第7話 新たなる敵とは?
三人は屋敷に着いた後、信長の傷の手当てを行い、傷がいえるまで、信長と蘭丸の世話は鬼鷹とゆきがする事となった。
屋敷の内外には、数多くの防犯カメラが取り付けられ、それはまさに、文明の利器であった。
『この後の世は、夜の部屋がこんなに暖かく明るいなんて、なんと不思議な世だ?……』
『まるで、からくり屋敷だ……』
二人ともそう思ったが、周りは薄型テレビなどの電化製品が揃い、見た事もないものばかりだった。
ゆきは少しでも理解させようと、歴史書を手渡した。
「なんだーこの書物は? な、なるほど……詳しく書かれているな。先程光秀から聞いた通り、天下は秀吉の死後、家康が奪ったか。だが、さぞ長らく辛抱し待っただろうな? まったく家康らしいぞ」
しかし、納得のいかない挿絵があった。
「こ、これは誰だ! どうも、わしという風に取れるが、似ても似つかぬ醜男だ。これを描いた絵師を呼べ! 下手糞すぎるぞ。手討ちにしてくれるわ」
「大昔のことゆえ、それは叶いません」
「そ、そうか仕方がない。それにしても不愉快だ。よくこんな間抜け面の絵が、後世まで残り語られているものだ。まったく、腹立たしく歯がゆい限りだ」
信長は愕然としながらも、もっと戦国武将らしい、精悍な姿を期待していたのかも?……
「……あの場所は何処だ?」
信長は外に長くいたせいか、尿意を催した。
「か、厠は何処だ? 案内せい」
しかし、案内された場所は薄暗く狭い場所と思っていたが、防臭効果の行き届いた部屋で、意外と広くLED照明でとても明るかった。
「うわっ! なんじゃこれは! み、水が青いぞ……」
当然、初めての真っ白の便器とウオッシュレットにも驚いた。
『おかしい? 少しも臭くはないぞ。むしろ、いい臭いがしている……』
なんとか済ませて、ふと別の部屋を覗いてみると、スクリーンに防犯カメラの監視画像が数多く映し出されていた。
『こ、これは……いったい、まやかしか?……』
屋敷内は不思議なものばかりであった為、信長はただ呆然となった。
「さあ、信長様、早く傷の手当てと御着替えを」
「忝いのう……ゆき殿、鬼鷹殿」
信長は礼を言ったが、矢傷は運よく軽症だった。
「おう、この着物はなんとハイカラだ。その方等の変わった着物も実に興味深いぞ。のう、蘭丸」
「は、はい、その通りでございます」
でも、蘭丸は美しいゆきの事が気になったのか、口数は少なかった。
「あ、あのう信長様の傷の手当て大変忝く存ずる。いや、ありがとうございました。ゆ、ゆき殿はもう、この仕事は長いのですか?」
口下手の蘭丸は、ゆきの事を好きになったようだった。
「わ、私は銀行員ですので、守り人になったのは、つい最近ですよ。だから剣術はからっきし駄目だから一度教えて下さいね」
「は、はい…是非御指南させていただきます」
ゆきはそう答えたが、ゆき自身も蘭丸の事が少し気になっていた。
「あほらしいーもう、見てはいられないわね!」
横で聞いていた鬼鷹は、信長の治療が終わり次第、さっさと部屋から出て行った。
「じれったいったら、ありゃしないわ……」
鬼鷹が部屋から出ると同時に、老人Ⅹの光秀が信長に重要な話をしだした。
「信長様、傷が浅かったのは何よりです。でもいいですか、この後の世でも、信長様も我々も命を狙われているのです」
「しかし、この後の世で誰がわしの命を狙ってるというのだ? もはや、その必要はないと思うが……」
信長は狙われる意味が、よく解らなかった。
「それは、地獄の帝王Zが我々を抹殺する為、狙っているという事なのです。おそらく、過去に信長様に滅ぼされた、数多くの武将達が帝王Zの陰謀により、手下として復活させられるという事なのです」
「なにっ、復活だと?……望むところだ。受けて立つ!」
神の使いである老人Ⅹの光秀は、新たに陣羽織と信長に金色、蘭丸には青の鎧兜及び剣と盾を差し出した。
「それは何だ? おー刀ではないか、先程の話では、刀は持てないと言っていたではないか、わしの聞き間違えか?」
