第6話 火のモノ姫

熱中症には気を付けて! と、言うけれど、

帰路の途中、まさか行き倒れに遭遇するとは思ってもいなかった。


学も熱中症の怖さを知っている。

というか、いまさっき経験したばかりだ。

あーちゃんの助けを受けて無事だったけれど、一人だったらどうなっていた事か・・・


今まさに目前の行き倒れが、その状況を体現している。


助けようと思う。

思うのだが・・・ 寸前のところで、躊躇った。


理由は異常な気温。

行き倒れの周りが非常に高温になっていたのだ。

近づけば近づくだけ熱さを感じる。

簡単に説明すると、

炎天下の中アスファルトの上で、たき火をしている様な状態であった。


それに、近づけない理由がもう一つ。

行き倒れは厚手のコートを着込み、ファーが付いたフードを深く被った上で、炎天下のアスファルトに顔を擦り付けているのだ。

フードの所為で、直接確認は取れないが、喜んでいる様にも思える。


そう、近づけないと言うか、

あまり近寄りたくないと言うのが正解だった。

行き倒れの奇行に少し引いていたのだ。



奇行を続ける行き倒れから、声が漏れる。


「あへぇ・・・ 炎天下最高。 アスファルトグッジョブ!!」


などと、意味不明な事を言っている。


熱すぎて頭がおかしくなったのか?

それとも本当に喜んでいるのか?

そこが、分らない。


誰かに相談しようにも、周りには人影が無かった。



あーちゃんはどうしたかって?

彼女ならスマホの中だ。

そして「呼び出すなら涼しい場所にして!」との注文を受けている。

助けてもらった恩もあるし、今の様に熱い場所での呼び出しは躊躇われる。

だから今回は、頼らない事にしたのだ。



行き倒れの奇行は続く。


「うへぇ~。 室外機ーーーぬるいぞーーーーー!!

 もっと回って、もっと熱くなってよーーーーーーー!!」


その叫びは、聞いてるだけで暑苦しくなる、不愉快な叫び。

何だか周りの気温がさらに上がった気がする。


「ん? 何か変。 むずむずするーーーーーーーーーーーー!!」


何かが気になったのか、ムクっと起き上がり辺りを見渡す。

焦点が定まらないのか、体をふらつかせていた。

フードから覗く頬は真っ赤に染まり、まるで酔っぱらいを見ている様である。


「ヒグッ! って、君はそこでーなーにしてるのかな?」

「・・・」

「うぇっぷ! 駄目だぞーーー!! 挨拶は大切なんだからーーー!! エヘヘ」

「・・・」

「ん! どうした? ん?」

「・・・」

「まったく! 私が気持ち良くなってるのに、 これだから最近の小僧は・・・。

 黙ってればカッコいいとか勘違いしてるタイプですかーーー?? ハハハ!

 ん? ムスッとして、どうかしたの? かな??? プッ。

 あれれ? もしかして、怒っちゃった?

 え? 嘘! 煽り耐性なさすぎ!! アハハハ!」

「・・・」


気が付けば、声をかける前に絡まれていた。

行き倒れ・・・

いや、話しかけて来る彼女からは、本当に酔っている人間の感じがする。

いずれにしろ、迷惑極まりない存在だった。



―――ディン!!

甲高い音と共にスマホから光が漏れ出す。

画面には モノ姫を落とせ! の文字が刻まれていた。


そして、モノ姫のデータが出現。

内容は、

火のモノ姫。 マッチ売りの少女科。


辺りを見渡す。

先程も確認したが、誰もいない。

この場に居るのは、行き倒れと学の二人のみである。


何となく分かってはいた。

異常な気温にも疑問を覚えていた。

こんな異常が起こせるのは、あーちゃんと同じモノ姫だけだと思う。


彼女がマッチ売りの少女。

火のモノ姫。



「あはははは!」


馬鹿笑いを続けるマッチ売りの少女。

そして 「君、もしかして私を狙ってるの?」 核心を突いてきた。



沈黙を肯定ととったのか、彼女が動く。

手には一本のマッチ。


彼女は本気だった。

本気で学を殺しに・・・。

そんなイメージが体を駆け抜ける。


舐めていた。

学はこのゲームをどこかで侮っていた。

全てのモノ姫があーちゃんの様な存在だと、勝手に思い込んでいたのだ。

不思議な事は起こる。 でも所詮、スマホのゲームだと考えていた。


だから、受け身になってしまった。



シュ!

目前でマッチが擦れる音。


「夢を見せてあげる。

 うたかたの夢。 最高の夢を!

 灰になるまで、楽しみなさい。 フフフ」


ゾッとするような冷たい声音が耳元で響く。

急な動きの為か、マッチ売りのフードがはだけていた。


現れたのは、美しく整った顔立ち。

金髪と碧眼がとても似合う少女。

あーちゃんにも匹敵する美貌のモノ姫。

ただその瞳に宿るのは、凍える様に冷たい世界だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る