第2話深き森の白花

ヴィランたちに襲われていた少女、ミリーを助け出したエクスたち一行、彼らはミリーがどうしてヴィランたちに襲われていたのか訳を聞くことにした。


「それでミリー、どうして君はヴィランたちに追われてたの? 」


エクスの問いに、


「お、追われてなんかいないわ! 別に、怖かったから逃げてたなんて思ってないんだから!! 」


ふん! とミリーは腕を組みそっぽを向きながら答える。気のせいだろうか、彼女の声が少し震えているようにも聞こえる。

エクスは彼女のこと態度に、えぇ……、となんとも言えない顔つきになる。


「ですが、さっきのアレはどう見てもヴィランに襲われているように見えましたが? 」


シェインが言いかけた時に彼女は、はっ! と

我に返ったかのように、エクスたちの方へと向き直し、


「ち、違う! そうじゃなくて……その……えっと……。」


目を泳がせ、うつむきながらゴニョゴニョと何かを口にする。


「おいおい、急に黙り込んじまったが……どうしたんだ? 」


「もしかして、ヴィランに襲われた影響でショックを受けたんじゃ……? 」


「そんなんじゃないわよ!! 」


タオとレイナの話が聞こえていたのか、彼女は真っ向から否定する、彼女の目からは涙が滲み出ており、何かを訴えるかのようにエクスたちに伝える。


「私は……逃げてなんか、ないわよ……本当に……うぅ……」


ミリーはしゃがみこみ顔を膝に抱え込むようにして泣き出してしまった。


「タオ兄、女の子を泣かすなんてサイテーです。」


「タオ、いくらなんでも酷いと思うよ……? 」


「待て待て!! 俺のせいなのか!? 」


タオに対してシェインとエクス、二人は冷ややかな眼差しをタオの方へと向ける。


そんなタオがあたふたしている中、レイナはしゃがみこんでいるミリーの元へと近づいて、

ミリーの前へとしゃがむ。


「大丈夫よミリー、私たちはあなたの味方だから、落ち着いたらでいいから、何があったのか話してくれないかしら? 」


レイナは優しく彼女の頭を撫でる……

泣いてる子供をあやす母親のような表情で。


「……すけ……」


「ん? どうしたの? 」


微かに彼女が口にした声を聞き取れなかったレイナはもう一度ミリーに聞き返す、ミリーは泣きじゃくった顔をあげーー


「……助けて……」

それは、彼女の悲痛な心の底から湧き上がった叫びだった。




「なるほどな……親友が怪我をしたから誰かに助けを求めようと一人で探していたところにヴィランの集団に襲われたってわけか……。」


「それで、今その友達に喧嘩していた一人が代わりに看病してくれてるわけですね……。」


「それにしても……その友達を怪我させた魔法を使う人物、何者なのかしら? 」


ようやく心を落ち着かせたミリーは、エクスたちにこれまでの経緯を話すことができた。


どうやら彼女は一緒に旅をしていた親友が喧嘩をしている二人の女性たちを仲裁しようと間に割って入ったところ、そのうちの一人に攻撃されて目を覚まさないでいるとミリーは語った。