「いいえ、この鎧兜と剣と盾は、地獄の使者から身を守る為の防具と武器ですので、生身の人間は切れませんので、安心してお納め願いたいと思います」
そして、影の守り人・戦士シャドゥマンとして、この世界で生きるよう進言した。
「よし、解った! 今までの事は水に流そう。この後の世で生き抜くには、そち達の力が絶対条件だからな。ところで、そちは銀色だそうだが、この金色に輝く鎧兜は誠にわし好みだ。誠に気に入ったぞ。光秀!」
信長は、新たな剣と金色の鎧兜がたいそう気に入りご機嫌だった。蘭丸も青の鎧兜が気に入り喜んでいた。
「凄いぞ! この剣と鎧兜は……」
結果、黒の鎧兜の鬼龍、赤の鎧兜の鬼鷹、白の鎧兜のゆき、青の鎧兜の蘭丸、そして、銀の鎧兜の光秀、金の鎧兜の信長、六人の影の守り人・戦士シャドゥマンⅩ全員が揃い、誕生したのであった。
* * *
少し落ち着いた信長は、しばらく食してなかった為、意思に反して腹の虫が鳴った。
『グウ~、グウ~、グウ~ッ……』
『えっ、わしとした事が、なんたるはしたない腹だ。静まれ、静まるのだ!』
それは、蘭丸も同様だった。
『腹減ったな。だが、武士は食わねど高楊枝だ』
二人とも口には出さず。痩せ我慢をしていた。
『これは私の手落ちだ。早速、お食事を御用意しなければ……』
それを察知していた光秀は、すでに鳴門から手配していた寿司職人を呼び、寿司を握りさせていた。
「よいか、高貴なお方ゆえ、粗相があってはなるまいぞ」
「は、はい。お任せ下さい」
『腕を見込まれて来たものの、この屋敷はまるで武家屋敷だ。いったい、誰が住んでいるんだ? まあいいか、その内、解るというもんだ』
まもなく全員が揃い、寿司が振る舞われる事となった。
「さあ、鳴門の名代寿し辰、篤生殿、信長様にその方の握った特上の寿司を御出しせい!」
『えっ、信長様だって? まさかね……よし、徳島米のシャリと特上のネタで勝負だ! 文句は言わせねえぞ!』
数種のネタで握られた六人分の寿司は、華麗に寿司桶に並べられていた。
「お―なんと見事な、これが後の世の寿司か? どれどれ、う、美味い! だが、遠路遥々御苦労だったな。船酔いなどで大変だっただろうに……」
「いえ、車で橋を二つほど渡り、ほんの三時間いえ、一刻半です」
「な、なんと船ではなく、あの早い荷車で来たという事か?……実に後の世は大きく変貌したものだ。さあ、蘭丸も皆の者も頂こうぞ。その方はもう、下がって休むがよいぞ」
「は、はい、そうさせていただきます。後ゆらりと、お召し上がりくださいませ。では失礼します」
信長は数種の寿司を食べたが、なかでもやはり、赤身のまぐろと脂の乗った大トロがたいそう気にいっていた。
そして、あがりの茶を飲みながら、礼を言おうと寿司職人を呼んだ。
「光秀、あの寿司職人を呼べ!」
「何かお気に召さなかった事が、ありましたでしょうか?」
「いや、礼を言いたいだけだ。心配するな」
「では、呼んで参りますゆえ、少しお待ちを」
早速、呼ばれて調理場から来る途中、ふと別の部屋を覗いてみると、五つ木瓜と桔梗の紋が入った二着の陣羽織が、衣紋掛に整然と掛かっているのを見つけた。
「あ、あれは織田信長と明智光秀の紋だ。なるほどなー、この人達は、極度の戦国コスプレ好きの集団だったんだ。やっと合点がいったよ」
勝手に納得して信長の元に来て、再度対面した。
「篤生殿、美味かったぞ。わしは鳴門の渦潮は見た事はないが、機会あれば一度案内せい。だが、褒美を与えたいが、なにぶん、急遽この地へ来た故、何もやれんが許せ」
「は、はい、とんでもございません。その御言葉だけで十分です」
『このお方は、まるで織田信長気取りだが、適当に話を合わせとこうかな。そうだ! 一応サインだけでも貰っとこうかな。でも、なんか本物ぽいな……』
寿司職人の篤生は、半信半疑だったが、褒美の代わりに直筆のサインを貰う事にした。
「あのう、それではサインを頂けませんか?」
