コーヒーブレイク 3

 私はコーヒーが苦手だ。だが思えば自分好みの味に挑戦したことはなかった。そう思い至ったのは身近に『コーヒー狂い』がいたからだ。


 奴の話をすると長いのでここでは割愛する。


 だが奴はこうも言った。


「本当に焦っている時はコーヒーをいれる時間も惜しくなる。だから俺はコーヒーを淹れるのだ。かっこいいだろう?」と


 望む望まざるに限らず時間というものは進んでしまう。

 

 どんなに効率がよくともすべてできるとは限らないし、なんでもはできないのだから、したいことを優先するというのは悪いアイデアではないと私はも思う。さっきの台詞がかっこいいとは思わない。


 かくして私は気まぐれを決行することにした。


 家には貰い物のインスタントコーヒーと、なぜだかコーヒーセット一式が揃っていた。一人暮らしを始めた際の餞別のがここで輝くようだ。


『あれば役に立つでしょう。邪魔にならないし』と、こういうのを先見の明というのだろう。親には頭の下がる思いだ。だが実家には全自動コーヒーメーカーがあって。こいつはいかにもプラスチック製完全手動のドリッパー、一石二鳥という言葉も加えておこう。


 たどたどしく、コーヒーの淹れ方を確認する。湯の温度、注ぎ方、蒸らし方などの『コーヒー狂い』のうんちくが頭をよぎる。ええいうっとうしい


 玄人は初心者の気持ちがわからない。私は「自分でコーヒーを淹れてみたい」と思っただけで、奴の『コーヒー道』を探求したい訳ではない。決して面倒な訳ではない。


 誰しもできることの限界がある。横文字を使うならトレードオフ。得をした分損をする。ショートケーキとチョコレートケーキを一緒に食べてしまうとなんの味を楽しんだか分からなくなるし、お腹がいっぱいで後で後悔したりする。そういう目に合わないために「苺と生クリームを味わえるショートケーキが良い」「チョコクリームとアーモンドを体が求めている」と理屈を付け判断するのがクールだ。


 こじつけだ、感性の問題だ。客観もなにもゴールは個々人に由来するのだから結局最適解は個々人のベターでしかない。バターケーキを二個食べるとつらい。


 インスタントコーヒーの蓋を空け、淡いコーヒーの香りに少し不安を覚えながら説明書に書いてある数だけスプーンを差し込み、ドリッパーに慎重に湯を注ぐ。


 今回の私のゴールは…


 苦味と重なる結構な酸味。


 うん、ケーキを買いに行こう。

 チョコレートケーキがこのコーヒーには合うに違いない。


 コーヒーに合わせたお供を考える。これもまた正解ではないだろうか。


 <つづく>

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