第6話 真の守るべき者は織田信長!
鬼龍に歳を戻した神の使いの老人Xは、地獄の帝王の動きをすでに察知し、新たな守るべき者を、鬼龍達に使命として与えようとしていた。
そして、この新たなる使命そのものが、謎の老人の真の守るべき相手だったのだ。
それは、一五八二年六月二日の本能寺の変で、明智光秀の謀反による奇襲で、危うくなった織田信長を守れというものだった。
「敵は本能寺にあり!」
「おー………・・・」
「信長の御首級を頂戴いたすのだ!………・・・」
しかし時遅く六月二日未明、明智光秀の手勢一万三千が本能寺を取り囲み、焼き討ちを仕掛けていたのであった。
「何事だ? なにやら外が騒がしいが……」
「信長様! あ、あれは桔梗の紋、明智光秀殿の謀反と思われます」
森蘭丸は桔梗の紋が入った旗印を見つけ、驚きながら言った。
「なにっ、謀反だと? おのれ光秀、むざむざと殺られはせんぞ!」
『ヒュンー、ヒューン、ヒューン!』
光秀の軍勢から放たれた矢は、容赦なく信長達を襲った。
「くそっ!」
しばらくの間、信長自身も弓と槍で応戦していたが、矢で手傷を負い絶体絶命の状態となった。
『ヒューン! グサッ!』
「信長様! 傷は大丈夫ですか?」
森蘭丸、坊丸、力丸兄弟も必死になって戦っていたが、手勢はさらに襲ってきた。
「心配するな、傷は浅い! しかし、このままでは……よしっ、火を放て!」
坊丸と力丸は周りに火を放ち、迫り来る敵を食い止める為、その場を死守した。
「さあ、早く奥に退かれませ! ここは我々にお任せ下され」
蘭丸は信長を守り、ひとまず御殿の奥に退いた。
その為、もはやこれまでと死を覚悟していたが、首を取られる事は絶対に避けようと、炎の中で自害しようとしていた。
「是非に及ばず!」
その時、何所からともなく、声が聞こえた。
《地下の井戸に飛び込むのだ……井戸に身を投げるのだ……》
それは神の使いである老人Ⅹの声だった。
『……な、なんだー?』
「蘭丸、今の声は誰だ! 何処かで聞いたことがあるような? 地下の井戸に飛び込めと言ってたような?」
「私には何も聞こえませんでしたが……」
それは、地下にある底なし井戸に身を投げろと、暗示させ誘導していたのであった。
「そうだ、井戸だ! 蘭丸、井戸はこの下にあるのか?」
「事前に調べをさせていましたが、なんでも、地下に底なしの井戸があるとは聞いていますが……」
「よし、そこだ! とにかく下に降りるぞ。ゴホッ、ゴホッ! ゴホッ!」
火の手は寺全体に行きわたり、周りは火の海となったが、信長と蘭丸はかろうじて地下に降りる事が出来た。
そして、底なしといわれる井戸を見つけた。
「ここか? よしっ!」
「蘭丸、これまでだ! 首を取られるよりは増しだ。わしと共に新たな黄泉の世で国を作ろうぞ。それでは参るぞ! やーっ!………・・・」
信長と蘭丸は、迷うことなく黄泉の世へと、底なしの井戸に飛び込んだ。
その井戸は後の世へのトンネル、いや入り口であり、まもなく、目映い閃光と衝撃音と共に、一瞬に時空の渦に呑み込まれていった。
『キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! シュバッ!………・・・』
「どうしたんだ―? 渦に呑み込まれたぞ! うわーっ!………・・・」
それは鬼龍同様、後の世への旅立ちであり、冒険でもあった。
その頃、炎に包まれた寺では、火の手がさらに勢いを増していた。
「信長は何処だ! 逃すなー首を取れ!」
「くそ! もう無理だ……」
光秀の手勢は我先にと信長を探し回っていたが、火の勢いが強く、まもなく寺は焼け落ちた。
『ドドドドッ! ガラガラ、ガシャン!』
「信長を探せ! 死体を見つけろ! 首を上げろ!」
当然、信長の遺体は見つからなかった。
「くそっ! なぜ死体がないんだ? 光秀様にどう報告をすればいいんだ……」
重臣達は已む無く、その旨を知らせた。
「なにっ! 信長が見つからないだと! 仕方がない……なれど、天下は我らのものだ!
