27 再戦前夜

シュガの鎌も研ぎ終わり、キルリュは外に出ていた。

既に日が落ちかけており、空が紅い。


「ん…おーい?」

「なんだばれてるのかよ」


軽い呼び掛けに答えたのは、蒼い光。

次第にそれは人の形となる。

かつて、ソルトに謎の問いかけを投げ掛けた人物だ。


「気づかにゃいほーがおかしいって。キリュちゃんは魔導士でーす」

「んなこた百も承知だよバーカ。」


けっ、と軽く吐き捨てる蒼い精霊。


「で、にゃんでそるるんの側で見守ってたりしてんの?」

「それについては答えない。」

「あーそ」


キリッ、とキメ顔を作る精霊。キルリュは呆れたように返す。

その後右目を軽く瞑り、薄く笑いながら精霊を見る。


「君が言ってた、にゃの?」

「……………」


相変わらずの無表情で、キルリュに沈黙を返す。

かえってそれは、肯定と言っているのと同じことだろう。

キルリュはクスクスと笑った。


「なんだよ」

「いや?…じゃーさ、にゃんであの時助けなかった?君ほどの精霊にゃら、そるるんが危なくなる前に助けれただろうに」

「アイツに強くなってもらわなきゃ困る」

「ひゅーぅ、ス・パ・ル・タ♪」

「そんなんじゃねぇよ!!」


スパルタにしているつもりはないと否定するが、しているかもしれないとそれ以上強くは否定できない。

そんな精霊に背を向け、キルリュは言葉を投げる。


「ま、死ななかったらカイルんがにゃんとかするデショ。上手くやりなよ、きゅん♪」

「………気持ちワリィ」


キルリュは笑いながら戻って行く。

アンは、浅く溜め息をついて、光となって消えた。



「エルフの森は広い。何匹居るかわからない。2人組で行動しようと思う」


キルリュが部屋に戻ると、シュガが地図を広げてガルドとカイル、ソルト、その他数名の騎士に説明をしていた。


それは未だ残っているエルフの森内のバジリスク討伐の話である。

バジリスクは集団で行動する。集団で移動し、だいたい二匹ずつとなって敵対象に攻撃を仕掛けるのだ。


「じゃ、俺はここで回復役に徹するよ」


非戦闘員であるカイルの申し出に、騎士たちが軽くどよめいた。

伝説と呼ばれる治癒術士だ。どよめくのも当たり前だろう。


そのうちペアが決まった。

シュガとキルリュ。ソルトとガルド。騎士たちはそれぞれのペアを組んだ。


「明日の朝、出発ネ。それまでは各自準備しとくよーに」


キルリュの言葉にそれぞれ返事をし、解散となった。



「ねぇカイル、キルリュとはどういう関係?」

「どうもなにも、俺の昔の仕事仲間だよ」


仕事と聞いてソルトは首を傾げた。

はて、カイルが仕事をしていた時期があっただろうか。


…考えたらあった。

ソルトがまだ幼く、ガルドが剣を持たせ修行をしていた頃。

カイルはよく留守にしていたことがあった。

何も言わず、無言のまま出て行くのでなんだろうといつもきになってはいたのだが、ある日を境にそれもなくなったのだ。

あれは仕事をしに行ってたのだとやっと理解した。


何故辞めたのか、そもそもどんな仕事内容だったのか、そのあとはなにも言ってくれなかった。言いたくないのかもしれない。ならば聞かないでおこう。


ゆうになり、日は昇る。

バジリスクの呼吸音が、森中に満ちていた。

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神話に舞うは剣の調べ ソルティ @Pastel

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