た。
誰だ?喧しい足音の奴だ。と、思った瞬間
「あーーっ!翠々千さん!朔さんに理弦さんも!」
名前を呼ばれて顔を上げると、俺らを満面の笑みで見おろす、赤みがかった髪の背の高い男の姿が目に入る。
「凛太郎、うるせえよ」
「酷いですよ翠々千さんっ!
あ、そうだ!今日は皆さんサークル来ますよね!?」
「「「行かない」」」
「ちょっ、そんな見事に声を揃えてっ!
何でですか!?暇ですよね!?」
「失礼だな、凛太郎。
そんな俺達が暇を持て余しているかのような言い草じゃないか」
じゃないか、なんてそんな話方を理弦がすると、妙に気取って聞こえる。
尤も、態とそういう話し方をしたのだろうけど。
「実際暇人ですよね?
うちのサークルは只でさえ活動日少ないんですから、来てくださいよ!!
どんだけやる気無いんですか!」
さらっと理弦の言葉を一蹴した凛太郎は尚も粘る。
「今日めっちゃ可愛いマネ来たんですよ!」
キラキラした目で凛太郎が言った。
「最悪」
「えっそうなの!?ちょっと見たい!」
「抱けっかな……」
上から朔、理弦、俺の順だ。
「「「うわ、翠々千(さん)最低」」」
3人は見事に声を揃えて、引いた目で見
てきた。
「は?何でだよ。可愛かろうと何だろうと、抱けなきゃ意味ねえだろ」
「きも」
「お前女の子の事何だと思ってんの」
「寿々千さん……最早病気っすよね」
ぼろくそ言われんなクソ。
思わず舌打ちが出た。瞬間。
「あ!あの子っす!」
「
ん?」
凛太郎の視線の先には、金髪に派手な化粧の五月蝿い女。
「は?あの金髪?
……お前、趣味変わってんな」
「いやいやいや、そっちじゃないっすよ。
隣の黒髪の女の子っすよ」
金髪女の隣に目を向けると、黒髪の大人しそうな少女。
つーか、ちっさ過ぎてあんまりよく見えない。
145cm?とかか?人混みに埋もれてやがる。
いや、でもまあ、顔が見えたとしてもああいうタイプは
「俺の好みじゃねーーー
口から出る言葉を紡ぎ終わる直前、女が振り向いた。
女の顔を見た瞬間、心臓がトクンッと高鳴った。
一目惚れだとか恋だとか、そんな事素敵なものじゃない。
もっと、心臓を抉られる様な息苦しさと、脳まで響く電撃を喰らったような衝撃。
酸素が奪われ!息が苦しい。
頭痛がする。
この痛みは、俺が良く知っている痛みだ。
あの女の事を、俺は知っている?
理弦たちが俺を呼ぶ声がどんどん遠ざかっていく。
助けを求める様に伸ばした自分の左手と、真っ赤に染まってゆく視界を最後に、俺は気を失った。
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