皆の者、勝ち名乗りをあげよ!」
「エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー! エイ、エイ、オー!………・・・」
一万三千の勝ち名乗りの雄叫びが、その周辺に轟いた。
これで光秀は天下を手にしたと思われたが、さらなる陰謀が隠されていたのであった。
その為、明智光秀の天下は長く続かず、羽柴秀吉の軍勢によって攻め滅ぼさせ、遭えなく三日天下に終わる。
「己、秀吉…謀ったなー………・・・」
それは、光秀を謀反に導いていたのは、秀吉の謀略だったのであった。
戦いに敗れた光秀は、山中に逃れていたが、落ち武者狩りに遭い、農民達の竹槍で深手を負っていた。
「グサッ!」
「うっ! くそっ、こんなはずでは……」
まもなく、命が尽きようとしていた時、苦しみながら叫んだ。
「も、もはやこれまで……天は我らを見放した。む、無念じゃ! 今更、手遅れだが、許されるものなら許して下され信長様―……だ、だが、いつの日か…………」
それが戦国武将、明智光秀の最後の言葉だった。
後の世では……
神の使いの老人Ⅹは、時空のトンネルから信長と蘭丸が、この後の世へ飛ばされてくる事をなぜか知っていた。いや、導いていたのであった。
「いいか鬼龍、新たな使命を与える。まもなく織田信長様と森蘭丸殿が時空を超え、この後の世へと訪れるが、すでに屋敷の手配はしているから、陰ながらお守りするのだ」
ついに、真の守るべき相手の名前を告げたのであった。
「えっ、今何て言いました? お、織田信長と聞こえましたが、まさか……」
鬼龍は聞き間違えだと思っていた。
「そうだ。織田信長だ。信長こそ我らが守る誠の相手なのだ」
それは、老人Ⅹが自分の仕出かした過ちを、信長の命を守ることで、償いにしようとしていた。
そして、それまで明かさなかった自分の名前を、ついに、鬼龍達に告げたのであった。
「今まで黙っていたが、私の名前は明智光秀だ!」
「えっ?……」
「羽柴秀吉の策略にはまり謀反を起こしたが、間違った判断だった。悔いても悔やまれない事だが、信長様に誤解だったと謝りたいと思っている」
なんと老人Ⅹは、謀反を起こした張本人の明智光秀だと名乗ったのであった。
「えーっ! あ、あなたが? まさか嘘でしょう…………」
「嘘ではない! 真だ」
「わ、解りました。そういう事なら我らの使命としてお守りいたします」
鬼龍は少し光秀に同情し、鬼鷹とゆきにも守りの役目を与えた。
「さあ、向かうは京だ!」
光秀と影の守り人・戦士シャドゥマン達は早速、時空の井戸から脱出してくる信長と、蘭丸を迎える為、寺跡に移動し待機した。
* * *
その頃、信長と蘭丸はまもなく、渦巻く時空のトンネルから脱出しようとしていた。
それは、七色に輝くトンネルの出口が見え始めていたのであった。
「あれは……黄泉の国への出口か?」
二人ともそう思った。
「よし、出るぞ。逸れるな!」
『キィン・キィン・キィン!………・・・ピカッ! シュバッ!………・・・』
目映い閃光と衝撃音と共に、信長と蘭丸は後の世でもある21世紀に復活した。
「こ、ここは何処だ! 黄泉の国なのか? まさか地球の裏側か?」
信長は当然、夜という事でもあったが、抜け出した場所と時代は解らなかった。
「だが、ここは少し寒いぞ。たしか夏のはずだが?」
季節は冬であった為、雪交じりの雨が降り、外は気温が低く寒かった。
「なぜだ? 夜なのに意外と周りは明るいぞ。誰かが常に提灯を持って歩いているという事か?」
それは、たまたま遠くにある街灯の明かりが、そこまで届いていただけだった。
その時、待機していた戦士シャドゥマン達四人は、信長と蘭丸の前に現れた。
「信長様、御無事で何よりです。御迎えに参りまいた」
老人の光秀は先頭に立ち、丁重に出迎えた。
「さあ、濡れますので一先ずこちらへ」
鬼鷹とゆきはビニール傘を広げ手渡そうとしたが、信長と蘭丸は、いきなり目の前に現れた四人を見て驚き一瞬ひるんだ。
「何者だ! 無礼な振る舞いをすると許さんぞ! そ、そうか傘か? しかし、この傘は透けて見えるぞ……」
蘭丸が信長を守り立ちふさがったが、老人の光秀は、深々と地面に頭を擦り付け下げた。鬼龍、鬼鷹、ゆきも後に続いた。
「誰だ、おまえは! 迎えに来てくれていたという事なのか?」
信長は誰だか解らなかった。
「私です。解りませぬか? 明智光秀です。手討ちを覚悟で信長様にお詫びを申し上げたく、参上つかまつりました」
頭を地面から少し上げた。
「なに! 今なんと申した。光秀だと?……」
信長はその名を聞いて首を傾げたが、驚きのあまり言葉を失い絶句した。
「ば、ばかなっ! 訳が解らん。光秀は謀反を起こし、わしの首を取ろうとした裏切り者いや、張本人だぞ。わしを謀るつもりか!
