第150話 密猟する孤児融合体達は幸せな夢を見るか その6
その頃、パルマ漁船はまたいつ来るか分からない海上保安庁の追跡から逃げ切るために超スピードで海上を爆走中。ある程度進んだところで、追手が確実に感知範囲内に存在しない事を確認する。それは、彼らが海に出た日から毎度のルーティーンになっていた。
一応更に数十分スピードを維持して十分に距離を取ったところで、リーダーで船長のカルフが声を上げる。
「よし、完全にまけたな。このまま港に戻るぞ!」
「「「了解っす!」」」」
こうしてパルマ漁船はいつも贔屓にしている漁港へと直行する。密漁行為をしているために、専門の漁港でしか取引出来ないのだ。ある程度まで陸に近付いたところで異世界生物ブーストは終了し、メンバーは船に戻る。後は惰性で船は港に近付いていった。
陸の明かりが見えてきたところで、ずっと辺りを警戒していたゼーラが目印に気付いて目を細める。
「港、見えてきたっす」
「今回も楽勝だったぜ」
カルフは今回の成果に満足げな表情を浮かべ、すぐに帰港した後の準備の指示を飛ばすのだった。
暗い海を眺めて近付く漁船の明かりを異世界生物の超感覚で確認したユーイチは、今回の作戦の成功を確信する。
「お、来た来た。漁船の中に異世界生物融合体の気配をビンビンに感じる。うん、アレで間違いないな」
(今回も近藤さんの計算通りだったね)
こちら側が感じ取れると言う事は、相手側からも感知出来てしまうと言う事。今はパルマ側が油断しているから警戒されていないものの、もっと近付けば流石に相手にも気付かれてしまうだろう。
と言う訳で、待ち伏せ組はすぐに作戦を開始。ユーイチが背後に控える2人に声をかけた。
「じゃあ気配を消すよ」
「もうやってる」
「あわわ、は、はい~!」
忍術ですっと気配を消した3人はそのまま漁港に侵入。当然のように見張りがいたものの、全く気付かれずに余裕で港内に入る事が出来た。この時、漁船は港についていて、船の中の魚を水揚げしている真っ最中。
パルマのチームメンバー達も普通の漁師みたいに作業に夢中になっていて、気配を消して近付く3人に全く気付いてはいなかった。
ジャンプして飛び込める位置にまで近付いたユーイチが、目線で合図を送る。2人もすぐにアイコンタクトを返して、本日の作戦は決行された。
3人はまず気配を消したまま漁船に飛び乗ると、作業に夢中になっているパルマメンバーを背後から襲った。
「うわっ」
「うわっ」
いきなりの背後からの素早い手刀で、まずは作業中のルービラとスクマが倒れる。ユーイチとユウキは、分離した異世界生物を素早くキャリーに回収した。
仲間が突然倒れ、そのまま人の姿に戻ったのを目にしたゼーラは、この怪奇現象じみた状況に分かりやすくビビった。
「うわっ」
「な、何だ?」
ゼーラの隣で同じく作業に夢中になっていたセキンもまた、この異常事態に動揺する。しかし、流石修羅場をくぐってきた副リーダーは、これが自分達を狙った敵の襲撃だと気持ちを素早く切り替えていた。
「敵だ! くそっ、どこにいる!」
「敵だって? 嘘だろ? 俺達の行動がまた読まれたって言うのか?」
「セキン、感覚を研ぎ澄ませ! 近くにいるぞ!」
「わ、分かった……」
組織の2番手と3番手は背中を預け合い、お互いの死角をカバーする。気配を消したユーイチ達は、ここで敢えて自分達に意識を向けさせるようにゆっくりとその存在感のレベルを上げていった。
勿論完全には姿を現しはしない。目の前の警戒する2人の意識を向けさせる程度だ。これも事前に立てた作戦のひとつだった。
「お、おい……この気配、敵は向こうにいるぞ」
「ば、馬鹿。セキン持ち場を離れ……ギャアアア!」
ふんわりと気配を匂わせて、パルマの2人の意識をよそに向けさせたところで、ミヤコの電撃が走る。予想外の方向からの攻撃に呆気なく組織の2番手と3番手はその場に倒れた。作戦の成功を確認してユーイチ達も合流し、この2人も素早く分離させる。
慣れた手付きで伸びている異世界生物をキャリーにつめたユウキは、一連の作業を終えるとニンマリと表情を緩ませて手をパンパンと叩いた。
「ハイおしまい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます