第3問〜部活(前編)〜

放課後。


学生といえば勉強、そして部活動だ。


朝昼の勉強疲れも忘れて一心不乱に体を動かす運動部。


静かに、だが内側は激しく、刺すような気迫すら感じる文化系。


どちらも趣味や運動を通して心身を養う大切な場所だ。


かくいう俺も、部活には所属している。



文武両道をしてこその学生だ。

もちろんどちらにも精通している部活動を選んだつもりだ。


『帰宅部』


それが俺の所属する崇高な部活だ。

内容は簡単。


毎日家から学校までの登下校ルートを考え、実際にその道を使って登下校し、より良いルートを割り出す。

そして時に起こる不測の事態に備え、対策するのが我が校の帰宅部の活動内容だ。


なんでそんな部活が認められたかは定かではないが、あったから入ってみた。


毎日レポートを書いて提出することが主な部室での活動である。


現在の部員は2人。


仮にもう1人が可愛い女子生徒なら、ドキドキワクワクの、めくるめくラブストーリーが繰り広げられることだろう状況だが。


そんな俺は現在、部室で1人地図を見ていた。


今日の下校ルートを考えるためだ。


「うーむ……」

「何悩んでんだよ?そんな内容か?」


背後から声をかけられ、振り向くと、そこには見知らぬ男子生徒が1人、ニヤニヤと嫌味な笑みを貼り付けて佇んでいた。


「ちっ、アキラかよ」


アキラとは、うちでも有名な不良グループの頭をしている(らしい)問題児だ。


ちょうど一週間くらい前に他校と揉めたとかで停学をくらっていた。


「チッとはなんだよつれねーな、そこは泣いてダチとの再会を喜ぶとこだろ?」


残念なことに、コイツがもう1人の部員だ。


「いやいや、普通1人で誰もいない静かな教室にいて、背後から話しかけられると言ったら可愛い女の子って相場が決まってるんだよ?なのになんでよりによって野郎なんだよ」


「は?そんな夢見たいな話あるわけねーだろ?現実を見ろよ」


今時時代遅れも甚だしいリーゼントに、改造した学ラン。

喧嘩番長な格好のアキラ。

見た目だけでなく毎日喧嘩三昧な日常を送っている(らしい)。

この部に入ったのも、周辺地図を見て他校との喧嘩場所を選ぶためだとか。

今年中にはこの地域一帯を征服するのが目標らしい。


どっちが夢見てるんだと言いたくなるが、面倒なことになりそうだから口には出さない。


「ああ、で?今回は一週間で済んだのか?」


今回は、というのは、アキラはこれまでも何回か停学をくらっているのだ。

最長で1か月だったか、一週間はまだ短い方だ。


「さすがはジローちゃん‼︎なんだかんだで心配してくれるんだもんな。そう。やっと謹慎解けて今日から復帰、一番にジローちゃんに知らせたくて顔出してみた」


と言って、窓から見える赤くなった空を指差すアキラ。

「いや、そこは授業にでてこいよ、もう放課後だぞ?」



アキラとは高校に入ってからの関係だ。


入学式の日に、金髪で来て先生に怒られていたところを助けて





もらったのがきっかけだ。



……高校デビューとやらに強い憧れを抱いていた俺は、つい出来心でやってしまったのだ。

とはいえそこは素人、慣れないことをしたらあっと言う間に捕まり、めちゃくちゃ怒られた。


危うく入学式の日にいきなり停学をくらいそうになっていたところを、改造した学ランに長いリーゼント姿で、これまた改造した電動自転車に乗ってやってきたアキラが、先生方の注意を一身に引きつけてくれたのだ。

その目立ちようは凄まじく、高校デビューの金髪の俺には構ってられないとばかりに、俺に説教をしていた先生は軽くもとに戻すようにとだけ言って慌てて走って行ってしまった。

アキラにその意思があったかは分からないが、助かったことは事実だし、一応感謝はしている。


「ジローもまた来いよ‼︎やっぱオメーがいねーと勝率伸びなくて」


「またって何?一回も喧嘩しに河原まで行ったことないよ⁉︎何で俺もお前らのグループの仲間みたいになってんだよ⁉︎なった覚えないぞ⁉︎」


見に覚えのない濡れ衣を着せられ、思わず突っ込んでしまう。


そりゃ確かに……


高校デビューしてからというもの、街中を歩いているとよく不良グループに絡まれるようになり、仕方なく返り討ちにしていると、いつの間にかうちの不良グループの仲間みたいな扱いは受けていた。



結果としてアキラとは仲良くなっていたわけだし。


俺自身、校内の不良グループの噂は聞いていたし、向こうも俺のことを知って時々こうして喧嘩に誘ってくるようになったのだ。


誘われるがまま何度か行ったことはあるがロクなもんじゃなかった。


だからまた、というのは違う気もするが、どうもこれまで返り討ちにしてきた不良グループも、現在アキラが揉めている他校のグループらしく、間接的にであるが助けにもなっているそうだ。


「嫌だよ、俺は基本降りかかった火の粉を払ってるだけだし、そんな昭和のツッパリみたいな殴り合いの喧嘩での勢力争いに興味はない‼︎」


とはいえそれとこれとは話は別。

喧嘩なんてやってられないのだ。


「俺が今興味があるのはこの地図を解読することだからな‼︎」


俺にはそう、帰宅部として、この地図に示されたマークの意味を解読するという楽しみが残っているのだ。


おそらく俺らが入部する前にいた誰かがこの地図にマークをつけたのだろう。


「そう、これはきっと誰かの家までの登下校ルート。そしてこのマークは何かしらの出来事があったという印に違いない」


「何だよ、それを知ってジローちゃんに何かあるのかよ?」


やや不満そうに尋ねてくるアキラ。


「決まってるだろ?こんなマメなことをするなんてきっと可愛い女子にちがいない‼︎その子がきっと運命の誰かに見つけてもらうのを待っているんだ‼︎だから俺がその子を見つけて運命の出会いを果たすんだよ‼︎」


声高々と我が野望を宣言してやる。

流石にここまで言えば喧嘩なんかに構ってられないと悟って一人で出て行くだろうとアキラの反応を待つ。


すると、


「おお」


ん?


何かすごいアキラが嬉しそう?


「なんだよ?このマークに心当たりでもあるのかよ?」


「いや、ただ今日は俺も一緒に行こうかなと思って」



「なんだよ?やらねーぞ?この子の運命の相手になるのは俺だからな?」


アキラは見た目のわりに女子に人気がある。


だから先に釘を刺しておく。


「取らない取らない。ただお前がどんな面白い玉砕するか見物かなと思ってさ」


「ふん‼︎玉砕するかはやってみないとわからないだろ?いいだろう‼︎今日こそは俺に可愛い彼女ができる瞬間をみせつけてやる‼︎」



こうしてアキラと一緒にこのマークの場所へ行ってみることになった。


〜後編へ続く〜


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