嘘つき少女と太陽の冒険家
F氏
第1話嘘つきな少女
ーーグスッ……ヒック……。
誰かが泣いていた、友達に嘘つき呼ばわりされ、気づいた時には1人、また1人と自分の周りから離れていき、ついには誰もいなくなっていた。その子は泣いていた。
自分が望んでこうなったわけでもないのに、そのことすらみんなに言えず……
ずっと1人で泣いていたーー
『沈黙の霧』……それはあらゆる言葉や概念を飲み込んでしまう、
なにもない霧に覆われた存在。
その場に留まることは、この世からの消滅を意味する。
だが、それは世界を隔てる境界線として存在しているのであって、進むべき場所を見誤らなければ必ず何処かへたどり着くことができるーー
その『沈黙の霧』の中を、足を止めることなくひたすら歩き続ける4人、やがて光が見えその先には草木が芽生え、雑草や小さく咲いた花々がそよ風によって揺れている草原へとたどり着いた。
「はぁぁ……やっと霧を抜けたか。」
4人の中で一回り背が高く奇妙な、だが和風のように見えなくもない格好をし、後ろ髪を短く結んだ灰色の髪の青年タオは長い放浪の疲れをほぐすため背伸びをする。
「おぉーこれはこれは景色がいいことで」
その青年の隣には一回り小さい、茜色の羽織をまとい、左手はポケットに手を入れ、腰にはお手製の銃のようなものをつけた黒髪の少女シェインが遠くを見渡している。
「ここには『カオステラー』の気配を感じないわ、近くにヴィランも見当たらないし……それにしても本当にいい景色ね。」
長く伸びた白い髪をリボンで束ね、肩に鞄を背負った赤い衣の少女レイナは風でなびかせる髪を手で抑えながら広々とした草原の景色を眺める。
「ここは、どんな世界なんだろう……。」
最後尾から出てきた碧色の髪で藍色の衣を纏い、背中には元々自分がいた世界で作った自前の木刀を背負った少年エクス、彼は辿り着いた世界にどのような出来事が待ち受けているのか、内心期待と不安を胸に秘めていた、だがそんな彼らにはある問題を抱えていた。
「お腹すいた・・・・・・」
食糧が尽きてしまっていた。さっきまで風を感じて清楚な姿をしていたレイナはへたへたとその場で膝をつきお腹を抑えている。
そのお腹からはグゥゥゥ……、と大きな腹の虫が鳴り響いているのが聞こえる。
「お嬢、もう腹が減ったのかよ」
「姉御、もしかしたら町や村があるかもしれませんのでもうひと踏ん張りです、きっと美味しいものがあるかもしれませんよ。」
レイナの腹減りの早さに呆れるタオをよそに、
シェインが指差す方角を見ると確かに遠くに民家らしき建物が幾つか立っているのが見える。
「全く情けねぇな、こりゃポンコツ姫から腹ペコ姫に変更だなこりゃ」
タオは座っているレイナの手を引き自分の肩を貸し、レイナを立たせる。
「だ、誰が腹ペコよ……言っとくけどヴィランと戦うぐらいの気力はあるわよ……。」
とレイナは強がって見せるがタオに肩を貸してもらっている状態で言われてもなにぶん説得力がない。
「ん? あれは」
そんな中、エクスは遠くから走ってきている人影に眼を凝らす、背丈はそこまで大きくない……子どもぐらいだろうか?
