学校の聖剣伝説

「うわー……やっぱ酷い顔ねー。」


 それはもう聞いた。


「だ、大丈夫? ……鈴木ちゃん。」


 大丈夫です……やっぱり大丈夫じゃないですー!


 昼休みの屋上。

 いつものように、三人での昼食。

 ただいつもと違うのは、私の機嫌が悪い事。

 あれから色々と考え込んでしまい、寝不足で体調も良くない。

 まあ端的に言うと、私は拗ねているのだ。


 二人が食べているおそろいのお弁当はなんだ? 

 今朝、私の顔をバカにするついでに、今日はチョコクロワッサンいらないと言いに来たのは、そのお弁当があったからか? 戦乙女。

 先ほどから私の目を気にしているのは、一口よこせと言われないように、警戒しているのですか? きゅう子。


 あーあー! いいですね! 仲がよろしくて!

 いいですよー! 私もコンビニで買った、お気に入りの幕の内弁当食べますから!

 私は小さめのコロッケに、乱暴に割り箸を突き刺し、一口でむしゃむしゃとこれ見よがしに頬張る。

 美味しいなー! 美味しいなー……あれ? いつもよりしょっぱいぞ? 

 まあいっかー! だって、美味しいから!

 それよりなんですか? さっきから。二人とも暗いですよ。

 ほら! 笑って笑って! ……笑えよ。

 ……もう、しかたないですね……では私が、二人が思わず明るくなるような話をふってあげましょう。


「……昨夜は、お楽しみでしたか? 」


 二人は動揺したのか、一瞬、お互いに目を合わわせてから視線を逸らし、瞳を泳がせている。

 どうしたんですか? 私はただ、昨夜の話が聞きたいだけですよ? 

 聞かせてくださいよ? 昨夜の話を……! 昨夜のパジャマパーリーの話を!


「ま、まあ……それなりに? ね、ねえ、きゅう子? 」

「う、うん……た……楽しかった、ね……。」


 はい! 出ましたー! 二人は仲良しアピールー!

 あー痛いなー……なんか胸の奥が痛いなー……。

 円卓にいた誰かさんも、こんな気持ちだったのかなー。


「……へえ、楽しかった……そうですかそうですか……何して遊んでいたんですか? 私抜きで……私抜きの二人っきりで……! 」


 二人とも、私の顔を見なさい。

 俯いてないで! 私の目を見て! 楽しかった事を話しなさい!

 トランプですか? トランプでババ抜きですか!? そして私の事をババ扱いですか!?

 私は俯く戦乙女の顔を覗き込むと、嘗め回す様に見つめる。

 すると彼女は視線を逸らす。私は彼女の顔を追いかけ再び見つめる。

 逸らす。見つめる。逸らす。逸らす。見つめる。逸らす。見つめる……。

 これを何度か繰り返した時、私の額に衝撃が走った。この身に覚えのある痛み。

 私は戦乙女に頭突きされたのだ。

 額を抑えうずくまる私に、戦乙女は言う。


「もう! うざい! いつまでもウジウジウジウジ……あんた寮なんだからしょうがないじゃん! 」


 そんなこと……言われなくても分かっているわ!

 でも私だって、一緒に遊びたかったんだ!


「お、乙女ちゃん……や、やめよ? ね? す、鈴木ちゃんの気持ちも……分かるから……。」

「いいのよきゅう子! こいつ昨日から、なんか甘えてんの! 私たちは、あんたの親じゃないっつーの! 」


 戸惑いながらも場を治めようとするきゅう子を戦乙女が一蹴する。

 私は甘えてなどいない。甘えてなど……!


「私は……不安なのだ。昨日のように、何も出来ない私に、いつか二人が愛想つかしてしまうのではないか……と。」


 いつもそうだった。

 聖剣ともてはやされようとも、所詮私は武器。扱えるモノがいなければ、一本いくらの鈍らと変わらん。

 眼がしらが熱い。


「だから……私の知らないところで二人が仲良くしているかと思うと不安で……嫉妬で……どうにかなってしまいそうだ! 」


 そんなつもりはなっかたのに、あふれる涙を止められない。

 さらに酷い顔になっているだろう。

 しかし、顔をぐちゃぐちゃにしながら、私は声を振り絞る。


「強欲だと、惨めだと笑ってくれてかまわない……でも! ……友達でいたい……! 」


 これが私の気持ち全部だ。

 一人にしないで! と言う子供のワガママ……。

 そんな私に、戦乙女が決まりが悪そうに何かを差し出す。

 それは、二人とおそろいの弁当箱……。


「ほ、本当は……すぐ渡すつもりだったんだけど……ちょっとからかっただけよ! ……その……なんかゴメン……。」


 戦乙女……!


「えへへ……ふ、二人で早起きして……作ったんだよ? きゅう子も、ごめんなさい……。」


 きゅう子……!

 あっけにとられながらも弁当箱をうけとる。

 その瞬間、黄金に輝きだす私の身体。

 そして、黄金の輝きは、噴き出すように真上に放たれ、一筋の光となって天に昇っていった……。


 それを目撃した生徒Sはこう語っている。

 あれは間違いなくビームだった! と。

 これが後の、この学校の七不思議、宇宙人のトラクタービーム伝説である。


「ちょ! え!? なに!? なんなのいきなり!? 」

「き、綺麗……! 」


 二人とも、何を驚いている。

 たしかに、ビームが出た事は喜ばしい事だ。私の目標でもあった。

 しかし、これは当然の結果なのだ!

 三ノ宮くんは言っていた……友情パワーは無限大なんだと!

 グラウンドから、教師の怒鳴り声がする。

 誰かが階段を駆け上がってくる音も聞こえる。


「やばっ! 逃げるわよ! 」


 三人そろって屋上から飛んだ。

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