もしも蝉が可愛らしいロリになったら

瀬木 微睡

1.5日目の夏休み

暑い夏休み。

ミンミンゼミや、アブラゼミ、クマゼミとかがまるで俺らの出番だ!とでも言って張り切っているように、鳴き散らしていた。

でも、今鳴いている蝉の出番も約一週間後には幕を下ろす。

一週間の間だけが今鳴いている蝉の出番だと、俺はそう暇つぶし程度におもっていた。

夏休みなんて宿題が終わってしまえば毎日が緩やかに流れ、時が止まっているんではないかと疑ってしまうほど暇というものに押しつぶされる。それが今の俺の状態だ。

特に何をするわけでもなく、ただひたすら自室の床に大の字に寝転がり天井を見つめ、生温い風を感じ、外から聞こえる蝉の声をBGM替わりに聞いている。

自分でも飽きれるほどつまらない夏休み。

植物人間にでもなってしまいそうだ。

そう思ってハッとする。

そういえば、妹に消しゴム盗られっぱなしで結局返してもらってねぇ……もうかれこれ一週間はたってんぞ……

「……はぁー……取り返しに行くかぁ……」

だるいと思いながらも体を起こし、自室から出てすぐ隣の妹を部屋のドアを開けようとして、一旦手を止める。

「…………………………」

俺は今大学2年で妹は今高1である。いきなり大学2年の俺(しかも男)が高1の少女の部屋に当然のように入るのはどうなのか。完全にOUTだろう。アニメや漫画とかでいくと多分、「ノックもしないで勝手に女の子の部屋に入ってこないでよこの変態!!」なんて言われそうだ。

となるといろいろと面倒くさいので、俺は常識人として妹の部屋のドアをノックする。


コンコン……


「…………………………………………」


静寂。

何処かに出掛けたのだろうか。なら、入っても別に問題はないだろう……多分。

そうやって勝手に自分で納得し、妹の部屋のドアを開けた。

「おぉ……久しぶりに入ったなぁ……いや、まじで女の子って感じの部屋だわ……」

ドアを開けたその先、壁もクッションもベッドも全部パステルカラーのピンク色。兄である俺の知らないところでこんなに妹は女の子っぽくなっていたのか、そう考えるとなにか寂しさが溢れてきた。

「前まではこんな夏になったら元気に蝉取りしてたっけ……毎日のように連れ出されて、クタクタになったんだよな……なのにアイツすげーピンピンだったなぁ……懐かし……」

もう数十年も前の記憶がふと頭に蘇り思わず笑がこぼれる。

くだらないことで喧嘩したり馬鹿みたいにはしゃいで近所迷惑だって隣の家のオバチャンに怒鳴られたり、いい思い出だ……

思い出に浸りながら妹の勉強机に向かった。

向かった。

むかっ……


ジーーーー………………


……………………………………………………………………………………………………蝉?

妹の本棚に収められた、埃まみれの本の間。

小さな瓶の中に蝉がいた。

「…………!?」

デジャヴ。

なにかが脳を走った。

何故か、あの瓶の蓋を開けないとならないような気がする。

急いで俺は本棚に飛びつき瓶を取り出した。

その中には1本の太い木の枝と、それにしがみついた蝉。

手汗で温んだ手を服に押し付け拭う。

そして慎重に、蓋を開けた—


「………………あ?」


瓶を開けた……はいいが、特に何も起こらない。あれ?っと首を傾げ瓶の中にいる蝉を掴んだ。

その瞬間。


「…………おにぃさん、誰……?」

突然後ろからロリボ。

慌てて振り向くと、真っ白いワンピース姿の茶髪ロリが立っていた。


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もしも蝉が可愛らしいロリになったら 瀬木 微睡 @cranberry

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