第149話 密猟する孤児融合体達は幸せな夢を見るか その5

 それから三日後、真夜中の某海域で不審船が操業を始める。非合法組織から借り受けた漁船で密漁を働いていたのはパルマの連中だ。異世界生物融合体の超人スキルによって、どんどん魚が釣り上げられていく。

 どうやらこの夜も調子が良かったみたいで、メンバーのスクマは増えていく魚の山を見て笑い始めた。


「うへへへ。今夜も大漁だぜ」


 勿論彼らがやっているのは密漁な訳で、それがずっと何事もなく続けられるはずもない。海の上の不審行為を発見した政府の船が、取り締まろうと近付いてくる。

 当然、そのリスクも承知の上な訳で、見張り役のゼーラがその融合体超センスで近付く船にレーダーより先に反応。


「来たぞ、海上保安庁だ!」

「よし、行くぞオメーラ!」


 パルマのリーダー、カルフの号令を受けて、メンバーが次々に海に飛び込んだ。そうして一気に船を押す格好でバタ足をする。この地味で確実なブーストによって漁船は信じられないほどのスピードを出し、見事に海上保安庁の追手からからやすやすと逃げ切ったのだった。


「へへっ! ばーかばーか!」


 海上保安庁の船を無事に振り切った後、船に戻ったメンバーのゼーラは漆黒の海に向かって悪態をつく。そうして安心出来る環境になった事を確認した後で、また密漁を再開させたのだった。



 その日の朝3時。勇一の部屋の窓がそろりと開き、冷たい夜風が入ってくる。夜の静かな気配の中、部屋に入ったところでシンクロを解いたシュウトは、布団にくるまった部屋の主にこっそり声をかけた。


「おはよーございます……」

「わあっ!」

「お、意外と早く起きた」


 寝起きが悪いと聞いていたので、このたった一言で目覚めた友人の反応にシュウトは軽く失望する。布団に潜ってはいたものの、勇一は出かけられる服装のまま横になっていた。そう言う特殊状況だったのも寝起きの良かった理由かも知れない。

 彼はすぐにダウンジャケットを身に着け、シュウトを急かす。


「あんまり騒いで親にバレたくない、早く行こうぜ」

「おう。じゃ、行くか」


 こうして静かな真夜中に中学生男子が走り出す。2人が目指す先は待ち合わせ場所のコンビニだ。明るい場所だと親切な人が心配して警察に連絡をするかもだから、コンビニの駐車場の目立たない場所が正式な待ち合わせ場所となる。

 2人がそこにつくと、既に由香が待っていた。


「おはよ。お2人さん」

「おはよ」

「何か不思議な感じだよ、こんな真夜中に……」


 この時間帯に行動するのが初めての勇一は、今の状況にかなり興奮しているようだ。少し息も荒いし、まず目の色が違っていた。

 そうして、この期に及んで改めて由香の計画について疑問点を口にする。


「でもここからその港まで走ってくって、体力大丈夫かよ?」

「ま、平気じゃない? たかだか100キロくらいだし」


 100キロの距離をたかがと言えるその話のスケールに勇一は閉口。その隣りでは、シュウトが背負っていたバックから何かを取り出して勇一に手渡した。


「この体力増強ユニットをつければ問題ないから」

「お、おう。サンキュ」

「さあ、朝の4時に取引があるってにらんでるから時間はないよ!」


 全員がユニットを足に取り付けた時点から作戦の第2段階に移行する。ここからは融合している異世界生物のターンだ。3人は一旦深呼吸をすると声を合わせる。


「「「シンクロ!」」」


 こうして全員がそっくり入れ替わり、そこでそれぞれの顔を見合わせてうなずく。ユーイチ達は事前に聞かされていた計画に従い、パルマが取引をする港に向かって全速力で走り出したのだった。

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