「無礼者! その方のような下世話の者に、信長様の書など与えられるものか! だが、一応、聞いてみてやるぞ」
光秀は怒ったが、褒美を与えたいという、信長の希望が叶えられるならと、信長に進言した。
「なに、サインだと? そうか、わしの名だけの書が欲しいのか。なんのたやすい事だ。誰か紙と筆、硯を持て!」
ゆきは筆と硯を探したが、見つからなかった為、色紙とサインペンを信長に渡した。
「変わった筆だが、墨がいらんとは不思議だ。いや、実に便利だ」
褒美の代わりに信長は、ササッと名だけを書いて、最後に花押を丁寧に書き渡した。
「これでよし、我ながら見事な花押が書けたぞ。さあ、褒美の変わりだが、受け取るのだ」
「ありがたき幸せ、鳴門に持ち帰り店の家宝にさせていただきます」
「そうか、好きにいたせ」
その崩し字は、なんとなく織田信長と読めたが、見事な花押も書かれていた。
最後に光秀は、寿司職人に口止めの為、釘を刺した。
「いいか! この屋敷と住人の事は絶対秘密に願いたい。他に漏らせば首が飛ぶと心得よ。よいな!」
「えっ、く、首が? 嘘でしょう……わ、解りました。誰にも口外はいたしません」
それを聞いた鳴門から来た名代寿し辰の篤生は、少しビビッたが、多額の礼金を貰うと、そそくさと帰って行った。
「しかし、変わった屋敷に呼ばれたもんだ。あの人達はまるで、戦国武将の出で立ちと言葉遣いだ。そ、そうだ! この書を鑑定団にでも出してみるか? でも、まさかね。はっはっはっはっ……」
光秀は寿司職人を送り出した後、薄笑いをし意外と冷静だった。
『だが、あ奴が万が一、他に口外しても誰も信じまい。まさか信長様が、この後の世にいらっしゃるとはな。ふっふっふっふっ……』
* * *
その頃、地獄の帝王Zは予想通り、織田信長に滅ぼされた今川、武田、浅井、朝倉など、数多くの武将達を復活させ、信長と鬼龍達、戦士シャドゥマンⅩの抹殺を命じようとしていたのであった。
武将達は甦りの礼として、帝王Zに服従を誓った。
「まことに甦りさせて戴き、ありがとうございます。なんなりとお申し付け下さりませ」
帝王Zはにやりとし、使命を言い渡した。
「良い心構えだ。それでは使命を与える。いいか今こそ、信長への恨みを晴らす絶好の機会だ。おまえ達には特殊な力を与えるが、各々好きな武器と鎧兜を選び、後の世へと旅立つのだ!」
「オー………・・・」
使命を受けた戦国の武将達は、二度とない機会が与えられたと、喜び意気込んだ。
「帝王Z様、ぜひ拙者に先陣をお申し付け下され!」
「いいや、身共にお任せを!」
「首はわしが取る!」
「なにを言う、首はわしの物だ!」
「おのれ信長、今こそ怨念の恨みを晴らす事が出来るぞ。目にもの見せてやるー」
戦国の武将達は、各々我先にと信長の首を取る事を望んだ。
「各々方、慌てるではない! 先んずると仕損じると心得よ!」
そして、地獄の帝王Zは各々戦国の武将達を、信長とシャドゥマンⅩの元へ順次、向かわせるのであった。
『ふっふっふっふっふっ、今度こそ息の根を止めてやるぞ……』
地獄の帝王Zは自信満々で、戦国の武将達を後の世へと送り出した。
「さあ、行け!」
「解り申した。いざ出陣せよ!」
『キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! バァーン!………・・・』
帝王Zの放った強烈な閃光と衝撃音と共に、戦国の武将達は、一瞬に渦巻く時空に呑み込まれ、後の世へと消えていった。
だが、地獄の帝王Zの本当の狙いは、後の世でもある21世紀の世界を征服するという野望があった。
『さあ、これで後の世はわしのものだ。天界の神にひと泡吹かせてやるぞ。ふっふっふっふっ』
その頃、後の世でも帝王Zの動きを察知し、戦士シャドゥマン達は迎え撃つ覚悟であった。
「いいか、地獄の帝王Zは、この後の世を支配する為には、我々が邪魔な存在だという事だ。今度の敵は盗賊一味とは違う、れっきとした手だれの武将達だ。油断をするな! 蘭丸殿も信長様も初陣ですぞ!」
