26 その名は
「おっはよーそるるん。怪我はだいじょーぶ?ま、カイルんが居たら心配はにゃいけどネ〜」
「あ、は。あの、ありが」
「お礼にゃんていらにゃい。キリュちゃんは当然のことをしたまでだからネ」
体を動かしても平気、とカイルに言われ、ソルトはキルリュを探して騎士が逗留しているという宿へ足を運んだ。
お礼を言わねば、と思ったのだがこうまで言われてしまってはもう何も言えない。
キルリュは剣を研ぎながら笑う。
その姿に若干の違和感を感じながら、手慣れた様に磨くその姿を見つめる。
「?どしたの?」
「あ、いや」
ふと声をかけられ、咄嗟に返事を返す。
「もしかして、キリュちゃんに一目惚れしちゃった?いや〜照れるにゃ〜」
「そんなこと言ってないじゃないの!?」
なにを言い出すんだこいつは。私はレズじゃない!
ちがう、えっと。
と思考を巡らしていると、不意に部屋の扉が開く。
「キル〜俺の…あ、おはよ」
「お、おはよ。」
血まみれとなった鎌を片手に、少年が部屋に入ってくる。
それなりの部屋とはいえ、三人も人が居たらさすがに狭い。
少年は鎌をキルリュに渡す。
「俺のも研いで〜」
「自分でしないんだ…?」
その小さな問いに答えはしない少年。
そういえば、と思い出し、ソルトはあることを尋ねる。
「子供たちがあなたのこと、“シューにい”って呼んでたんだけど」
「ギク」
わざわざ自分で効果音を言うのだから、なかなか可愛いところもあるじゃないかとソルトは思った。
くすくすと、キルリュが声を抑えて笑っていた。
「にゃーに、また名前名乗ってにゃいの?ぷくく」
「うるせぇな。警戒ぐらいしてもいいだろ!」
話の内容から察するに、初対面の人には名前を名乗らないそうだ。
しかしソルトもその行いに覚えがある。
何年も前、カイルとガルドに拾われる前のことだ。
ソルトよりいくつか年上の女性が、ソルトにこう言ったのだ。
「名前をもらった時、名前を誰にでも言ってはいけないよ。奴隷商人に目を付けられるからね」
特に孤児は、奴隷商人に狙われやすい。
名前が知られたら、色々と面倒なことが多いのだ。
なので少年の気持ちもよくわかる。
「もー信用できるとこまで行ったんじゃにゃい?」
「うん…」
素直に頷く少年がなんだか可愛らしくてソルトはふ、と笑みを零してしまう。
「なんだよ」
「いや別に」
睨む様にこちらを見る少年をいなし、しかし笑みが口の端に溢れてしまうのだ。
見ればキルリュまでもがくすくすと笑っていた。
「早く、名乗っちゃいにゃよ。見てておもしろいけどサ」
「おい」
端的につっこんだあと、少年は軽く息をついた。
そして、ソルトを見てぎこちなく笑みを浮かべる。
「俺の名前はシュガだ。よろしく」
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