第16話 完璧という矛盾
「てやあああ!!!!」
エクス達一行は森の中で突如現れたヴィランと対峙している。数は多くないが複数のヴィランの出現に少々手を焼いている様子。
「くっ。新たな想区からカオステラーの気配がしたと思ったのに。こんなところで... ...。ツイてないわね」
レイナの背後には沈黙の霧。
どうやら、エクス達はこの想区を後にして新たな想区に向かう途中でヴィランに遭遇したようだ。
エクスは前線から後退し、レイナの元に戻る。
「レイナ。ヴィランを無視して沈黙の霧に入った方がいいんじゃない?」
「... ...そうね」
______うわあ!!!
レイナがエクスの提案に納得しかけたとき、急に沈黙の霧から少女が飛び出してきて盛大に転んだ。
エクスはそれを見て戦闘中にも関わらず少女の方に向かう。
「ちょっと! エクス!」
動き出したエクスの足は止まらない。
エクスは少女の前で足を止め、右手を差し出し。
「... ...だ・大丈夫?」
少女は顔の泥を自ら拭い、エクスの手を取った。
◆ ◆ ◆
氷の大地を一台のスノーモービルが雪煙を上げて疾走している。
運転している男性は目をゴーグルで覆い、防寒着を身に着け、男性の後ろにいる小さな少女も同じような服装をしている。
「パパ! 今、そこに天使がいた!」
「はっはっは! アザラシには羽は生えてないぞ!」
「アザラシじゃないよ! 大きな羽が背中から生えた女の子がいたんだよ!」
「そうか! そうか! 良い物見れたな! もう、疲れただろ! 少し寝るといい」
「太陽がずっと起きてるから眩しくて眠れないよ!」
過ぎ去っていくスノーモービルを横目にスペアは海に浮かぶ氷の山の上に座り、鼻歌を歌いながら自らの運命の書に何かを書いている。
そして、書いていた箇所を運命の書から一枚千切るとどこからともなく妖精が現れ、その一枚の紙を持って上空に消えていった。
◆ ◆ ◆
僕はやっぱり死ぬ事は出来なかった。
元の世界に戻り、僕はこの世界の成行きを見守った。
世界ではいつも争いが起こり、何十万人の人が飢えて死に、数%の金持ちが豊かな暮らしをしている。
物の価値といったものは崩壊し、安い物は高く売られ、高いものはごく少数の限られた人間しか手に入れる事が出来なくなった。
この世界の崩壊っぷりは目も当てられないような状態。
しかし、運命の書を与えられた人間はその運命に抗う事も疑問を持つこともない。ただただ、それを誇りに思い、消化するだけの人生。
_____僕が作り出した世界に疑問を持つ者は僕だけだ。
このような世界にも関わらず、僕はストーリーテラーとして若干だが信仰もされている。
神様とまではいかないようだが、まあ、似たようなモノかもしれない。
僕は、もう、疲れてしまった。
この世界にも自分の居場所はなかった。全く、おかしな話だ。自分で世界を作っておきながらそこに居場所がないなんて。
僕は自らの運命の書に今後の世界の展開を記し、書き溜めをして置くことにした。
自分で生み出した世界を放っておいてしまうのも少々、無責任かな? と感じたので。
書いては千切り、書いては千切り妖精と言われるものに手渡すとどこかに運んでくれた。
どこに運ぶのか誰に運ぶのかは興味がないことだ。
そして、僕の運命の書は残り1ページとなり、それに最後の文章を書こうと思った瞬間に手が止まる。
「... ...」
そして、僕はその最後の1ページは何も書かずに白紙で千切り、近くにいた妖精に渡す。
気まぐれと言われればそうだ。
僕はこの白紙の紙に何かを期待したのかもしれない。
世界を変えても、傍観しても、結局、僕の孤独は解消されなかった。
そのうち僕は世界を変える事も見守ることにも億劫(おっくう)に感じるようになった。
エクス達の事をあれほど馬鹿にしたってのに恥ずかしい限りだ。
0を1.2.3.4に変えて行っても、キリがなく、そして、「これは本当に0なのだろうか?」という疑問も抱くようになる。
『何でも出来る』という事は『出来ない事が出来ない』という矛盾を生じさせる事に気付き、考えるだけでも数十年経過してしまった。
しかし、結局、答えは導き出せずじまい。
いろいろな事が重なり、僕は、もう、何も考えたくなくなった。
寒空の中、風の音と氷の軋む音だけが聞こえる。
僕は、厚く氷が張った海の中に身を投げ入れ、長い時間を静かに過ごすことにした。
目覚めた時にはもう少しマシな世界になっていることを若干期待しながら、太陽の光も届かないような深くて暗い海の底に沈んでいった。
『白紙の書』と『空白の書』 おっぱな @ottupana
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