白飛び(お題:儚い境界)

眩しい光。フラッシュライトの裏側には白飛びしたきみの姿がある。

無論本物だ。おぼろげな輪郭にはきみの名残がある。


手を伸ばしてもとどかない強い光の中。きみはいまだ佇んでいる。


きみは話さない。きみは黙したまま、こちらを……見ているのだろうか? 逆光になってわからない。

わたしは手を伸ばすことも話しかけることもしない。


眩しい光の中、きみが佇んでいる。


ここは夢の中だ。夢……現実世界でない場所だ。

いや、彼岸の手前だろうか。どちらにしても同じことだ。ここは、わたしのいるべき場所ではないのだ。


彼は黙したまま動かない。追えば、きっと追いつくのだろう。なんとなく、そう思う。

一歩踏み込めば。その勢いに任せて走り出せば、追いつくのだろうと思う。彼がそれを望まないだろうこともわかる。自分の事のように、わかってしまう。


『わかってしまうなんていうのはごうまんだとおもわないか』と彼は言うだろうか。言うだろう。そんな気がする。そうに違いないと思った。思ってしまう。

自他の境界は日に日に曖昧になる。白飛びした彼は話さない。間違った認識を訂正する人間はもういない。答え合わせが成されないまま、問いだけが重ねられていく。


眩しい光は目を焼き、視界を濁らせる。きみはそこに佇んでいて、黒い影の輪郭だけが視認される。表情は逆光になっていてわからない。話しかけることも答えることもなく、そこにいる。

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即興小説群 佳原雪 @setsu_yosihara

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