聖剣だって愚痴りたい


 大きな声では言えないが、ここだけの話、今朝の状況を呑み込めていない。

 戦乙女がきゅう子の兄をこてんぱんにした事で、何かが上手くいったらしい。

 しばらくきゅう子を預かると、戦乙女が言っていた。

 そう……即ち、ぞくに言う、パジャマパーティーである!(※違います。)

 勿論私も、戦乙女に参加させてほしいと必死に頼んだ。

 しかし、奴は言ったんだ……!


『一週間前からじゃないと寮の外泊許可申請できないんでしょ? 諦めなよ。』


 つまりこう言う事だ。

 私ときゅう子で楽しくやるから、あんたは寮で大人しくしてなよ。邪魔しないでくれる? 戦乙女はこう言っているのだ! (※違います。)


 なぜ仲間外れにするのだ!?

 三ノ宮くんが言っていたぞ? 仲良しグループは三人組がベストだと。

 私がいなければ、何か収まりが悪くなるだろう?

 だからきっと、今頃、私がいなくて寂しい……などと言っているのではないか? 

 それは緊急事態ではないか!

 私は筆を取り、大急ぎで外泊許可申請書に記入すると、それを握りしめ、管理人の元へ向かった。


 申請は却下された。 

 なぜだ!?

 あー……辛い……辛いなー。

 今日は本当に、なーんにも良い事なかったなー……。

 そうだ! こんな時は、相棒に愚痴を聞いてもらって、慰めてもらおう! 


 私は自室に戻ると、部屋のすみに佇む相棒を手に取った。 

 もう一人の私にして相棒、我が刃を納める鞘。

 三ノ宮くん曰く、その名も、アヴァロン! 通称、アヴァさんだ! 

 なぜアヴァロンなのか? と、三ノ宮くんに尋ねたところ、私の鞘とは、そう言うモノなのだそうだ。流石は三ノ宮くん。深いな。

 本来の鞘は、昔どっかにいってしまったので、私が段ボールで作った力作である。


「ねえねえ、聞いてよアヴァさん……。」


 アヴァさんは、甲高くも凛々しい声で、私を慰めてくれる。


「どうしたんだい? エクスカリバー。何か辛い事でもあったのかい?」


 やれやれ、アヴァさんに隠し事は出来ないな……。

 全て、お見通し……と言うわけか。


「今日ねえ? お友達のお家に行ったんだけどねえ? 私、なーんにも出来なかったの……。」


 私がした事と言えば、地面に突き刺さっていただけ……。

 いったい何をしに行ったのだろう?


「ふふふ、なにも出来なかったなんて、そんな事はないよ、エクスカリバー。お友達の家に行っただけでも、とってもすごい事なんだ! 」


 よしてくれ、アヴァさん……。

 私は、べそかきながら、戦乙女にくっついて行っただけなんだ。

 すごい事など何一つない。


「そんな風に、自分を責めちゃあいけないよ? いいかい? 戦乙女も言っていたように、君は君のままでいいんだ! そのまんまでいいんだよ? 」


 そのままとは何だ?

 この、何も出来ない私を受け入れろとでも言うのか!?

 出来るはずがない! 友の危機に力になれないような、無力な私など……!


「ちがうよ、エクスカリバー。君自身が力になることはないんだ。きっと、君が君でいることで、友達は力をもらっているはず……思い出してごらん? 」


 二人と出会ってからの記憶を辿る。

 屋上での昼食……放課後の寄り道……そして、今日……。


「何が見えた? 」


 上手く言葉に出来ない。

 一緒に過ごした、あっという間の時。

 ただ漠然と言えることは、全てが愛おしい。


「そう、そこには必ず、君たちの笑顔があった! どんなに辛いことがあっても、最後には必ず笑顔が! 」

「アヴァさん! 」


 私は相棒を抱きしめる。

 抱きしめたら、アヴァさんが曲がった。

 ……いかんいかん、いかに段ボールで頑丈に作っていると言えども限界はあるのだ。気をつけねば。

 では、気を取り直して、もう一つの愚痴を聞いてもらおう!


「ねえねえ、アヴァさん。三ノ宮くんが言うには、友達のピンチに覚醒はつきものらしいんだけど、戦乙女の奴、ピンチにならないでやんの。 」


 そうなのだ。

 ピンチになるどころか、衣服がちょっと破れただけで、かすり傷すら無し。

 そこは、ヤバいよヤバいよ! ってなって、私がヤメロ―! ってなって、私がぶわー! って光って、私からビームがズドーン! ってなって、めでたしめでたし……。

 普通こう言う展開だと聞いているのだが? 


「それはね、エクスカリバー……。」


 突然、自室の内線が鳴った。

 時刻は深夜二時を過ぎたところ……いったい何用だ?

 嫌な予感がする……。

 私は恐る恐る受話器を取り、電話に出た。


「はい、鈴木です……はい……はい……はい……すまなかっ……いえ、すいませんでした……はい、おやすみなさい。」


 電話は管理人からだった。

 内容は、何時だとおもってる!? いい加減にしろ! だそうだ。

 ……もう寝るか。

 私はアヴァさんを部屋のすみに放り、独り遊びをやめて布団に潜った。

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