5個目 冒険すること

「冒険者なのに冒険してないよな。」

それはユウヤのこぼれた言葉からだった。

ゲームの世界『ナイトクロス』に閉じ込められて大体一週間は経った。だけど災害だったり、魔物の大群が来るなど、そんな沢山の冒険者が必要になる程の出来事もなく、ただ普通の平和な生活をしていた。

「そんなこと言ってる割には私服で過ごしてるよな。」

「んなっ!?」

今の『ナイトクロス』はプレイヤーが店を出していた。料理店だったり、服屋だったりと、沢山の店を出している。リサとリナも自分も(私は女だけど男物)私服を着ていてほとんどリアルと変わらない生活になっていた。

「だけどよ、このままってのもなんか変じゃないか?」

「普通じゃない?」「平和でいいと思います。」

姉妹揃ってユウヤの意見を切り捨てる。

ユウヤがこっちを見て腕組みをして、

「冒険者ってニートみたいなもんだろ?そうは思わないかね?サキくん?」

意見をぶつけてきた。

「知らね。本当にニートでもこんな生活しないだろ。」

もちろん自分も切り捨てた。

でも冒険しない冒険者が増えているのは事実だ。冒険するとしても魔物を倒したり、NPCのクエストでお金稼ぎをするくらい。遠出するのは戦闘ギルドか商売ギルドくらいだろう。

「そういえば一昨日くらいかしら、死んだ人が神殿から復活したって。」

「じゃあここで死んでも復活するってことか。」

「デスペナルティはあるんじゃない?ただで復活はしないと思うし。」

元々、『ナイトクロス』は、死んだらデスペナルティで経験値が減らしたり、お金を半分にしたりして復活している。

「復活アイテムは・・・ああ、課金アイテムだから無理か。」

「ええ、この世界から出ない限り、課金もできないしね。」

「ていうか今更じゃないか?言い方悪いけど死人が出たの」

「皆警戒していたからじゃない?私たちも最初は外に出るのは嫌だったし。」

私とユウヤは、初日からダンジョン攻略しちゃったけど。

「いやいやこんな話じゃなくてさ、冒険しないかって言ってるんだよ。」

ユウヤが話を切って冒険の話になる。

「んーまぁリナのレベル上げならいいけど。サキ?なんかいい所ない?」

「えっ!?姉さん何言ってるの!?」

「うーん、一様あるよ。確か『賢者の洞窟』だったかな。推奨レベル55。」

「ご・・・55!?」

「リナのレベルは51よ?大丈夫なの?」

「前線がヘイト上げれば問題ないでしょ?」

「まぁ私は守護士ガーディアンだし、ユウヤがいるなら多分大丈夫だろうだし。」

「あるぇ?サキくん、君は?もちろんくるよね?」

ユウヤがニヤニヤしながらこちらを見る。

殴りたい。

「自分、面倒なんだけど・・・」

「わ・・私のレベル上げを手伝ってくれないんですか?」

リナが声をかけてきた。

うわ、今にも泣きそうだ。これ断ったら、リサに殴られそう・・・

「わかったわかった。行くよ。」

「ありがとうございます!」

深々と頭を下げた。その後リナの顔が喜びの顔になった。

「よーし!じゃ準備して出発しよう!」

各部屋に戻って準備を始めた。


数時間後、冒険の準備を終え、北口ゲート前に集合して、計画を立てることにした。

「『賢者の洞窟』は、毒、呪いとかの状態異常バットステータスのオンパレードだから回復アイテムか魔法で・・・リナ?」

「ひゃい!?何でしょうか!?」

噛んだ。緊張しているのだろうか?

「リーナ?落ち着いて?あのかなり優しいサキだっているし、多分頼りになるユウヤがいるから、推奨レベルより低くても大丈夫だって。」

「ちょっと!多分ってなんですか!?」

「私、優しいか?」

ユウヤがそう思われるのはいいのだが、私がそう思われるのは心外だ。

「さぁ!リナの為にもしっかり働いてもらいますよ!」

無視された。

自分達は、リナのレベル上げとして冒険を開始した。


「ちょっと待て!聞いてないって、危っ!」

簡単に行くはずだったが賢者の洞窟までの道中に沢山の大型ドラゴンが配置されていた。

「うーん、もしかしたら魔物配置変わったのかな?」

確かドラゴン集団はもう少し隣のエリアだったはず。大群のドラゴンに追われているユウヤが私に向かって叫んだ。

「考えてないで早く範囲魔法撃てよ!」

「無理だわー。リロード中ー。」

技や魔法は連発して発動はできず、リロードという待機時間がある。私は範囲魔法を沢山使ったので、全ての範囲魔法がリロード中になっていた。

「ああ・・・ユウヤさんのHPが・・・『キュアラー』!」

リナが中級回復魔法を発動させ、ユウヤのHPが回復する。

「ありがとうリナ!よっしゃ!これなら俺だってぇ!?」

ドラゴン集団の炎ブレスがユウヤを襲うが、当たる前にかわす。惜しい。

「ちょっと数が多すぎじゃない!?このままだと・・・」

リサも数体のドラゴンを引きつけながら叫ぶ。確かにこのままだと回復アイテムが尽きる所か全滅するのが目に見える。

「・・・洞窟まで走るぞ!『ヘルストーム』!」

範囲魔法を発動させ、ドラゴン集団が怯んだ隙に、私達は洞窟にダッシュした。


「・・・死ぬかと思ったぞい・・」

ギリギリアウトだアホ。

「なんであんなにドラゴンがいたんでしょう?」

リナはリサのHPを回復させながら聞いてきた。

「それがわからないんだよな。生息地域が移動したか、湧き場所が変わったか。」

もしかしたら他の所でもこんなことがあるかもしれない。

「うわ、回復アイテム足りるかな・・・」

ドラゴン戦で少しアイテムを使い過ぎたらしい。持ってきたアイテムが半分しか無くなった。

「キツくなったら脱出魔法エスケープ使うから、大丈夫だ」

「お前のキツイの基準って分かり難いんだよなー」

「お前はデス○ーラでもしてろ。」

「酷い!?」

自分とユウヤがもめてる中、リサが割り込む

「本当に仲が良いんだね。リアルでも性別がそのままだったらカップルなのにね。」

「「断じて断る!」」

なんて恐ろしいことを言うんだリサ!

「さてと、回復も済んだしさっさとダンジョンクリアしていこーか!」

リサは立ち上がってダンジョンの奥へと進んでいった。

「あ!待ってよ姉さん!」

リサに走ってついていくリナ。

「よくできた姉妹だよなぁ」

「あれ?お前姉いなかったっけ?」

確かユウヤには姉がいたはずだが。

「あーシズ姉のこと?あいつは駄目だわ。適当過ぎる」

「おーい!なにやってんのー!?はやく行こうよー!」

奥からリサの声が聞こえた。

自分達は仕方なく、走って追いかけた。


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仮想世界にだってあること 弥舞 揺良 @yurura

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