第22話「職人さん、や~い」

テランスさんが公衆浴場の違法営業等に抗議、

運営している商会から、ともに解雇された7人の仲間の所在を確認する。

うち5人はテランスさんの方で、住所を把握している。


確認した上で、今回の銭湯建設プロジェクトへの参加の意思を問う。


だが、神様である俺と、やんごとなき方々が絡む本当に特別なプロジェクト。

とんでもなく重大な秘密を共有するという事もあり、人生をともにする形になる。


人生をともにする形などと、

大げさだと言われるかもしれないが、それくらいの覚悟がなければ務まらない。


既にテランスさんは、俺と厳秘の約束を交わし、更にレイモン様達の前でも、

誓いをたがえない事を言明した。


と、いう事で、俺とテランスさんは早速王都へやって来た。


今回、俺達ふたり以外には、

黒白ぶちの妖精猫ケット・シー従士のジャンも一緒。

こういう時、奴の持つ王都の猫ネットワークを大いに活用するのだ。


さてさて!

王都入りは、当然、正門からの正規入場ではなく、別宅への直接の転移である。


瞬時に光景が変わり、目をぱちくりするテランスさん。

まだ転移魔法には慣れないらしい。


以前にも述べたが、俺の隠れ家は王都貴族街区の端っこ。

極力目立たない家。


だがあくまで、貴族街区の中での話。

周囲が大邸宅ばかりだから目立たないだけ。


俺の王都別宅は一般庶民からすれば結構な邸宅である。

白亜の豪邸然とした趣きであり、何せ、部屋が15もあるのだ。


調度品も、キングスレー商会のマルコさんが気合を入れて手配してくれ、

高級品があちこちに配置されていた。


「ほえ~」


落ち着き、周囲を見回して驚くテランスさん。

しかし、いつまでもぐずぐずしてはいられない。


「さあ、テランスさん、身支度をしたら、すぐに出かけますよ」


「はっ、はいっ!」


そして傍らで控えるジャンにも。


「ジャンも、速攻で用意してくれ。出発したら別行動、段取りは伝えた通りだ」


「ケン様! 了解! いつでもOKにゃ!」


俺の指示に肉声で返事をしたジャン。

最近ジャンは、身内のみの場では、念話と肉声を使い分けていた。


「うっわ! ね、猫がしゃべった!?」


驚くテランスさん。


そういえば、従士達の説明をしておかなかったか。


すかさずジャンが反論。


「ごら! 愚か者! 俺様は猫じゃない! 妖精猫ケット・シーにゃ!」


「うっわあ!」


「落ち着いて、テランスさん。彼は害のない妖精の猫ですよ。ケット・シーの話は聞いた事があるでしょう?」


「は、はい! そ、そういえば……聞いた事が……」


ここで、俺は他の従士達についても伝える事にした。


「ついでに言いますと、ウチの犬は魔獣ケルベロス。馬も2頭とも魔物で、全員が俺の配下。まあ、害はないので、宜しくです」


「ほえ~、全員が従士で魔物!?」


引き続き、目を白黒させ、のけぞって仰天するテランスさん。

このままでは、まともに街を歩けない。

俺は仕方なく、鎮静の魔法をかけたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


別宅を出て、ジャンはダッシュ! まるで弾丸の如く、一目散に駆けて行った。

早速、配下達と打ち合せをして、王都中を聞き込み&捜索してくれるという。

住所が不明なふたり、そして5人のうち、もしも誰かが旅に出ていても、

「何らかの情報は得られる」と余裕の雰囲気であった。


まだジャンの正体が信じられないという雰囲気……


ぽけーっとジャンを呆然と見送るテランスさんを促し、

まずは、最初のひとりめの自宅へ向かう。


今回の王都内巡りは、いわば「職人さん、や~い」の小旅行である。


別宅を起点にし、事前に取材しておいた住所を王都の地図で付け合わせ、コース化してある。


なので、その通りに回ればOK。


野郎同士のふたり組みなので、ナンパの心配はしなくても大丈夫と思っていたら、

一軒目が少しガラの悪い町にある家で、俺達は真昼間から路上強盗に遭遇した。


相手は愚連隊風の3人組。


刃物を忍ばせているぜ!

というアピールを大仰にして来る。


「ケ、ケン様」


「ノープロブレム、問題なし。大丈夫ですよ、テランスさん、こんなクズどもはね」


「くっそ! 生意気だぞ、てめえ!」

「ぶっ殺してやる!」

「ガキがあ!」


俺の言葉が聞こえたのか、愚連隊3人はこちらへ殴りかかろうとした。


こういうクズに限って、こちらが手を出すと、正当防衛をうたったり、

一方的なうそごまかしの被害者を装う場合もある。


時間も限られているし、指一本も触れず、撃退するのが賢明である。


ぎん!

と俺の瞳が妖しく光る。

威圧のスキルを発動したのだ。


こんな低レベルどもは、魔王やドラゴンの威圧などもったいない。


ゴリラのような魔物、オーガくらいのレベルで、充分に追っ払える。


「ぎゃああ!」

「お、お助けえ!」

「ぴぎゃあ!」


拳を振り上げ、鬼のような形相で、俺達に向かって来ようとした愚連隊3人だが、

俺のスキルで一転。

泣きそうになり、情けない悲鳴をあげ、遁走してしまった。


「ほえ~、な、何なんですか? い、一体!? な、な、何が起こったのですかあ!?」


「いや、スキルを使って追っ払っただけです。ウチの嫁がナンパされるんで良く使うスキルなんですよ」


「は、はあ……」


「さあ! おひとりめのお宅はすぐです。行きましょう」


「わ、分かりました」


というわけで……

俺とテランスさんは、5人の住所を3時間ほどかけて回った。

本当は転移魔法が楽だが、万が一目撃されたら面倒だし、

馬車を借りたら、移動は早いが、手続き等に手間がかかる。

だからひたすら徒歩だ。


結果は、3人が在宅。

ふたりは不在であった。


但し、これらは魔力感知の波動によって在宅か、不在を確認したもの。

俺の魔法なら、これで夢に接続出来る。

なので、先に決めた通り、本人へのリアルな直接訪問はナシである。


俺達が別宅へ帰ると、すでにジャンは戻っていた。

聞けば、得られる情報はすべてゲットしたという。


これで準備の第一段階はOK。


さあ!

今夜から、職人さん達の夢の中で説得だ。


それに今から、速攻で帰れば、余裕で夕飯に間に合うだろう。


俺は、ちょっと疲れた感のあるテランスさんへ回復魔法をかけた。


そして、転移魔法を発動。

一行はボヌール村へ帰還したのである。

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