第23話「貴方を助けに、そして迎えに来ました」

職人さんや~いの王都調査を終え、

ボヌール村へ戻って来た、俺、テランスさん、ジャン。


テランスさんの協力で作成したリストをもとに、

早速、職人さんたちの説得準備に入る事にした。


まずは、俺とテランスさんの所在確認、そしてジャンの調査をつけ合わせ、

リストの内容を改訂した。


テランスさんが住所を把握していた5名。

そしてテランスさんが名前のみで住所を知らず、改めてジャンが調べた2名。

全員で7名。

ちなみに職人さん全員が男性である。


アルノーさん、在室……今夜、夢魔法で訪ねる予定。ジャンによれば、市場で荷下ろしの手伝いをしているらしい。


コームさん、在室……今夜、夢魔法で訪ねる予定。ジャンによれば、宿屋の手伝いをしているらしい。


ラザールさん、在室……今夜、夢魔法で訪ねる予定。ジャンによれば、創世神教会の使用人をしているらしい。。


エンゾさん、不在……ジャンによれば、再就職せずに無職のまま、居酒屋ビストロで飲んだくれているらしい。


ラウルさん、不在……ジャンによれば、どこか旅に出ているらしい。


そして、不明だった2名の住所、現状がジャンにより判明した。


エメさん、……ジャンによれば、レストランの皿洗いをしているらしい。


マチューさん、……ジャンによれば、近郊の農家に頼まれ、野菜の行商請負ぎょうしょううけおいをしているらしい。


「こんなものですかね、テランスさん。これでほぼトレースし、コンタクト可能ですよ」


「いやあ、ジャンさんは凄いですね」


「ええ、彼ら猫の情報網は半端ないって、俺も何度も経験してます」


「ですね! でもケン様、調べたら、ほとんどの奴が王都で何かしら、仕事をしているんですね。……旅に出ているのは、ラウルだけなのか……あいつ、今頃、どこで、どうしてるんだろ?」


所在不明なのは……ラウルさんだけか。


その時!!

俺の心には、他人には聞こえない『警報』が、大きく大きく鳴り響いた。


これは、相当ヤバイぞ!

とはいっても、家族や仲間にふりかかるものではない。


今見ている、このリストから感じるものだ!


「……テ、テランスさん!」


「な、何でしょう、ケン様。いきなり大声を出して、何を慌てていらっしゃるのですか?」


「何か、俺、……今、ヤバイ予感がしました」


「ケン様に!? ヤ、ヤ、ヤバイ予感!? ……で、ですか!?」


「ええ、ラウルさんが相当危ない。俺、すぐ助けに行って来ます!」


「え!? ケン様!? す、すぐって!?」


「……ジャンによれば、ラウルさんは、昨日、王都の北門を出て旅に出たそうです。彼の魔力をトレースすれば、今なら追えます」


「ま、魔力をトレース!? い、今なら!? お、追える!?」


「詳しい説明は後!」


俺は魔力感知で、

リゼットと、クッカ、クーガーへ念話で同時に呼びかけた。


3人がちょうど、在宅していたし、俺が不在の時はこの3名が主にユウキ家を仕切っているからだ。


『緊急事態だ! テランスさんを部屋に残して出る! 念話で後から連絡するぞ!』と。


3名からは、打てば響け! とばかりに、


『『『了解!』』』


という返事があった。


その瞬間!


俺の姿は部屋から消え、王都に向け転移していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


転移先は王都の北門から延びる街道沿いの雑木林。


更に俺は隠形で姿を消し、街道を凄まじい速度で走った。


ラウルさんは、この街道を歩き、北へ向かったはずなのだ。


街道には……昨日、彼の自宅で感知した魔力の残滓ざんしが残っていた。

この残滓を追跡トレースすれば、ラウルさんに追いつけるはずだ。


残滓は途中の村へ……

そして村から出て、また街道へ続いていた。


そして……あ!! 居た!!


周囲に誰も居ない、ひとけのない場所。


怯えた男性がひとり、山賊らしき武器をふりかざした男ども4名に、取り囲まれている!


姿を隠したまま、俺は瞬時に変身魔法で容姿を変えた。


魔法はすぐに発動。

素の俺とは似ても似つかない、30代後半の男の姿となった。


俺の素の容姿を認識した山賊どもに、いろいろ吹聴されては困るからだ。


本当は、山賊どもを始末しても良かったが……

初対面のラウルさんの前で、奴らを殺したら、恐怖に怯えてしまう。


これからラウルさんを、「仲間になれ」と説得するのに、

悪影響を与えるのは避けたい。


「こらあ! 待て! てめえらあ!」


俺は叫びながら、魔法を解除。

山賊、そしてラウルさんの前に姿を現した。


「う、うわ!?」

「な、な、な、な、何だあ!?」

「い、いきなり!? に、に、人間があ!?」


「てめえら、くだらねえ悪事に身を染めやがって! ぶっとばしてやるわ!」


俺は凄まじい速度で走り、山賊どもに肉薄。


ぱん!

ぱん!

ぱあん!

ぱん!

ぱあああん!


手加減の平手打ちを全員にさく烈させた。


がっ!

ぎゃ!

ぐお!

がは!


俺の平手打ちを喰らい、山賊どもはあっさりと昏倒こんとう

気を失ってしまった。


一体、何が起こったのか……

襲われていたラウルさんには、全く分からないだろう。


びっくりして、ぺたんと座り込んだラウルさん。


放心したようになって、俺を「ぽけっ」と見ていた。

やはり、状況が全く理解出来ていないようだ。


俺は柔らかく微笑み、ラウルさんを見ていた。


数秒が経ち、


「あ、あ、貴方は……い、い、一体!?」


と、ラウルさんは尋ねて来た。


「ラウルさん、俺は魔法使いで、テランスさんの知り合いです」


「ま、ま、魔法使い!? テ、テ、テランスの知り合いっ!?」


「ええ、貴方を助けに、そして迎えに来ました」


俺は座り込んだままのラウルさんに、再び微笑んだのである。

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帰る故郷はスローライフな異世界!レベル99のふるさと勇者 東導 号 @todogo

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