第9話 微かな温もり

「あの、あーちゃん。

 マッチ売りに何かしたの?」


重要な事なので聞いてみた。


「するわけないでしょ!

 見ての通りよ! 体を拭いて学の服を着せただけ!

 まるで私が悪いみたいに言わないでくれる!」


キツイ言葉が返る。


注意をされてから、あーちゃんは学に対して不機嫌な感情を露わにしていた。

それに加えて、疑われた事に腹を立てたらしい。

プイ! と、かわいい仕草で背を向けてしまった。


「そこまで言ってないけど、

 この調子じゃ、話にもならないし・・・」


若干の言い訳を挿みつつ、マッチ売りに視線を移す。

話すチャンスは、まだ訪れていなかった。



そこには、可愛そうに思えるぐらいブルブルと震える少女が、

ベットの上で腰を抜かしていた。

何度か声を掛けたのだが、顔を青くして答えてくれない。

近づくと顔を振り、小さな声で「イヤ」と拒絶を示すのである。


学は冷や汗を垂らしながら思ってしまった。

何と言うか・・・ この展開、非常に不味くないですか? と。


今のこの状況が、漫画やアニメの一場面に酷似しているのだ。

悪役が女の子を攫って手籠めにする展開に似ていないだろうか?

だって、ちょっとエッチな漫画で目にした記憶がある。


学は改めて、自分の行動を思い浮かべた。


気絶するマッチ売りを本人の同意なく家に連れ込み、

勝手に服を脱がして、着替えさせた。

彼女からしたら、知らない場所に監禁された様な状態。

そして、今はベットの上に追い詰められている。


完全にアウトじゃないだろうか?

バレたら僕の人生終わりである。(確信)


冷房が強いのか、鼻水が垂れてきた。

顔から熱が引いていくのが分かる。


彼女を助けたのは、多少の此方都合なところはあったけど、

善意によるものだ。

決して悪意によるものではない。

無いんだけど・・・ マッチ売りさんは、理解してくれるだろうか???



「ちょっと、学?

 あんた、顔を青くして何してるのよ!

 さっさとやる事すまして、すっきりさせなさい!」

「ひぃぃぃぃ」


あーちゃんの言葉にマッチ売りが悲鳴を上げる。

学も悲鳴を上げたい気分だったが、何とか堪えた。


「アンタ! また学に何かしたの?

 学が何だか変なんだけど・・・

 いい加減にしないと、また痛い目にあってもらうわよ!」


今度はドスの利いた声で明確に脅す。

これがスイッチとなって、マッチ売りは壊れた。


「うっ・・・ うわぁぁぁぁぁん! 

 寒いのは嫌だよぅーーーー! 痛いのも嫌!

 拷問するのやめてよーー;;

 もう、やだよ、、 怖い事はやめて下さい;;

 うわぁぁぁぁぁん!」


「ちょ、あんた何泣いてんのよ!

 泣けば済むと思ってんの?

 泣きたいのはこっちなんだから!!

 あんたのせいで学に注意されたんだからね!!

 それに、あんたから仕掛けてきた事でしょ!!

 私は、まだ許してないんだからね!!」


「ごべんだざぁあい!

 ゆるじでぐだざい! 何でもじばず!」


あーちゃんがマッチ売りに掴みかかりそうなところで、

あの単語が聞こえた気がした。


ん? 今・・・ そんな暇はないか。

即座に動いてマッチ売りを抱き寄せる。

そして、あーちゃんから守る体制を取った。


「あんた何して・・・」

「悪いけど、ここまでだ。

 あーちゃん、許してやろう! 何でもするって言ってるし!」


その言葉に、あーちゃんが呆れた顔をする。


「学・・・ 本気で信じてるの? 嘘よね?」


その言葉に真顔で返した。


「アンタ・・・ 馬鹿なの?

 口約束よ、そんなの簡単に破られちゃうだから!」


心配そうな顔で此方を確認するあーちゃん。


「そうかもしれない・・・

 でも、信じてみる事から始めないか?」


少し大人な口調であーちゃんに問いかけた。


「学が、、 そう言うなら・・・」


あーちゃんは渋々了承してくれた。



さて。

こっからは少し手荒くいこう。

少し強引かも知れないけど、マッチ売りには僕のモノ姫になってもらう。


そうすれば、事件性は皆無だ。

美少女監禁? 聞き捨てないりませんな!

彼女は僕のものだ!(キリ


マッチ売りが言ったんだ。

何でもするって! みんな聞いたよね?

そう思い、彼女の方を確認したんだ。



違和感。

先程から、感じてはいたんだけど、あーちゃんの相手で目を向けれなかった。

マッチ売りの方を向いた時、それに気付いてしまった。


「あへぇ。。。 あったかい」


それはマッチ売りの言葉。

学に擦り擦りと冷めた肢体を擦り付け、彼女は涎を垂らしていた。

厳密に語ると、彼女の未成熟な膨らみが学の体に押し当てられていたのだ。

それも彼女から望んで。


「あったかい」


ほっとした様な声音がマッチ売りから漏れる。

そして、向き合った学を熱っぽく見詰めた。


「私と温めっこしまし・・・」

「させるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


学にしな垂れかかるマッチ売りを、体当たりで吹き飛ばすあーちゃん。

マッチ売りの気絶を確認し、今度は学に向き直った。


「学? 覚悟・・・ 出来てるよね?」


それは目に見えてわかる憤怒のオーラ。

顔を笑顔で引きつらせ、一歩。また一歩と学に近づく悪魔の姿。


「あーさま。 僕は何もしてません;;」

「そんな言い訳が、通じるとでも?」


優しく答えてくれるあーちゃん。

絶望は目前に存在した。


「あーさま、人間て酷く脆いから・・・ 優しくして・・・」

「歯ー食いしばって!」


その言葉の後、悪魔は鉄槌を振るった。


「学の馬鹿ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

「フゴッ!」



夏の思い出。

マッチ売りから貰った幸せな夏の一コマ。

それが、、、 悪魔の理不尽な制裁により、意識と共に砕かれてしまった。

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デジラブ ジロジロ @Ziron

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