最強クラスのチームメンバー

 ―――バラバラバラバラッ!


 およそ10分後、柾屋まさや 雪白ゆきしろを乗せた小型高速ヘリは、線路を近くに臨む大きな広場へと着陸したのだった。


 ―――ガラッ!


 ―――ジャリッ!


 そして扉が引き開けられ、中からは完全武装した雪白が降り立った。

 

「柾屋 雪白さん。これよりは現地担当官の指示に従って下さいっ!」


 ヘリの中からここまで雪白を運んでくれた担当官がそう声を掛けて来た。


「はいっ! まっかせてくださいっ!」


 その声に雪白は振り返って、満面の笑みを浮かべて答えた。


「……それでその……本当にその姿で向かうのですね……?」


 だが担当官が発した次の言葉は、ヘリのローター音に掻き消えてしまうのではないかと言う程に自信無げでか細い物だった。


「そうですよっ? 一番力が出せる格好装備でって事ですよねっ? 今の私にはこの格好しかないんですっ!」


 力強く、やや興奮気味にそう答えた雪白だが、その目が自棄やけっぱちになっている事を担当官は見逃さなかった。それと同時に、少なくない不安も同時に抱えていたのだった。


「そ……そうですか……。では雪代さんっ! 頑張ってくださいねっ!」


 目が尋常ではない雪白だったが、事ここに至ってはどうしようもない。列車を占拠しているテログループはこちらの事情など待ってはくれないのだ。

 担当官はそう自分に言い聞かせ、最後は雪代に向かって力強くエールを送った。


「はいっ! ありがとうございましたっ!」


 その声に雪白は元気な大声で答えたのだった。





「私がこの場を仕切る担当官だ。お前が柾屋 雪白か?」


 目の前にいる如何にも司令官と言った風貌の女性を見た雪白は、何か既視感デジャブの様な物を感じ取っていた。目の前のは、先程ここまで送ってくれた女性と瓜二つだったのだ。


「……あの……先程は……ありがとうございまし……た?」


 思わず雪白は再び先程送ってくれた礼を口にしていた。きっと同一人物で何かのスイッチが入った状態なんだと思わずにはいられなかったのだ。


「ん……? ああ、ここまでお前を送ったのは私の妹だ。その事はもう気にするな」


 余りにもそっくりな二人に雪白はまだ聞きたい事があったが、彼女の言う通り今は時間がないのだ。


「柾屋 雪白。お前にはここで列車の停止を試みてもらう。ここを過ぎればステーションまで距離がない。実質絶対防衛ラインだと心得る様に」


「は……はいっ!」


 担当官の言葉こそユックリと静かな物だったが、その内容は雪代にプレッシャーを与えるに十分だった。雪代は自然と姿勢を正して喉を鳴らした。

 

「お前が列車を停止させたと同時に、中のテログループと持ち込まれた爆弾を無効化する。それにはチームで当たって貰わなければならない。お前にはこの場でチームを組んでもらうメンバーを紹介しておこう」


 どんどんと展開して行く状況に、初めて高難易度のミッションを行う雪白は若干理解が追いついていなかった。だがそんな彼女の状態等お構いなく事態は進んでゆく。


Heyハーイ! Niceはじ to meetまし you! 私の名はレイチェル=スタン=クロー魔。クロー魔で良いわ! それからこっちの娘はスグ……直人なおと、直人ちゃんよ」


「……よろしく……」


「私はマリーベル。マリーって呼んでくだされー。この子はピノンと言いまするー」


 少し離れた所で停まっていた車の影から、3つの影が雪白たちの元へと近づいて来てそう自己紹介をして来た。

 レイチェル=スタン=クロー魔と名乗った少女は如何にも欧米人だと言った風貌で、その見た目にそぐわぬフランクな自己紹介だった。

 マリーベルと名乗った少女も、可愛い顔立ちに落ち着いた風情。少し言葉遣いに特徴がある物の、人当たりの良い好感の持てる少女であった。

 それに反して「直人」と紹介された女性は不愛想で言葉少なめ……と言うよりもほとんど口を開いていなかった。そしてその肩には一匹のセキセイインコが留まっていた。


「ま……柾屋 雪白ですっ! こ……この度は作戦参加となりましてあの……その……」


 だが彼等の落ち着いた雰囲気に対して、雪白の緊張感はMAXに達していた。先程までは躁状態であったのだが、新たな人物の登場で緊張の度合いが彼女を支配してカチコチとなっていたのだった。


「……おい……そんな状態で大丈夫なのか?」


 そんな雪白に、直人と紹介された女性からそう声が掛けられた。ぶっきら棒で野太い声は雪白を心配している様な、それでいて馬鹿にしている様にも聞こえたのだった。その言葉で一気に怒りが思考を支配して何かを言い返そうとした雪代は、そこである事に気付いてハッと言葉を詰まらせたのだった。


「……あなた……もしかして……男性……?」


 そう口にした雪白は、目の前の女性……もとい女装をした男性を注視した。

 白いブラウスの上に紺色のブレザー。紺色が鮮やかな膝丈のタイトスカートに足元は黒のローパンプス。やや内巻きのショートレイヤーも黒髪で、掛けているメガネと相まってまるでやり手のビジネスウーマンか秘書と言った出立だ。この場には明らかに不釣り合いの格好であるにもかかわらず、彼女……彼の醸し出す雰囲気が妙にその服装とマッチしていて違和感を覚えさせなかったのだ。

 だが言葉を交わせば流石にその不自然を感じずにはいられない。やや体格の良い、格好の良い女性だと思っていたのが、実は男性が女装しているのだから。

 