「とにかく、すぐにミリーの親友を助けにいかないと! 」


「そうね、ここでうだうだしてても仕方ないわ、今すぐに行きましょ! ミリー、あなたの親友がいる場所に案内してくれるかしら? 」


「え、えっと……私が通ってた道から

少し離れた森に……。」


そういって彼女は自分が通ってきた道を指差す。

エクスとレイナの発言に驚いたような表情を見せるミリー、


「あ、あなたたち……私の言っていることを信じてくれるの……? 」


彼女は不思議そうにエクスたちに聞く。

そんな彼女の質問に対してシェインは、


「信じるも何も、ミリーさんが初めから助けを求めていたのなら、いかない理由はありません。言い方に関してはちょっとアレですが」


人助けをするのは当たり前かのように言うが、

後半が少しばかりミリーに対する不満を口にする。


「ま、俺たちはこの世界じゃ右も左もわからねぇからな……俺たちじゃあすぐに迷っちまうからな、誰かさんのせいでなーー」


「あーら、タオ……それっていったい誰のことを言っているのかしらぁ? 」


心当たりがあったのか、タオに満面の笑みで近づくレイナだが、これ以上にないくらいの笑顔だからか、タオは少したじろぐ。


「げっ! べ、別に誰もお嬢のことを言ったわけじゃーー」


「問答無用!! 」


ーー待ちなさーい!! ーー


逃げるタオを必死に追いかけるレイナ、そんな彼らを見てエクスは苦笑する。

ミリーもまた彼らの行動に、呆れた表情を見せる。


「はぁ……あんたたちって変わってるわね。」


「あ、あはは……。」


「でもーー」


レイナはタオを捕まえ卍固めを決めている中、

ミリーは少し言葉を紡ぎ、


「えっ? 」


「ちょっとだけ、羨ましいかな……。」


そう小声で呟いた。


「そこのお二人さん、いつまでそこにいる気ですか? 早く行きましょう。 」


シェインが準備を終えてエクスたちの方へ駆け寄る。


「いや、あんたたち私が案内するのになんで勝手に進んでるのよ……。」


「おっとそうでした、では道案内の方をお願いします。私は姉御たちを呼んでおきます。」


そう言ってシェインはレイナとタオの方へと向かっていく。


「それじゃ行こうか、ミリー」


「……はぁ、大丈夫なのかしら……。」


少々不安に感じながらもミリーは歩き出す。

親友を助けるためにーー




エクスたちは平原から少し離れた森へとやってきた。

辺りは背の高い木々が立ち、深い森となっていた。

ミリーが言うには、怪我をした親友はこの森に待たせているとのことで、全員辺りを見渡すがーー


「結構広い森だな……確かにここならけが人の一人や二人隠せるが……本当にここなのか? 」


タオはミリーの方に向いて尋ねる。


「おかしいわ……、どこ行ったのかしら……? 」


ミリーは隈なく辺りを見渡すが人影すら見えないでいたその時ーー


ーーガサガサッーー


「な、なに!? 」


レイナが振り向いたその先には茂みが揺れていた。

エクスたちはそれぞれ武器を構え警戒態勢をとる。


「もしかして、ヴィランか!? 」


エクスたちに緊張が走る、タオは拾った木の棒を強く握りしてる。


「ミリーさん? もしかしてミリーさんですか? 」


「お、女の人の声!? 」


「そこにいるのは誰なの!? 出てきなさい! 」


茂みの方から聞こえたのは女性の声だった。

レイナは声の主に向け、姿を表すように指示する。


レイナの声で声の主と思しき人物が茂みから一人の女性が現れる。

髪は長く伸びた銀髪で、白とピンクの衣を身に纏い、手には杖のような物を持っていた。


「クラリス! 」


ミリーは茂みから出てきた女性の元へ駆け寄る。


「あぁミリーさん、ご無事でよかったです……ところでそちらの方々はいったい……? 」


彼女はエクスたちを不思議そうに見る。


「えっと、この人たちは……」


ミリーはまたしても口を濁してしまうが、


「えっと、初めまして。僕はエクスって言います。」


まずは挨拶にとエクスは自己紹介をする。

レイナやタオ、シェインもエクスに続いて自己紹介をする。


「これはご丁寧に、私の名前はクラリスとお呼びください。」


彼女は深々とエクスたちにお辞儀をする。


「それで、怪我をしてる人がいるって聞いてシェインたちはミリーさんについてきたわけなんですがーー」


それぞれ挨拶を終え。シェインは話を切り出す。


「そうだわクラリス! エイトはどこなの!? 」


ミリーは血気迫る思いでクラリスに言いよる、


「お、落ち着いてくださいミリーさん、

実は隠れるのに丁度いい洞窟を見つけたのでそこにエイトさんを休ませてあります。」


「だったら早くそこに案内して!! 急いでこの人たちに治してもらうわ! 」