だが、そういえばその声は?……しかし、その老いぼれた姿はどうした?」
信長は井戸に飛び込めと、聞こえた声と似ていた為、もしかしたらと思った。
「私は天下を夢見たことは事実ですが、秀吉の策略により、まんまと騙され三日天下となりましたが、私は愚かでした。あの後、秀吉の思わぬ逆襲で、あっさり討ち取られ地獄に落ちましたが、神のお慈悲で影の守り人として復活させていただいたという事です」
光秀は真実を話し謝り続けた。
「なにっ! サルに謀られたと申すか……あ奴はそこまでして天下を狙っていたとは……だが、その方は実に愚かというか、空けよのう。まあいい、許す事にする。励むがよいぞ」
「忝く存じます。誠心誠意、努めさせていただきます」
「ところでここは何処だ? 何やら様子が違うが……」
信長は周りを見渡し、見慣れない景色であった為、別世界だとやっと気づいた。
「はい、今は四百三十年後の、平成の世でございます」
「な、なんと! それはまことか? そうだ、織田家の行く末と秀吉はどうなった?」
信長は秀吉が天下を狙っていたと聞き、その後が気になった。
「はい、後で詳しく解る書物を持参致しますが、織田家は秀吉に乗っ取られたも同然です。したがって、秀吉は天下を取りましたが、その後、家康様に滅ぼされました」
「そうか、家康にのう……織田家も秀吉も一代限りで終わったということか……、だが、秀吉ごときに天下を取られ、さぞ悔しかっただろうな? それにしても、よく奪い取ったものだ.褒めてやりたいぐらいだ」
「しかし、三〇〇年余り続いた徳川幕府も弱体化し、その結果、一五〇年前に鎖国から開国、さらに大政奉還となり、武士の存在しない現在に至っております」
老人Ⅹの光秀は、これまでの歴史と真実を言った。
「なにっ! 大政奉還だと……」
「その為、今は刀を持った武士は存在しておりませんし、髷を結う必要もありません。身分制度もなく皆、自由という事です」
「なんと、今は一人の武士もいないと申すか?……だが、武士の魂の刀は何処に消えた?」
「刃物を持ち歩くという事は、国の法律で禁じられています。あるとすれば、博物館もしくは、古物商とか骨董店には多数あると思われます」
「そうか……、だが、なんたる変わった世の中に、飛ばされて来たんだ?」
信長は予想外の不思議な世と思い、愕然とし落胆した。
「だが、この後の世に導かれていなければ、今ごろ首を取られていたぞ。其の方にな。褒美はないが礼を言うぞ。はっはっはっはっ」
信長は光秀を皮肉り笑った。
「すまぬが、喉がからからで水を所望したいが」
すると光秀は、用意していたペットボトルの水を二本差しだした。
「なんだあ? この入れ物は中の水が透けているぞ。竹筒ではないではないか」
そう言うと信長は、その水を一気に飲み干すと一息ついた。
『ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ』
「ふぅ……生き返ったぞ。さあ、蘭丸もいただくのだ」
「はい、頂戴いたします」
「さあ、信長様の屋敷を用意しておりますので、そこで傷の手当てと御召し変えを、鬼鷹とゆきに申し付けておりますので、まずは御車にお乗りくださいませ」
「車だと? そうか、だが変わった駕籠だ。いや、荷車だのう」
老人Ⅹと鬼龍、鬼鷹は一足先に屋敷へ、三人は生身の人間の為、車で行く事となり、運転はゆきがした。
「さあ、シートベルトをしてください」
『シ、シートベルトだと?』
車のスタートボタンが押され、ゆっくりと車は走りだし、目映いヘッドライトが前方を照らした。
『ピカッ! ブゥ、ブゥゥゥウ!………・・・』
「だ、誰がガンドウ提灯を持ち、灯りを前方に照らしているのだ。だが、この早い乗り心地の良い荷車はいったい何なんだ? それに、雨が入らぬよう窓にギヤマンの板が貼られているぞ。誠、考えたものだ」
車のワイパーが激しく左右に動き、窓に降り注ぐ雪交じりの雨を取り除いていた。
『ウィーンウィーンウィーンウィーン………・・・』
「誰がギヤマンの窓を拭いているのだ? いや、誰もいそうにないぞ。な、なんだあー、次第に暖かくなって心地よくなって来たような……それに その前にある動く地図らしきものは、いったい何なのだ?」
「ああ、これは行き先を案内してくれたり、教えてくれるものなんですよ」
「そうか……だが、この後の世は、からくりだらけでまったく驚きだ」
信長は初めて乗る車にも、驚くばかりであった。
「しかし、あの高い建物は安土城天主より高いじゃないか……」
信長と蘭丸は、窓からの景色に驚いていた。
「そうだ、安土城はどうなってる? 顕在か?」
信長は安土城の事が気になっていた。
「残念ながら、本能寺の変から三年後に焼失していますが、現在では伊勢の方にレジャーランドとして復元されています」
「レ、レジャーランド?」
運転中のゆきは、消失していると、ありのままを答えた。
「なにっ! 焼失だとー……誰が攻め滅ぼしたのだ? しかし、なぜ伊勢に復元された安土城があるのだ? 是非見てみたいが一度、機会があれば案内を頼むぞ」
当然のことだが、信長はその復元された安土城に興味を持った。
「解りました。さあ急ぎましよう」
ゆきは車のスピードを徐々に上げ走らせた。
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