第6話『調律』されたその後……

「さーいらっしゃいいらっしゃーい! 新鮮取れたての魚が入ってるよ〜いらっしゃい!! 」


「美味しい茶菓子〜美味しい茶菓子は如何ですか……あ! そこの旅人さん、うちへ寄って行ってくださいな! 」


ここは活気あふれる町内……


朝昼夜商売人たちが日々お客を引き込もうと商売争いをしており、町は明るい声が響き渡っていた。


チリーン……


何処からか鈴の音が響いてくる中、町人たちが溢れる中に一人の和服美人が町を歩いていた。


桜の模様彩る和服、下ろした髪をまとめあげ、三色団子と大きな桜の花びらの髪留めを着け、腰に一振りの大刀を身につけている。


商人の親父は彼女を見かけるとすぐ駆け足で急いで行った。


「おぉ桜耶ちゃん! 今日も綺麗だねぇ〜」


商人の人に気づいた彼女は軽く挨拶をする。


「お仕事ご苦労さん! あ、これ今日朝市で仕入れた新鮮な鯛だ! 持って行ってくれ! 」


そう言って手に持った大きな鯛を彼女に差し出す。


「わぁ、ありがとうございます! こんな大きな鯛を……でも今はお仕事の途中で……」


嬉しい反面少し困り顔ながらも笑顔で答えるが、


「はっはっは! 桜耶ちゃんだからいいんだよ! 気にせず持って行きな! 」


ぐいっと商人の親父は鯛を笑顔で押し付けていく。


「ふっふっふ……わかっていないわねぇ魚屋の旦那は! 」


「なぁにぃ? てめぇ、魚屋に喧嘩売ってんのか!? 」


そう言ってやってきたのは魚屋の向かいに店を構える甘味処の女将だった。商人の親父は彼の言い分に額にシワを寄せる。


そんな親父の文句を女将は無視する。


「ちょ、親父さん! 喧嘩はだめですよ! 」


彼女はそう言って魚屋の親父を止める。


親父は我に帰り、す、すまねぇ桜耶ちゃん……

と謝罪する。


「はい桜耶ちゃん、 うちで評判の大福よ♪

よろしかったら是非お一ついかが? 」


そういって女将が差し出したのは白い大福であった。


「わぁ美味しそうです、では一ついただきます。」


彼女は差し出された一つの大福を手に取り、一口頬張る。


「お、美味しい……餡子がたっぷり詰まっててとっても甘い! 」


「でしょう? うちで作った特製餡子を使ってるからねぇ、うちは頑固な親父と違って、餅のように柔らかくお客様をおもてなししているからねぇ、ホッホッホッ! 」


女将はそう高らかに笑う。


「な、なんだとぉ!? おめぇやっぱり俺の店に喧嘩売ってんなぁ!? 」


「あら? そんなに桜耶ちゃんを取られるのが嫌なのかしら? 」


「お、おめぇぇぇ!! 」


二人の間に激しく火花が飛び交うような一触即発の事態になるが、


「お二人共そこまでです! これ以上喧嘩するなら私は許しませんよ! 」


桜耶が間に割って入り、彼らの喧嘩を仲裁する。


二人はそれぞれ、す、すまん……、ご、ごめんなさいねぇ……、と謝罪するのであった。


彼女は二人と談笑したあと、仕事を再開し二人に笑顔で手を振って別れ、再び町内を歩き回る。


暫くすると腰掛けを見つけ、そこで一休みすることになった。


「ふぅ……今日も町は平和だなぁ……でもこういう日に限って、事件が起こったりするのよねぇ……。」


そういって彼女は空を見上げた。


空には鳥たちが飛んでおり、小さな雲が群れをなしてふわふわと流れているのを彼女はぼんやりと見続けていた。


チリーン……


彼女が空を見上げてる中一人の女性が通りかかる。


紅い着物を纏い、腰に大きな鈴、頭に黒い狐の面を被った人物……彼女は鈴を鳴らし、人混みの中へと消えていった。


「ん? 」


ふと、彼女は立ち上がり、


「あれ? 確か鈴の音が……。」


彼女はそう言いながら辺りを見渡すが、町人たちと商売をする人たちの姿だけ、音の主はそこには居なかった。


「……そういえば、私なんでこんな鈴持ってるんだろ? 」


彼女は腰につけた大きな鈴を手に取り、じっと見つめる。


「……これを見てるとなんだか懐かしい気持ちがして……でも、それがなんなのかよく思い出せないけど、これは凄く大事なものだっていうのは私には分かる……。」


彼女はいつの間にか身につけていた大きな鈴を腰につけなおし、


「まぁ、そのうち分かるかもしれないし……

大事に取っておこっと。」


そう言って彼女は再び町内を歩き出した。

今日も町の平和を守るために……


FIN






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『鬼を祓いし士たち』 F氏 @fantom666

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