次々とミリーから言葉攻めに合うクラリス、

そんなミリーをタオが止める。


「待て待て、ちっとは落ち着けよミリー……このお姉さんが困ってるじゃねぇか。」


「タオさん、良いのです……こうなってしまったのは『私たち』……いえ、私のせいなのです。」


「えっ? それってどういうーー」


エクスが気になったことをクラリスに問おうとした時、


「クルル……クルルルル……」


「姉御、ヴィランです! 囲まれてます! 」


「くっ、仕方ない……みんな『空白の書』を! 」


レイナの号令にエクスたちは互いに背中合わせになり、それぞれが持っている『空白の書』を

開き、そこに『導きの栞』を挟み、英雄ヒーロー接続コネクトしていく。


周りには既に多くのヴィランたちが取り囲んで今から襲われてもおかしくない状況だった。


「ふ、ふん! こ、こここんな奴ら私一人で……ぎ、ギッタンギッタンにし、してやるんだから!! 」


「おー、ミリーさんやる気満々ですねぇ」


「いや、足が思いっきりガクガクしてるんだが気のせいか? 」


「う、うるさいわよ! と、とにかくこいつを倒してエイトを助けないと! 」


タオとシェインの指摘に、ミリーは怒り半分、怖さ半分な気持ちで自ら持つ魔導書を開き、迎え討つ構えを取る。


「私もお手伝いいたします、サポートの方は任せてください! 」


クラリスも手に持った杖を構える。


「クルアァァァァァァァア!! 」


集まっていたヴィランたちが一斉にエクスたちに飛びかかる。


「みんな、行くよ!! 」


エクスの掛け声で全員がヴィランに突撃していく、斬撃音と矢の放たれる音、ヴィランたちの断末魔が森全体に響き渡っていった……。




ヴィランたちとの戦いを終えたエクスたち、

辺りは元々薄暗くあった森が更に暗くなっており、クラリスの魔法でなんとか周囲を見渡せるようになっていた。

彼らはクラリスの案内の元、森の中を進んでいた。


「それでクラリス、あなたはどういった経緯でミリーに会ったの? 」


レイナの質問にクラリスは語る。


「私は姉を探していたんです。数年前に突然いなくなった姉を……。」


「姉の名はアデリア、私たち二人はある特別な力を持ってこの世に生を受けました。」


「特別な力? 」


エクスの疑問に、


「口にした言葉が全て真実になる力、といえばお分かりでしょうか? 」


とクラリスは答える。


「要するに、新入りさんに向かって『あなたは饅頭です』って言えば饅頭になるんですか? 」


「な、なんで僕なの!? 」


「冗談ですよ。」


シェインの冗談にからかわれ困惑するエクス。


「正確には……無から何かを生み出すというのは出来ないんです。有機物を……それを基にして

あらゆる成長仮定へと変化させる、それが私たちの力なんです……。」


「えーっと、どういうこったそりゃ? さっぱりわかんねぇぞ…? 」


タオは専門学的な知識に弱いのか頭に多くのハテナマークを浮かべ頭を悩ませていた。


「要するに……生き物の『運命』を変えてしまうってことよね、クラリス?」


「えぇ、そういう解釈で大丈夫です……、

私はその力で枯れた大地に草木を生やしたり

緑をたくさん広めていきました……ですが」


語っている途中に彼女は一つ間を置き、


「あの人は、私の前から姿を消しました。

なにも告げずに姉さんはいなくなってしまったんです。そして私は姉さんを探す旅に出て、ようやく……ようやくあの人を見つけたんです。

どうして妹の前から姿を消したのかどうしても聞きたかったんです……でも、あの人は変わってしまった……私に杖を向けて……。」


「それでエイトはあんたたちの喧嘩を止めようとして間に入って怪我したってわけ……全く、とんだ迷惑よ……。」


今まで黙っていたミリーが突然クラリスの間に割って入るように話す。


「ちょっとミリー、それは言い過ぎだよ! 」


「なによ! こうなったのも、そもそもあんなところで喧嘩してるのが悪いのよ! 」


ミリーに対してエクスは彼女を叱りつけるがミリーは反発するが、彼女は既に半泣きの状態になっていた。


「グスッ……じゃなきゃ、エイトは……エイトは……。」


「あ、新入りさんが泣かしましたね。」


シェインはぼそっと小声で言った。

ミリーは全身を震わせながら、涙を堪えていた。


「あ……ごめん、僕も言いすぎたよ……。」


エクスも我にかえり、ミリーに謝罪する。


「……とにかく、今はミリーの親友のところに行きましょう。詳しい話は後で聞くわ……クラリス、引き続き案内を頼むわ。」


「は、はい……では行きましょう皆さん。」


暗い雰囲気の中、エクスたちは再び森の中を進んでいくのであった。