老人Ⅹの光秀は檄を跳ばした。
「任せろ! 腕がなるわい! 蘭丸! ゆき殿の剣術の指南はしたのか? はっはっはっはっはっ………・・・」
「はあっ? はあ……」
信長は後の世でまた初陣を飾れるとは、夢にも思っていなかったのだ。
「鬼龍、若返った体の具合はどう? あいかわらず怖そうな顔は同じなんだけどね。ふふふっ」
「最高だ。力が漲ってくるようだぞ。鬼鷹!」
鬼龍と鬼鷹は、よりが戻ったようだった。
いよいよ、戦士達は鎧兜をまとった最強のシャドゥマンⅩに変身するのであった。
『キィン・キィン・キィン・キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! ピカッ! ピカッ! ピカッ! ピカッ! ピカッ!』
影の守り人全員、強烈な閃光と衝撃音と共に変身し、光秀も共に若返った。
銀の鎧兜をまとった戦国武将の光秀は、二人のレディXを含むシャドゥマンⅩ六人全員が揃い意気揚々だった。
『これで、勝てるぞ……』
「よしっ、来るなら来い! 神は我等に力と、この時を与えたもうた。天も我らの味方だ!」
同じく変身した、金の鎧兜の信長、黒の鎧兜の鬼龍、赤の鎧兜の鬼鷹、白の鎧兜のゆき、青の鎧兜の蘭丸も待ち構えた。
「鬼鷹! ゆき殿! 心構えはいいか?」
「はいっ、私達には炎と氷の特殊な力が備わっていますから大丈夫です」
「よし解った。その返事を待ってたぞ!」
「いいか! これからは、この六人が戦士シャドゥマンⅩだ! この後の世の人々を、地獄の使者から守るのだ!」
銀の鎧兜の光秀は言い放った。
「そうだわ! 記念に写真を撮りましょう」
「なにっ、写真とは何だ?」
「皆さんの姿を写すのですよ」
「あの下手糞な絵のようなものか? 誰が絵を描くというのだ。訳が解らん」
「それはいい考えだ。さあ皆集まれ!」
光秀も即、賛成した。
『ジ―…………、ジ―…………、ピカッ! カシャッ! ピカッ! カシャッ! ピカッ! カシャッ!』
ゆきは持っていたスマホで、数枚の写真を撮り即、プリントアウトした。
「なにっ、もう描き終えたのか? まこと素早いな。な、なるほど……これが写真というものか? どれどれ、こ、これは……まさか、我らの魂を抜き取り、この紙に移し込み閉じ込めたという事か? なんたる恐ろしき絵だ!」
「大丈夫ですよ。これはただの写真ですからね」
「そ、そうか……文明の利器って事か。通りで、そんなに違和感を感じなかったぞ。だが、総天然色で全員精悍に描かれているではないか。今度はまことに満足したぞ。見ろ蘭丸!」
「そうですね。まこと、ゆきさんは絵が上手ですね」
「よし、気に入った。わし専属の絵師に任ぜようではないか。はっはっはっはっ」
まだ後の世の技術力を知らなかった信長と蘭丸は、写真を絵と思っていた為、ゆきは少し笑っていた。
『もしかしたら、鬼龍さんと鬼鷹さんもそう思っているのかしら? ふふふっ』
写真は各々大事に身につけ、周りは戦い前の静けさとなった。
「だが、光秀とわしが後の世で手を結ぶとは、お釈迦様でも御存じなかっただろう。はっはっはっはっはっ!」
信長は緊張感をほぐす為、笑いながら、全員の手を固く握り戦勝を誓った。
そして、甦った敵を迎え撃つ為、変身した影の守り人・戦士シャドゥマンⅩ達六人の雄叫びが、その周辺に高らかに響いた。
「いざ、各々方! エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー!………・・・さあ、出陣だ!」
そのさまは、戦国時代の合戦前そのもので、帝王Zが蘇らせた地獄の使者と、戦士シャドゥマンⅩの終わりなき戦いは、今まさに、始まろうとしていた。
さらば汚れた過去、シャドゥマンⅩよ永遠に………・・・
〔了〕
影の守り人・シャドゥマン-Ⅹ 朝田 昇 @a777hmts
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