どのレビューもオチの秀逸さを褒めているが、ぜひ肩肘を張らずに一読して頂きたい。無理にオチを読もうとしない方が楽しめる(と言っても、これほどオチについて言及するレビュー群を先に見てしまったあなたには難しい話かもしれない)。
基本的に、良作は前情報一切ナシで読む方が面白い。レビューの読了時間と本編のそれは大差ない。ぜひ先に本編を見てきてほしいと願った上で、以下は筆者の自己満足によるレビューである。
落ち着いた、とても短い時間のふたりのやりとり。SFとしてのテンプレを彷彿とさせつつも、点々とする違和感。
作者自らが「ミステリー要素もある」と述べるとおり、集中して推理すればおそらく結末を見る前にオチを読める。良いミステリーとは合理的にオチを読むことができる(十分なヒントがある)ものだと僕は考える。そしてその中でも、ストーリーに没頭してついつい推理の意識を失ってしまう作品が僕は好きだ。つまりこれは良いミステリーであり、SFであり、僕の好きな作品だ。
SFとして読む人はミステリーという形態に触れてはっとするし、ミステリーとして読む人はSFという世界観に触れてじんわりと、ふたりの「存在する背景」に思いを馳せることができる。
ここまでこのレビューを読んで、まさか本編に向かわないという方はいないだろう。読了には3分もかからない。よいひとときを。
人と人との初めての出会い。未知のものと相対するとき、人は言葉や仕草といった微細な情報に注意を凝らし、相手の事を少しでも多く知ろうとする。出会いの瞬間は、最も相手の事を知らなくて、最も相手の事を知ろうとしている瞬間だ。
この掌編においても、「葵」は「Clement」の言葉や仕草一つ一つを丹念に読み取り、その人となりに想像を膨らませていく。この作品は、その描写の一つ一つが実に丁寧なのだ。「葵」は「Clement」の言葉や仕草からしか相手を知ることができないから、ある程度まで想像ができても、その範囲には限界がある。「葵」の視点から得られる情報、そこから想像を広げられる範囲とその限界が丁寧に描写されている。
掌編であり、物語は実に短いものだが、その分、描写の一文に至るまで、完成された作品だったと感じた。