「見えました、あそこです! 」


しばらくして森を抜けた際、クラリスが歩みを止め、ある方向を指差す。

その先には一つの洞窟が目に留まった、人一人を隠せるどころかエクスたち全員が入っても十分なくらいの大きさをしていた。


「エイト! エイトォォ!! 」


エクスたちをかき分け、ミリーは洞窟の方へと走っていく。


「あ、ミリーさん! 待ってください! 」


クラリスとエクスたちも彼女の後を追う。


洞窟の中に入ったエクスたち、だがその中は洞窟の奥が見えるほど明るくなっていた。

壁に花のようなものが左右に一つずつ、まるで街道のように規則的に並べられておりその花から光が出ており、暗い洞窟内を照らしているのであった。


エクスたちは洞窟内へと入り、奥へと進むとそこには先に入っていたクラリスとミリーの他にもう一人、仰向けになっている女性がいる。


レイナは二人の元へと駆け寄る。


「ひどいわ……強力な魔法弾を食らった跡があるけど……意識はあるようね。」


レイナは冷静に彼女の状況を語る。

仰向けになっている女性は全身傷だらけになっており、呼吸はしていたが命の危機であることに変わりはない。


「すみませんレイナさん、私とミリーさんの力では彼女の傷を完治出来なくて……。」


クラリスは申し訳なさそうにレイナに協力を仰ぐ。


「大丈夫よ、私も協力するから! 」


「エイト、しっかりしなさい! もぅ……だぃ……ょ……」


バタッ!


「ミリー!? 」


レイナが治療を始める直前に突然ミリーが倒れてしまった。

突然の出来事にレイナやクラリス、エクスたちも動揺する。


「おい! ミリーのやつどうしたんだ!? 」


タオは何事かと言わんばかりにレイナに問い、


「……この子眠ってるわ、きっと今まで張り詰めてた状況がひと段落してホッとしたのよ……。」


「そっか、ミリーは親友を助けるために一人で走って助けを探してたんだよね……。」


「おまけにヴィランたちにも見つかって、確かに疲れるのも無理ありませんね。」


「クラリス、この子をお願い出来るかしら?

彼女の治療は私がやっておくわ。」


「いいのですか? 」


レイナはクラリスに対して、


「大丈夫よ、クラリスもミリーも、さっきの戦いで疲れてるでしょ? だからここは私に任せておいて。」


「お嬢の言う通りだな、クラリスもミリーと一緒に休んだ方がいいぜ、ミリーのやつは俺が運んどいてやるよ。」


そういってタオはミリーを起こさないようおんぶする。


「あ、有難うございます……。」


「いいってことよ、怪我したシェインをおぶってたからこういうのは慣れてるんだよ。」


そういってクラリスの案内でタオは少し離れたところへとミリーを運んでいった。



「治療は姉御に任せるとして、私は木の実やキノコとか、食べれそうなものを探してきます。」


「頼んだわシェイン、それに関しては本ッ当に頼んだわ! 」


シェインが言った直後に早口で二度シェインにお願いするレイナ、思えば彼女はこの想区に来て早々にお腹を空かせていたのをエクスは思い出し苦笑する。


「合点です、では後ほど。」


そう言ってシェインは洞窟の外へと飛び出していった。


残ったのはエクスと治療中のレイナだけになった。

エクスはレイナの方へと近寄り、様子を伺う。

レイナは手をかざしつつ眠っている彼女に光を当て続け治療を施していた。


「レイナ、治せそう? 」


エクスの問いに、


「治せないことはないわ、でも……」


「でも? 」


言葉を止めるレイナ、なにやら浮かない表情をする。


「……このエイトって人、どうやら高度な術式にかかってる見たい。」


「術式? もしかして呪いみたいなものなの? 」


どういったものなのか尋ねるエクスに、


「そんなところよ……傷は治せても、この術式は私では解くことが出来ないわ。」


とレイナは答える。


「……クラリスのお姉さんがこの術を掛けたのかな……? 」


「そうだとしたら……それは面倒なことになるわね……。」


レイナの頭には一つの結論が浮かび上がっていた。

この術式を解く方法を……だがそれはクラリスや、クラリスの姉アデリアの運命まで変えてしまうある意味危険な行為であるということを……












































































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

嘘つき少女と太陽の冒険家 F氏 @fantom666

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