第7話 うたかたの夢

その日の朝。

僕の目覚めは普段と違い、人生で最高のものだった。


夏休み! 夏の始まり。 昨夜の興奮を思いだす。

あの時はよく眠ったと、自分を褒めてやりたい。

睡眠時間は十分に取れた。

故にコンディションは最高。 外に出る準備も万端。

後はリビングで軽めの朝食を済ませるだけ。


パンを齧りながら、スマホを確認。

ゲームの配信開始時刻が迫っていた。


これから始めるのは、巷で噂のあのゲーム。

街中でモンスターを捕まえて・・・


・・・。

って、何だろう? この既視感。 以前、何処かで似た様な・・・。


いや、まて。

僕は準備を怠らない。

ダウンロードのイメージトレーニングは何度もした筈。

既視感を感じたのはその為じゃないだろうか?


学は降って湧いた不安な気持ちを、適当な理由を付けて抑え込んだ。


期待していたゲームの配信が間近だと言うのに、何故かワクワクしてこない。

こんな事は、初めての事だった。

昨日、あんなに楽しみにしていた筈なのに・・・。


心には、ポッカリと穴が開いた感覚。

空虚で、

とても寂し気持ちがした。



いや、冷静になれ!

待つ事が終わるから、少しナイーブになってるだけだ。

ゲームの名言にもあるじゃないか!

「最後の一発は切ない!!」 って。


ああ、そうだ! 僕にあるのはゲームだけ!

これから始めるんだ!

最高の夏休みゲームを!



アプリストアを確認。

既に配信が開始されていた。

出遅れた事に苦笑いをしながら、アプリのダウンロードを開始。


待ち受けに画面にアプリのアイコンがある事を確認し、急ぎ外に出る準備を始める。

荷物は予めカバンに詰めてあった。


帽子を深くかぶり日差し対策もばっちり。

目指すは近くの公園。

歩くペースも快調。

全てが順調。


でも・・・、 先程感じた既視感が拭えない。


そして、公園に辿り着き、

アプリを起動した時に、、、 それは起こった。



学の目からは大粒の涙が零れていた。

溢れだした感情を抑える事が出来ない。


何かが違うのだ。

思い出せない何かが・・・ 違う。


アプリ起動後、スマホの画面に映し出されたのは例のタイトル。

モンスター玉を投げて捕まえる、あのゲームタイトル。

期待していた筈なのに・・・


「グスン、 これじゃない! これじゃないんだ・・・」


言葉を口ずさむ度に、何かを思い出せそうな気がした。


頭は切っ掛けを求めている。

切っ掛けを! そう思い辺りを見渡す。


『それ』が目に入ったのは必然の事だった。



あの時の噴水。

目に映った瞬間に口が開いた。 「助けて! あーちゃん!!」



バシャーーーーーーーーーーーン!

全てを押し倒す水の圧力。

マッチ売りを中心に一瞬の豪雨が降り注いでいた。


後さき考えず実力行使に出たのは、あーちゃん。

余裕の態度でマッチ売りを見据える。


「暑苦しいと思ったら、火のモノか!

 学は・・・ 無事みたいね」


学は気絶しているが、無事の様だった。


本当に世話の焼けるご主人だと、胸を撫で下ろす。

それと同時に怒りが込み上げてきた。


「別に、熱いからムカついてるだけよ!」


誰も聞いていない場所で言い訳をする。

でも、そんな自分に悪い気がしない。



マッチ売りは唖然としていた。

一瞬の出来事に、為す術もなく倒れていた。


「うそ・・・ 私の救いが・・ 壊れた?」


握っていたマッチが消し飛んでいる。

夢が・・ 救いの火が消えている。

その事実に、マッチ売りは激怒した。


「水の腐れま○こ! キサマも熱くして・・・」


言葉は続かなかった。


属性相性。

圧倒的優位を生かして、水の滝をマッチ売りに再び叩きこむあーちゃん。

水の流れを止めた時には、マッチ売りは気絶していた。


快勝。

怒りに任せた一撃が、全てを押し流していた。

一方的な交戦が終わった後、辺りは水浸し。

近隣住民が騒ぎを聞きつけてやって来る。


不味い! と思った時には遅かった。

周りに人だかり。


そこに居たのは意識のない少年少女と水着の少女。

騒ぎにならない筈がなかった。

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