コーヒーブレイク
和登
コーヒーブレイク 1
「…っと、ホットコーヒーをひとつ」
少し汗ばんだ笑顔で応じる店員を目の前にして告げる。
こちらといえば沢山の日差しからやっと逃れたので同情しつつ
こういう"掻き入れ時"の店内であればさもありなん。
「あちらのランプでお待ちください」
立ちながら、店内の角の方に目をやる。
席とり用に置いた鞄は無事だろうか
世界有数のぼんやり大国でそういう事を思うのは俺ぐらいだろうが
ひとりでこういう所に入るのは不利だと信じて疑うことはない。
次の客が来る。
同世代くらいの二人組はアロハ、仕事着には見えない
家族連れ、バックパッカー、高校生らしき集まり、老夫婦
なんでここに居られるんだ?仕事は?学校は?家の方が快適じゃあないのか?
仕事を始めてからしばらく、仕事の合間に店に入って毎度そう感じていた。
しかし最近は違う。
土日仕事なんて数知れず、家は安住の地ではない人種も多い、そしてアロハも制服の時代だ。
経験に勝る知恵はなく、慣れに勝る学習もまたない
誰かが決めた、ここ、この辺りの世界観
「112番の方、大変お待たせしました!」
少し申し訳なさそうに商品を差し出す店員。
時間が経っていたか、考え事の顔を見られたか。
席に向かうとこちらの心配をよそに鞄だけが鎮座しており
安住の地を探す人々から守ったことを誇っているようだった。
コーヒーを一口
飲みながらこの守り神にお礼のひとつでもしてやろうかと思っていたが
こいつにはもう一仕事してもらわなくてはならないことに気がつく
このコーヒー、私には苦すぎる
砂糖もミルクも店内の対角にあり、一服にもなかなか労力がいるものだと改めて思ってみたりする。用意の悪さをつつくのはこの場では必要ない。
コーヒーはとても奥が深いと聞く。
真髄はともかく甘党の私に合うそれに出会える日があればいいのだがと
砂糖とミルクで調味したコーヒーをすする。
来客が落ち着く気配はない。
やおら残りを飲み干しぱっと店を出る。騒がしいのも得意ではない。
「またのご来店をお待ちしています!」
流石チェーン店、今度来るときは時間をずらそう。
<つづく>
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