もし町や村が近くにある住民ならば情報収集とあわよくば食糧の確保も出来ればとそう思ったが何か様子がおかしい、何者に追われているようにも見える。
それもそのはず、後ろには黒い小人の集団がその人物を追いかけているように見えた。エクスは直感した、あの黒い小人たちの正体は一つしかないと……
「あれ、新入りさんどうしたんですか? そんなにあわてーー」
「子どもをヴィランが追いかけているのが見えたんだ! 急がないと!! 」
『ヴィラン』……エクスたちが追っている『カオステラー』の兵士であるが、彼らは本来『ストーリーテラー』が描いた世界に入り込んだ不純物を排除するための防衛機構のようなものだが、自分の世界の住人を襲うということはこの世界は『カオステラー』の魔の手にかかっていることがエクスの足を動かすきっかけとなった。
エクスは襲われている少女の方へと走り出した、草原から吹き付ける風を追い風にして彼は自身の速度を上げて坂道を下っていく。
「あっ、新入りさん待ってください! 」
シェインもエクスの後を追う。
「おい坊主! ったく、しかたねぇな……お嬢、早く坊主たちを追いかけるぞ! 」
タオはすぐさま2人の後を追うためにレイナをおぶって行き走り出す。
「ちょ、1人で行けるから! おろしてよ!! 」
「なーに言ってやがんだ! 坊主が勝手に突っ走ってったんだよ! ていうかお嬢重いぞ! 最近太ったか!? 」
「太ってないわよ!! というか重いも余計よ!! 」
ギャーギャーと暴れるそんなレイナをへいへいとなだめながら連れて行くタオ。
エクスたちがこの世界に来たことで物語は始まるーー
ーー少女はただひたすら逃げていた、息を荒くして、それでも足を休めることなく少女は走る。
「クルルァァア!! 」
後ろからは少女にとっては得体の知れない黒い小人たちの集団が不気味な鳴き声とともに迫ってくる。
捕まったら最後、ただでは済まないだろうと、少女は恐怖しながらも必死に黒い小人たちから逃げていた。
ーーなんで……なんでこの化け物たちは私を追いかけてくるの? 誰か……誰か助けて……
少女は逃げながら心の中で助けを求めた。数が少なければ少女は戦えないことはないが多勢に無勢……十、二十といる黒い小人の集団に挑むのは自殺行為であり、なにより少女は逃げることに精一杯になっていた。
「きゃ! 」
道中にあった石につまずいてしまい体勢を崩して転んでしまう少女、うつ伏せの状態からすぐ後ろを振り返るとそこには黒い集団が少女の元へと迫っていく。
「クルルルル……。」
黒い小人たちはじわりじわりと少女へと近寄り自分の手を肥大させ大きな爪へと変化させる。
少女は恐怖に駆られ、立つことができなくなっていた。手で体を動かし後ずさりする形で黒い小人たちから距離を取ろうとするが思うように体が動かない。
「あ……あぁ……。」
少女は恐怖からか涙目になり、黒い小人はニヤァっと不気味な笑みを浮かべ、獲物を仕留めんとばかりに大きく肥大した爪を振り上げる。
「ッ!! 」
少女は思わず目を瞑るーー
「でぇぇぇやぁ!!! 」
ヴィランが爪を振り下ろすその瞬間、ヴィランの顔面に必殺の蹴りが直撃する。
少女はすぐさま目を開き何があったのか把握する。
メリメリッとヴィランの顔面に足が食い込みその衝撃でヴィランは大きく吹っ飛び、後ろにいたヴィランを二、三体を巻き込んでいき煙となって消滅する。
少女を救った少年は先ほどの蹴りの反動で腰から落ち、衝撃の痛みからか打った部分を摩りながら立ち上がる。
先ほどの行為は決してかっこいいとはいえないが、少女から見たその少年はまるでピンチの時に現れてくれる
「君! 大丈夫!? 怪我はない!? 」
「……ッ! 」
すぐさま少女の身を案じるエクス、だが少女は助かったことで恐怖心がなくなりほっとしたのか、開いていた目を閉じぐったりとする。
気を失ってしまったのだろうか、すぐさま少女を安全なところに運ぼうとしたエクスだが、背後からすぐヴィランの集団が飛び掛かってきた。
「くっ! 」
少女を運ぶのが間に合わないと悟ったエクスはすぐさま自分の体を身代わりに少女をかばう。
ーーバシュッ!