「……ああ、そうだが?」


 表情も変えず事も無げにそう言った男性を前に、雪白は絶句してしまっていた。


Whyあら?,any何か problems問題でもあった?? スグ……直人の恰好、どこかおかしいかしら?」


「そ……そんな事はありませぬーっ! ス……直人ちゃんの格好には、いつも最新の注意を払っておりますからーっ!」


 動きを止めた雪白に、金髪美女のクロー魔がそう声を掛け、その後を継いで美しい亜麻色の髪を持つマリーが続いた。


「え……と……な……直人さんって……男性だったんですね……」


驚きを隠しきれない雪白が何とかそう話したが、彼女達は既にその事実を知っており別段驚いた様子を見せる事は無かったのだった。


「ん? そうよ? すぐに分からなかったのかな?」


「は……はいーっ! 分かりませんでしたーっ!」


 クロー魔は事も無げにそう答えたが、雪白には驚くべき事であった。勿論、趣味で女装をしている人ならば世間にごまんと居る。だが異能力者で女装をして任務に当たる人間と言うのを、彼女は今日初めて知ったのだった。

 

 ……もっともそれは、自分の事を棚に上げて……なのだが。


「直人のCostume衣装も随分と見れる様になったって事ねー。以前は……ウフフフ」


「確かにー……以前は……あははは……」


「おい、以前はなんだって?」


 雪白が力強く肯定したのを見てクロー魔は楽しそうな、マリーは苦笑気味な言葉を溢した。だが直人はそれがどうにも不満だったらしく、不機嫌な声で反論を試みていた。


「まー直人の恰好は兎も角……あんたの恰好も中々Funny愉快よね?」


「はうっ!」


 しかし話の流れから、当然の如く話題は雪代の方に向いたのだった。改めて他人から指摘されて、雪白の顔は見る間に真っ赤となってしまったのだった。


「それはお前の異能力を使う『制約』なのか?」


 直人は何の感情も浮かべていない表情で雪白にそう質問した。この場にこの様な恰好で現れているのだ。冗談やふざけているのでなければそれしか考えられない事なのだ。

 だがその言葉を聞いて、雪白は咄嗟に前面を隠して俯いてしまった。


 彼女は今、黒くくるぶし付近まで裾を持つ長い学生服……つまり長ランを羽織っており、その下には晒しを巻いていた。まるで袴かと思わせる程太腿部分の渡り巾がある学生ズボンはそれが裾まで続いていた。足元には下駄、それも男物の駒下駄を履いていたのだった。その姿は大昔に流行った所謂不良のファッション、番長や応援団長が好んで身に付けていた恰好そのものだったのだ。

 

「わ……私の『制約』は“男装をする”と言う物なので……色々と考えたんですけど、中々しっくりとした男物が無くって……」


「へー……だからその恰好なのですかのー……。確かに学ランなら女性は余り着ませぬからー……」


 雪白の言い訳めいた話に、マリーはそれを気にした様子も無く感心していた。


「でもあんまり気にする事はありませぬぞー。ス……直人ちゃんの制約も『女装しなければならない』なのですからー」


「ちょっ……おいっ、マリーッ! そんな簡単にバラすなよっ!」


 自身に関わる能力の秘密は、特に外部の者へと漏れれば大問題となる……と言う程の物ではない。だが基本的には気軽に話して良い物では無く、アッサリと秘密をばらしてしまったマリーに直人は批難の声を上げたのだった。


「えっ!? そ……そうなんですかっ!?」


 しかしマリーの言葉が雪白の心境に大きな変化をもたらしたのだった。男装と女装と言う違いはあれ、共に異性の恰好をしなければならないと言う共通点は直人に対しての親近感となったのだった。

 一方の直人……直仁はと言うと、余りに雪白の食いつきが良かった為、その勢いにやや押され気味であった。


「それじゃあ、直人さんも女装が趣味なんですかっ!?」


 雪白は目を輝かせて直仁にそう質問したのだった。

雪白の場合はコスプレが趣味となっている。能力の使用制約に「男装」がある物の、彼女にしてみればそれもコスプレの一環であり、その衣装を着る事に抵抗は感じていないのだ。ただ、より男性らしい衣装となると、やはりどうしても露出が多くなると言う点が難点であったのだ。また男性が女性物の衣服を着ればそのまま女装となるのだが、男性物の衣服を女性が着てもそれがそのまま男装となる訳ではない。ボーイッシュな女性用衣服と言う物も存在しており、より男性らしくとなればおのずと絞られてしまい、それが雪白の悩みの種となっているのだった。


「なっ……しゅっ……趣味っ!?」


 だが直仁にしてみればそれは大きな誤解であった。彼は好きで女装をした事など一度も無く、それどころか出来る事ならば金輪際女性物の衣装など着たくないと思っていたのだ。


Yesそう!! Thatそうrightなの!! 彼はとーっても女装が好きなのよー!」


「そ……そうそう! 直人ちゃんは女装が趣味なのでするー!」


 目を白黒とさせていた直仁に代わり、クロー魔とマリーが雪白の言葉を肯定する事でフォローに入った。


「なっ……!? お前達っ!?」


「そうなんですかーっ!? 何だか親近感湧いちゃいますーっ!」


 即座に反論しようとした直仁だったが、その試みはクロー魔とマリーによって遮られた。その結果、雪白は更に直仁……直人に気を許す結果となっていたのだった。

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これは男装備であって、コスプレじゃないんだからねっ! 綾部 響 @Kyousan

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