last episode この街に溢れる愛

 少しずつ色づく木々の葉。

 変わる空気の匂い。

 穏やかな風が踊る今日。


 お店のキッチンではパパがたくさんの料理の仕上げ中。

 ママはテーブルクロスをセッティング中。



「ママー!千草さん来たよー!」



 一番最初に店のドアを開けたのは、高木生花店の千草さん。


「今日はありがとうございます」


 手の中には可愛らしいブーケ。

 ふわりと笑ったその笑顔こそが可愛い花束みたいだった。

 そして、後部座席から沢山の向日葵を下ろす旦那さん。


「やっぱりイケメンすぎる!」


 こっそりはしゃいだ私の方をチラリと睨んだイチ。

 私はそれに気がつかないふりをした。



「手伝います」



 スーツの上着を椅子の背にかけて、ワイシャツの袖を捲りながら彼はパパの横に立った。

 千草さんの旦那さんで、ウッチーの双子の弟さん。


 橘 左京さん。


 次にドアを開けたのは、笹野ベーカリーの特製キッシュを抱えた彩ちゃん。


 それから、彼氏の菊地 和浩さん。


 菊地さんは、千草さんや左京さん、ウッチーの同級生らしい。


「菊地さんもイケメン!」


 またまたはしゃいだ私を、またまたイチが睨んだ。


「お待たせ!!」


 次にドアを開けたのは、私が今日一番会いたかった二人!

 東高伝説の二人!!

 森口 翔さんと、奥さんの晃さん!!


「あ!菊地!」

「彩ちゃん!」


 ちょっと別の意味で勝手にドキドキしていた私。

 けれど、翔さんと晃さんは嬉しそうに二人に駆け寄る。


 その様子を見た千草さんは、左京さんにアイコンタクトをして微笑み合っていた。


 また鳴ったドアベル。


 開いたドアから中を覗いたのは、両手にシャンパンの袋を持つ二人。



「またまたイケメン!」



 しかも爽やか!!

 また違うタイプ!!!

 興奮する私を、イチはもう呆れ顔で見ていた。


「奏!ありがとな!麻生も」


 グラスを並べる左京さんがそう言うと、女の人が思い切り頭を下げた。


「倉科さんっ、私来て良かったんですか?」


 小声でそう戸惑う彼女に気付き、左京さんは微笑みかける。


「もちろん!ドレスだって麻生のおかげで決められたみたいだし、それに奏は麻生と過ごせない休日は嫌だって」


 そう言われて慌てた倉科 奏さん。

 笑った顔がさらにイケメンだった。


「萌!お前なー!」


 イチが怒って私の腕を引っ張った。

 それを見たパパがすかさず言う。


「イチ!手伝って!」


 引き離されたイチは少しだけ不貞腐れながらパパの手伝いに戻る。

 満足そうに笑うパパを見ていたママが私の方を見て苦笑いした。



「用意できましたよー!」



 みんなが談笑する中、奥の部屋から聞こえたのは雫ちゃんの声。


「ちょっと柏木!なんで付きまとうの!」


 部屋の前で、今か今かと待っていた柏幼稚園の柏木 豊さんは、やっと出てきた雫ちゃんの後ろを、子供かペットかというほどに付いて歩く。


「1分1秒も勿体ないから!」


 そう堂々と言い放つ柏木さんに、周りのみんながニヤニヤした。


 そして、お祖母ちゃんが仕切り直す。


「主役さんたちは、もう待ちきれないですよ」


 ――と。



「みなさーん!おしずかに!」



 弟のひかるの可愛いオープニングに、みんな一瞬でシンと静まりかえる。


 そして奥の部屋から一番最初に出てきたのは、白いタキシードに身を包み、胸に一輪の小さな向日葵を差した右京先生。

 少し緊張している先生は、いつもと違って可笑しくも思えた。


 ――でも。


 もっと恥ずかしそうにする未央先生の手を握り、優しくエスコートする姿は間違いなく今日一番のイケメンだった。


「みんながいるー!」


 白い細身のロングドレス。

 上品に輝くパールの色と、緩く纏めた髪に差した小さな向日葵。

 手に持つブーケは、さっき千草さんが持ってきたもの。


 とても綺麗な未央先生がみんなの顔を見渡して、すでに泣きそうになっていた。



 そう。


 今日は。



 橘 右京&水沼 未央のウェディングパーティー!!



 式は親族だけで後日するらしいが……


『時間がないのは重々承知なんですけど、どうしてもこの日に』


 ある日一人で店に訪れたウッチーは、そう言ってパパとママに頭を下げた。


 二人が付き合い始めた日。


 その日に『永遠を誓いたい』と彼は話した。


 パパはその場ですぐに引き受けた。

 さすが、私のパパだ。

 そう思った。



 幸せそうに笑い合う人々。


 パパとママ。

 お祖母ちゃんと光。

 ウッチーと未央先生。

 左京さんと千草さん。

 翔さんと晃さん。

 菊地さんと彩ちゃん。

 倉科さんと麻生さん。

 柏木さんと雫ちゃん。


 こんな狭い空間に、幸せがいっぱい詰まってた。



「なぁ、萌」



 やっとパパから解放されたイチが私の横に並ぶ。


「ん?」


 並んでわかった。

 イチの背がまた少し伸びたこと。

 子供っぽさが抜けて、いつの間にか『男の人』に近付いたこと。


「俺たちも……ずっと一緒にいような。喧嘩しても」

「うん」

「この人たちみたいに想い合っていこうな」



 今はまだ、私たちは始まったばかり。

 自分たちよりもずっと大人のこの人たちだって、それぞれたくさんの想いとたくさんの経験を抱えて今があるんだろう。


 右京先生が最後に話した言葉が忘れられない。


『これからも二人で歩いていきます。でも、そのまわりには必ずみんなも一緒にいて欲しい』


 未央先生は隣で泣いた。


 それを見て千草さんも晃さんも、雫ちゃんも、彩ちゃんも麻生さんも泣いた。


 そんな彼女たちにそっと寄り添う人たちもいる。


 微笑むママの手を握るパパの姿。

 もう一つの手を引っ張る光の姿。

 お祖母ちゃんはお祖父ちゃんの仏壇を見つめた。



 この街に溢れる愛。



 私は願う。

 私たちの恋もいつか愛に変わりますように。



 そしてずっと、いつまでも。



 ただ、いつも、この街で。



 あなたを想い続けていきたいと。





 ――ALL END――



『ただ、いつも、この街で。』

ありがとうございました(*^^*)MARIKO

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ただ、いつも、この街で。 嘉田 まりこ @MARIKO

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