「クルァァア!? 」
エクスに飛び掛かったヴィランに一本の矢が頭に突き刺さり、煙となって消滅する。
その後も矢が次々と滞空していたヴィランたちを撃ち抜いていく。
矢が飛んできたであろう方向にヴィランたちは振り向くがそこには誰もいなかった。
だが、足元で高速で動いている
『何か』がいた。そしてその『何か』は一仕事終えたのであろうか、エクスの隣へと移動してきた。
「まったく、人助けに口出しする気はないですけど新入りさん、先走るのはシェイン感心しませんよ」
「あ、あはは、ごめんシェイン……でもおかげで助かったよ」
紫の髪に猫耳を付けた、というよりついている彼女『
「まぁ、それが新入りさんのいいところなんですけどね」
そう言って彼女は指パッチンをする。
すると、その音を合図にいつの間にか仕掛けられていた罠が作動し、無数の矢が地面から飛び出していきヴィランたちを次々と蜂の巣にしていく。
「さぁ新入りさん、時間は稼いでおきましたよ」
「ありがとう! シェイン」
エクスはすぐさま自身の『空白の書』に『導きの栞』を挟み、本を掲げる。すると『空白の書』から光が溢れエクスの体を包んでいく。
姿を現したのは『猫』でその立ち振る舞いはまるで『紳士』帽子を深くかぶり、片目でヴィランを捉える。……だが覇気は凄まじいものの背丈がヴィランよりも一回り小さかった。
ヴィランたちは自分よりも小さいものが現れたのか不敵な笑みを浮かべヴィランたちは襲いかかる。
ーーがヴィランたちは次々と何かに突き飛ばされたかのように飛んでいき、煙となって消える。
ヴィランたちの背後には既に『猫』が剣を鞘に収める構えをしており、カチンッと音が鳴ったその瞬間残ったヴィランたちは次々と体が真っ二つになる。
『
地上のヴィランは全滅したものの、今度は空から矢の雨が降り注ぐ。
『
「あっちゃぁ、外してしまいました。」
「だったら二人の一斉射撃でーー」
シェインの攻撃が外れたのなら自分も遠距離攻撃が可能な
「その必要はねぇぞ坊主!! 」
遅れてやってきたタオは高く飛び自分の本に『導きの栞』を挟み光に包まれていく。
ヴィランたちは突っ込んできた光を落とそうと近づいたのもつかの間、光の中から槍が飛び出しヴィランの胴体を貫く。
そこからヴィランの体を裂きながら横へ大きく薙ぎ払う。
近くにいたヴィランたちは切り裂かれ、煙へと変わっていく。
ヴィランたちはすぐその槍使いに向けて矢を放つが所持していた盾によって防がれてしまう。
すぐさま矢を構えるヴィランたち、だが力が入らないのか思ったように動くことができない。
『
そんなヴィランたちに槍使いは自分の盾を投げつけそれをぶつける。
当たった衝撃でヴィランたちは地面へと落ちていく、槍使いは槍を振り回し『気』を貯めていく。
ヴィランたちは地面に激突しその衝撃で宙に浮き一瞬の隙ができる。
その隙を逃さまいと槍使いは地面へ向かって一直線に落ちていき、その落下速度と『気』が溜まりきった槍をヴィランたちに向け雄叫びをあげる。
「うぉおおおおおおおおおおおお!!! 」
槍はヴィランたちに直撃し、その周囲を電撃がほとばしる。ヴィランたちは一瞬にして昇華していった。
『
紫の鉢巻をした、厳つい顔ながらも優しくもあるその男は地面に突き刺さった槍と重い盾を持ち上げる。
「ふぃぃ、これで片付いただろう。」
『
エクスたちも続いて元の姿へと戻っていくーー
「う……ん……。」
「あっ、気がついた? 怪我したところは治してあるから大丈夫だとは思うけど他に痛むところあるかしら? 」
しばらくして今まで気を失っていた少女は目を覚ましたようでレイナは少女の容態を伺う。
紫色の長い髪をサイドテールにフリルのついた服装で赤と青の左右違う色の紐のブーツ、背丈はシェインと同じぐらいのその少女は起き上がり、エクスたちの顔を見る。
「だ、大丈夫よ、このくらい……平気だもん……。」
と、少女は若干泣きそうな顔をしながらもすぐさま立ち上がる。
「おいおい、せっかくヴィランたちから助けて、お嬢が怪我を治したってのに礼のひとつもしねぇのは感心しねぇな」
「ちょっとタオ、そんな言い方しなくても……とにかく、無事でよかったよ」
少女の発言に対して少し不満気味に言い返すタオをなだめるエクス
「ふん! 余計なお世話よ、あんな奴らわたし1人でやっつけれたわよ! 」
「随分とまぁ、自信有り気ですね……にしては
思いっきりヴィランから逃げてたようですけど」
「……うっ」
シェインに確信をつかれたのか少女は黙り込んでしまう。
「それはそうと自己紹介が遅れたわね、私はレイナ、あなたの名前は? 」
そんな3人をよそにレイナは少女に警戒心を解いてもらうために自分たちのことについて話す。
少女は、やや警戒しながらもレイナの質問に答えた。
「……ミリー、ミリー・ヴェルヴェット。」
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