第151話 密猟する孤児融合体達は幸せな夢を見るか その7

 残るパルマメンバーは後1人。極短期間の内に仲間が次々と倒され、そこに自分達を捕まえに来ている存在を予感したリーダーのカルフは、捕まった仲間達を助けようと血相を変えてユーイチ達の前に姿を現した。


「見えないけどそこにいるんだろ! 後は俺1人って訳だ。けどな、こっちにだって切り札があるんだよ。くそがっ」


 カルフは銃を構えてデタラメな方向にせわしなくそれらを向けていく。どうやらパルマのリーダーには気配を消したユーイチ達を完全に感知するほどの力はないようだ。警戒はしているものの、全くの隙だらけ。その様子に全く危機感を抱く事のなかったユウキは、すぐに行動を開始する。

 彼女は能力を調整して、離れた場所からからかまいたちのような鋭い風を発生させた。その見えない刃はまっすぐに飛んでいき、パルマのリーダーを背後からあっさりと切り裂く。


「ギャアアア!」


 この不意打ちに、カルフは銃を落として痛がった。そこにユーイチが素早く距離を詰め、腹部を狙って掌底を打ち込む。この一撃でパルマーのリーダーも一切反撃出来ないままにその場に倒れた。


「はい残念」


 こうして、パルマメンバーは誰1人反撃出来ないままユーイチ達に回収される。全員の回収にかかった時間はわずか数分の出来事。いきなり全員が倒れた事で現場が混乱をし始めたところで、3人は漁港から超スピードで離脱する。そうして、そのままスピードを落とさずに地元まで一気に駆け抜けていった。

 最初の待ち合わせのコンビニ駐車場まで戻ったところで、一旦全員シンクロ解除。ここで勇一が離脱する。


「じゃ、俺は先に家に戻って寝とくわ」

「お疲れー」

「また学校でね」


 こうして2人になった後は、回収した5匹の異世界生物を届けに行く。この大量の成果を目にしたちひろは、目を輝かせて喜んだ。


「全員回収おめでとう! 臨時ボーナス決定ね!」

「有難うございます!」


 ボーナスの言葉に目が金貨の形に変わる由香。隣でその様子を目にしたシュウトは若干引き気味になっていた。早く帰らないとまずいのは2人も同じだったので、受け渡しが終わった後の手続きとかはちひろに全て任せ、中学生達はすぐに退室した。


 帰りの道中、ボーナスの事で頭がいっぱいの由香は楽しく弾みながら歩いていく。しばらく進んだところで、隣を歩く帰宅する事しか考えていなさそうなシュウトの顔を見た。


「私達、もう敵なしだね」

「だね。この調子でやっていけるといいな」

「だーいじょうぶだって! この私に任せなさーい!」


 その後、お互いの家の前に来たところでそれぞれがまたシンクロ。融合体の超スピードで一瞬の内に誰にも気付かれる事なく、それぞれの自室に戻ったのだった。

 隠蔽工作はこうして難なく完了し、それぞれの家族に彼らの危ない夜遊びがバレる事はなかった。



 この依頼以降、新たな仕事が発生する事もなく、順調に時間は過ぎていく。そうして計画していた休日が当然のようにやってきた。3人は事前に決めていた計画通りに待ち合わせて、一日中楽しく過ごしたのだった。


 スポーツ施設ではシュウトの運動音痴が発覚。ピッチングゲームで低成績を出したのを由香にいじられる。


「あれ? 野球部とかに入ってたんじゃなかったの?」

「うっさいよ」


 その後のバスケのゲームでもボウリングでもいいところのなかったシュウトは、すっかりいじけてしまった。エアホッケーでも最下位の結果に終わり、笑顔なのは由香と勇一ばかり。

 特に勇一はどのゲームでも高得点を連発。文武両道のパーフェクトぶりを見せつける。


「いえーい!」

「くっ……。いつからこんなに差がついたんだ……」

「シュウト……お前、もっとスポーツした方がいいぞ」

「うっさいよ」


 その後は猫カフェに行ったり、カラオケをしたりと楽しい時間はあっと言う間に過ぎていく。スポーツ施設では何もかもうまく行かなくてかなり不機嫌だったシュウトも、カラオケをする頃にはすっかり機嫌は直っており、十八番のアニソンを熱唱しまくっていた。



 楽しい休日はこうして何事もなく終わっていく。忍術と言う切り札を得た3人はこんな穏やかな日々がこれからもずっと続く事を誰ひとり疑ってはいなかった。

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異世界のケダモノが俺の体に住み着いて困ってるんだが にゃべ♪ @nyabech2016

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