これでもかというほどに質感を高めた鬼気迫る手術シーンが圧巻。それがそのまま読者にオチを予測させないミスリーディングの役割を果たしていて、小手先のチャフやフレアでなく単純に高い筆力で読者を引き込むという力技でもミスリーディングは可能なのだという好例です。
と、そうした短編小説の楽しみがたっぷり搭載されてるだけでなく、フワフワした状況にいる主人公はじめキャラクターの佇まいは今の感じに魅力的。
幽体離脱した主人公の目を通して語られる移植手術。術中にある奇跡が起き、そのまま素直にハッピーエンドで終わるかと思いきや、……予想外のラストに驚きました。一見、不条理に見えるものの、これはある意味、合理的な設定です。人の生死の定義、幽体(≒意識)は何かと考えさせられます。
読み始めたとき、果たしてこれはSFなのかとふと思いましたが、最後まで読み終えてみれば間違いなくSFでした。詳しくはネタバレになるので書けませんが、最後まで読んだとき、きっと驚く筈です。特に唸らざるを得なかったのは脳死判定と手術の描写で、しっかりと調べて小説に落とし込んでいるというのがよくわかりました。細部まで丁寧に作りこまれた、良い短編でした。自信をもってオススメできる一作です