コーヒーブレイク 4

 人はなんのために喫茶店を利用するのか、もっぱら私は喧騒や暑さから逃れて休息するために利用するわけだが、何を思ったかそういう店の中で勉強を始めたり、書きもののような仕事を始めたりする人々がいる。


 無論、良識の範囲でそう言った行為は認められている...というより「他人の迷惑にならなければ」何をしてもいいのがこの国の暗黙知だ。


 そしてもう一つの喫茶店の利用方法に「複数人での会話」があるだろう。今まさにその利用方法を実践するなかで私は休まらない時間を体感している。


「ミルクと砂糖はコーヒーの風味を変えるから、後から入れるといいぞ」


 奴、『コーヒー狂い』にはなんどか主張したこともあることだが私はコーヒーが苦手だ。コーヒーの風味ってなんだ。


 何故紅茶ではいけないのか?ミネラルウォーターでも店に金を払ったことになる海外が羨ましいくらいだ(もっとも海外のカフェでミネラルウォーターだけを注文した経験はない。通用するのか?)

 一説には『美味しいお茶』は『美味しいコーヒー』より手間がかかるかららしいが、コーヒー専門店であるここでは無意味だ。


 大体、あるものを使って何が悪い?私にとってミルクと砂糖はどちらも欠かせないものであるし、注文時「ご入用ですか?」と聞かれたではないか。

 

 いつの間にか付き合いの長くなった奴だけであればこの考えをそのままぶつけただろうが、『上品』かつ『落ち着いた雰囲気』のある少しだけ暗めなこの店では慎むべき行為に思えたのでぞんざい扱うに止めた。


 食事と喫茶店にいくのはお互いがペースを乱さずに済むメンバーが望ましい。

そういう意味で『コーヒー狂い』は店の紹介元なのでいなければ来ていないが一緒にいて望ましい存在かというと怪しい。


 だが同時に救いもある。そもそも私「達」は3名だったりする。しかも美人と来ている。


 目の前の彼女は奴の話に合わせて上手に相槌をし、気持ちよく語らせたままコーヒーとケーキを味わっているのをみれば、コーヒーの苦味も話を聞く時のアクセントにも思えてくる。言わせてもらうならブラウニーとセットで私にはちょうどいい。


 −ずっとここの、少し暗く、レトロに統一された空間でぼんやりと今と昔と未来の話をしていたい−


 こういう幸福もあるのだろう。目の前の美人は私と奴のことをどう見ているのだろう。幸福感と少しの疑念は時を加速させる。



『もう一杯頼んでもいいかな?』の代わりに


「目的はこれからだな、さてどっちからが近いんだ?」と言う。

奴は満足といかない顔つきだが「道はわかるぜ」とつづく。


「初めてのとこだからどきどきするね」と美人。


かくしてさながらイギリス人ばりの午前中の喫茶タイムを終えたのだった。


 こういう喫茶店の使い方もあるのだなぁ、と会計を済ませてもらいながら思っていたし、「世の中いろいろな贅沢が転がっているな」と口に出すと

「ほんとお前は突然変なことを言うよな」と奴だけでなく美人まで白い目でみてくるのだから心外の極みだった。


 気の置けないやりとりが続けられるほど貴重なものはないだろう。ならばせめてコーヒーの飲み方くらい多めにみて欲しいものだ。


 <つづく>

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