第8話 戦闘の後に

気付いた時には服を剥がれて、ベットの上に寝かされていた。


いや、厳密に言うと服は着ている。

知らない場所で、見た事もない服を着せられていた。

薄っぺらく、冷たい服。

見るからに男物のダサい服。

コートの様な温もりを感じない、最低の服。


「寒い」


冷気が体を駆け抜ける。


近くからはエアコンの音。

そこから冷たい風が漏れ出していた。


「うそ・・・ なにこれ・・・」


体が冷たい。

思わず、近くに在った毛布を体に巻き付けていた。


さむい・・・

これは、、 拷問?


今、起きている事態が把握できない。

でも、覚えている事はある。


それは、敗北の記憶。


ガクガク、 ブルブル。

頭が冷たくなるのを感じる。

体は完全い冷えて、震えが止まらなくなっていた。


明確な恐怖を感じる。

これから待ち受ける悲惨な末路を思い、マッチ売りは絶望していた。


部屋の外からは、人の気配。

終りが近づいて来る音。


ドアノブが音を立てた。

もう、お終い・・・ だった。





リビングでは、少年が少女に注意をしている。


「あーちゃん、 やりすぎは良くないと思う」

「でも、 学が・・・」


学の注意に対して、

口に出そうとした言葉を飲み込むあーちゃん。

拗ねた表情をして黙り込んでしまった。


彼女は、助けた事を褒めてほしかったのだ。

それなのに注意を受けている。 だから、納得できない。

でも、学を言い訳にするのは違う気がした。


あーちゃんの表情がころころと変わる。

百面相がとても可愛い。


けど、今はそれどころじゃない。

学は今回の件で、一つ思うところがあった。

だから注意を続ける。


分かってもらえるまで。



今回の一件。

僕が気絶してる内に終わってしまった出来事。


終わらせたのは、勿論あーちゃん。

水を大量に降らせ、辺りを水浸しにしながらも、マッチ売りを倒したそうだ。


僕は思う。

住んでる町が、よく整備された町で本当によかった! と。

水捌けが良く、特に被害は出なかったそうだ。

だから、大きな事件にならずに済んだ。


僕が目覚めたのは、周りを野次馬が取り囲んだ後の事。

あーちゃんが僕の頬を引っ叩いて起こしてくれたらしい。


ここからは僕の記憶。


集団監視に晒されて、

涙目になっているあーちゃんを落ち着かせ、マッチ売りに駆け寄る。

彼女が起きると不味いと考えたからだ。

万が一にも彼女が暴れだして、大事になるのを避けたかった。

彼女の寝息を確認してから、あーちゃんに任せる。

あーちゃんは嫌そうな顔をしたけど、引き受けてくれた。


その後、待っていたのは質問攻め。

「何があったのか?」「どうして水浸しなのか?」

「何故、水着の子がいるのか?」「気絶していたけど、大丈夫?」

「あの子可愛いね、どこの子?」「なんであの子、冬着なの」などなど。


大体の質問には「分かりません」と答えた。

水着の件は「アイツ馬鹿だから」と苦笑いすると周りが納得してくれた。

気絶の件は「突然の雨で覚えていません」と答えた。

最後に救急車を呼ぼうかと聞かれ、

焦ったけど、「家が近くなのでとりあえず様子を見て考えます」と答えた。


見知った顔も数人居合わせたので、特に怪しまれる事もなく、

これに異を唱える人物は出てこなかった。


「友達」彼女達を連れ帰る際に、口実にした言葉。

卑怯者かもしれないけど、これが確実な手段だった。


後はマッチ売りをおぶって家に運びこむ。


僕の親は共働き。

この時間、家には誰もいなかった。

あーちゃん全面協力のもと、マッチ売りの体を拭いて着替えさせる。

最後に、僕の部屋に寝かしつけて、今に至ると言う訳だ。


今回の件、

『突然の集中豪雨』と言う事で周りは納得してくれた。

けど、その場に水着の少女と意識不明の少女が居たという情報が残ってしまった。

この際、仕方のない事かも知れないけど・・・

今後は気を付けていきたいと、僕は思う。


何故なら、彼女達には特別な力があるからだ。

周囲の人間にそれを悟られるのは、不味いと思う。


『デジラブ』・・・

これは、単なるスマホのゲームじゃない。 特別なゲームだ。

モノ姫は確かに存在し、他人の目にも映っている。


僕は本当にすごい事に巻き込まれたのかもしれない。

他人に迷惑を掛けた手前、不謹慎かもしれないけど・・・ 

僕はこの時、とてもワクワクしていた。

それと同時に、この出来事を隠そうと考えたんだ。


独占欲。

どうやらそんなものが、僕にもあったらしい。



突然、あーちゃんの雰囲気が変わった。


「学、アイツが起きたみたい」緊張を含んだ声音が、次の戦闘を予感させる。

「わかった」覚悟を決めて、部屋の方へ。


そして・・・



ドアを開けて踏み込んだ先で見たものは、怯える少女の姿。


マッチ売り少女。

初めて見た時の奇行は鳴りを潜め、もはや同一人物とも思えなかった。


戦闘になる・・・ 恐れはなさそうだ。

どうやら、話をするチャンスを得たようである。

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