触れた肌
どれくらいお互いの唇を感じていただろうか。
どちらともなく少し離れたが、それでも鼻先は触れ合ったままの距離にいる。今更ながら、眼鏡が少しジャマだ。
アオイは、正直もう止まれないところまできていた。
全身の血液が腰骨あたりに集まる感覚。甘い甘い口付け、キョウスケの色を含んだ瞳、全てがアオイの理性を奪っていく。
「兄貴……」
キョウスケのスラリと伸びる首すじにチュッとキスしながら、裾をたくし上げ直に腰を撫でる。
とたんにキョウスケの体は分かりやすいほどに跳ねた。
「ッアオイ! 何してる!!」
「オレの〝好き〟わかってくれた?」
「……それは……」
なんでもズバズバ発言することが多いキョウスケが珍しく言い淀んだ。だがきっぱりと言い切る。
「俺はお前と違って男には興味ない」
「オレだって男に興味ないよ。だけど兄貴のことは全部知りたい。どんな時に笑うのか、怒るのか。どんな風にキスするのか、どんな風にセックスするのか、もね」
「……ふざけるな」
「そう思う? すごく真剣なんだけどな。もう一回訊くけど、オレが出て行くって言った時少しは寂しかった? 」
耳元で囁くように「答えて」と言うと、みるみる首すじが真っ赤に染まっていく。
キョウスケは何も答えない。
アオイはキョウスケのその姿が答えのような気がして愛おしさでいっぱいになった。
いつもとのあまりのギャップに思わず「はぁー」と息を整えて、服の裾に差し込んでいた右手をスルリと動かす。
「兄貴、お願い。……オレを拒まないで」
アオイは酷く興奮していた。
未だかつて女性相手にこんな気持ちになったことは一度もない。
「……は、ぁ」
「気持ちいい……?」
ベッドの上で向かい合って座っている2人。
目の前には俯き息を荒くしたキョウスケがいた。
薄いブルーのパジャマは幾つかボタンがはずれ、その下の健康的な肌だけでなく胸の突起もあらわになっていた。
その扇情的な姿に、アオイは思わず右手に握るキョウスケ自身を強く擦り上げてしまう。
「っく……!」
「ご、ごめん」
ハッと気付き今度は優しく労わるように手を動かした。
キョウスケの呼吸が短い間隔になり、アオイの服をギュッと握りしめる姿から、そろそろ限界が近いことが分かる。
アオイはキョウスケの顔を覗き込み、もう一度キスを落とす。今度はちゃんと眼鏡をはずした。
チュと軽いキスからだんだんと舌を絡ませ深いものになっていく。
「ア、オイ……」
「イキそう?」
右手から聞こえる卑猥な音にますます興奮が高まっていった。キョウスケを高めていく手は止まることはない。
「……ふ、ン」
「イっていいよ」
自分の右手を噛みしめて声を殺そうとするキョウスケを、アオイは容赦なく絶頂へと導いていった。
アオイは、さすさすと自分の頭を撫でている。
キョウスケが達し、出したものを舐めとろうとしてゲンコツをくらったのだ。
「なにも殴ることないじゃん」
「正気の沙汰じゃない」
「言ったでしょ。兄貴のことは全部知りたいって」
「……知らん」
アオイは夢のようだった。
自分に対して反応してくれたこと、拒否されなかったこと、感じてくれたこと、こうやって普通に話せてることも、何もかもが奇跡だと思った。
気が緩んだアオイは、
「オレ、この気持ちは本当に言うつもりなかったんだ。言わずに離れようと思った。そしたらまた兄貴を兄貴として見られるようになるかもしれないって。だけど結局無理だった。出て行くっていうのも、あんなにぐちゃぐちゃ悩んで出した覚悟だったのに、オレって全然ダメだよな。……でも、本当に本気なんだよ」
「……」
「……気持ち、悪い?」
キョウスケは、眼鏡のブリッジを上げ「はぁ」とひとつため息をついた。
「兄貴、お願いだから嫌いにならないで」
「拒むなとか嫌いになるなとか、お前は注文が多いな」
フンと鼻を鳴らすキョウスケの口元が軽く上がる。
「……別に気持ち悪くはない、とだけ言っておく」
「っ! 兄貴ッ!!」
感極まったアオイは思いきりキョウスケにダイブして、本日2度目のゲンコツをくらったのだった。
僕らの可愛い人 nachico @nachi_co
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